軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第374話、人はやってくる

銀の翼商会のいるゴールデンウィング二世号に、人がやってきた。

『あれが、六色の魔術師ソフィアとティーガーマスケがいる銀の翼商会の船だよ』

飛空艇が観光名所みたいになっているが、野次馬ならまだ優しいほうだ。遠巻きに見られるだけなら、時々手を振ってやってもいいだろうと、ソウヤは思う。

飛空艇発着場は、王国の管轄で関係者以外は立ち入り禁止である。だから部外者は船の周りまでは近づけるが、そこから先には許可なく入れない。

が、訪ねてくるお客は別である。面会希望があれば、係の人間がやってきて、ソウヤも対応しなくてはならない。

純粋に商人が挨拶に来るのはまだいい。ここは銀の翼商会で、商人同士が繋がりを作ること自体は普通のことだ。

上級貴族の子飼いとか、とりあえず関係は薄いが売名目的とか、面倒な相手も少なからずいたが。

「ふむ……」

厄介なのは熱心な弟子志願者たちである。そこでこちらが渋い顔を見せれば、今度は商会に置いてほしいと切り口を変えてくる。

はっきり言えば、人員を募集したおぼえはない。商会を王国一にしようとか、大層な目的があるなら、この隙の多い商会をまともにできる人材を集めるのはありだろう。

だが、それほどお金持ちになるつもりもなく、魔王軍の残党と事を構える率が高まるだろう今後を考えると、少々考えてしまうわけだ。

「正直に言えば、事務や商売のできる人材がもう少しいてもいいと思う」

そう言ったのはジンである。ソウヤは苦笑する。

「それには同感だがね。……でもやってくる人材がね」

冒険者、魔術師などなど、いわゆる戦闘職ばかりだった。

「偏りがあり過ぎる」

「魔法大会でのソフィアとセイジの活躍の影響だな」

ジンは顎髭を撫でた。

「魔族と戦う時はまあ、役に立つんだろうけど……」

「あまり実力のない者が増えて犠牲者が増えるのも困ると」

「また、アイテムボックスに重傷者を収容するのは勘弁だ」

苦いものがこみ上げる。いま銀の翼商会には聖女であるレーラがいる。即死でなければ助かる可能性は高くなってはいる。

「それに、別にこいつら魔王軍の残党と戦うために志願したわけじゃないしな」

自分の力を高めたいという動機が主だ。いざ戦争となれば、さっさと立ち去ることだってあり得る。

「王陛下のところからも、何人かこっちへ来るんだろ。ただでさえ間に合ってますって状況だぜ?」

そもそも面倒見れるの? と、ソウヤは指導役を務めることになるジンを見た。

「なら、こう言えばいい。弟子入り条件は、銀の翼商会での労働も含まれる、と」

「……? それって何か変わる?」

ちょっと理解が追いつかなかった。そんなソウヤにジンは言う。

「今までは『弟子入りしたい』、商会の仕事があるから駄目。じゃあ『商会に入って仕事しますから弟子入りを認めてください』だっただろう? 弟子になるために、その場でくらいつくのと、最初から労働が条件付けられていることを知っているのとでは、気持ちも違ってくるさ」

「あー、そういうことか」

最初から修行に専念したい、ってタイプは、来なくなるか。

「でも、あんま変わらない気がするが……」

「10人面接しなきゃいけないのが、告知ひとつで9人か8人になるかもしれないなら、どうかね?」

「やるか」

ソウヤは現金だった。元々、面接のことはよくわからない。さらに人が良すぎるから、苦手意識が強かった。

ジンは淡々と指摘した。

「初めからすべて断ってしまえば楽だと思うがね」

「爺さんも陛下の前で言ったろ? 魔族の脅威が迫っている中、優秀な奴は必要だって。うちで魔術を教えるっていうなら、それに合致した有望株もいるかもしれねえ」

「指導するのは、私なのだが」

「逃した魚は大きい……ってことはしたくないとは思わね?」

弟子入り希望者の中には、金の卵がいるかもしれない。あの弱々だったセイジが、大会優勝者になるくらいだ。才能を前にして、それをスルーしてしまうのはもったいないと思うのは間違っているだろうか?

「とはいえ、もし採用したら、色々考えないといけないんだけどな」

ソウヤは頭をかいた。

「アイテムボックスのことは、魔法の空間とでも言っておけば、まあごまかしがきくだろうとは思う」

イリクが同行した時も、それで特に問題にならなかった。アイテムボックスと言わず、魔法空間というだけで何とかなってしまうこの世界。

「他に気がかりはあるかね?」

「ドラゴンのこととか」

ミストや影竜はあまり人が増えるのを歓迎しないだろう。他のドラゴンが歓迎しているかといえば、そんなこともないが。

「そこは注意してみるしかあるまい。……面接事項にドラゴンに関する考えも入れたらどうかね? 危険だと思えば落とせばいい」

「そうしよう」

何だか面接っぽくなってきたような気がした。

「せっかくだ、これから来る希望者に備えて面接要綱ってやつを固めておくか」

繰り返すが、商会的には人手が足らないということはない。将来の有事に備えた、技術指導のほうで、である。

だから、主に面倒を見ることになるジンのほうでも、条件を出してくれたほうが断然いいだろう。

ということで、ソウヤはジンと、ついでにオダシューを呼んで、面接の内容について話し合う。

なお呼ばれたオダシューは最初、首をひねっていた。

「なんで、おれを呼んだんです?」

「お前はカリュプスで色んな人間を見てきただろう? 観察眼に長けていると思う」

「光栄ですが、観察眼ならセイジの奴のほうが」

「長年、人を見てきたという点ではお前のほうが経験があると思うね」

それに――ソウヤは苦笑する。

「憧れのティーガーマスケの中の人が面接の場にいたら、そっちばかり気になってしまうだろう?」

「確かにそうですね」

オダシューもつられて笑った。

「てぇことは、おれもその面接に参加ですか?」

「純粋な志願者だけなら問題はないが、どこぞのスパイとか、邪な感情で潜り込もうとする奴がいても困る」

そういう奴を見抜く勘は、暗殺者集団カリュプスの副リーダー格であったオダシューは鋭いだろう。

「わかりやした。ご指名とあらば、やらせていただきます」

「よろしく。頼りにしているぞ」

ソウヤは、さっそく面接のための準備にかかった。