作品タイトル不明
第361話、企む者たち
ザンダーは闘技場を後にした。
午後の試合が始まる時間が近づいているのだろう。王都の人間たちが会場へと入っていく。
それらの間をぬって進み、王都の路地裏へ。そこまで来ると人の気配もなくなる。
黙々と歩くザンダー。しかし、灰色ローブの男は、いつの間にか二人増えて三人となっていた。
「首尾は?」
「ああ、装置は手に入れた」
ザンダーは、振り返ることなく答えた。
「人間と協力することになったがな」
「……」
それについて、後の二人は答えなかった。
一定範囲内の魂を収集する魔道具。ソウヤたちと発見し、魔王軍から奪った後、破壊した。
だが実際のところ、破壊されていなかった。あの時、装置に触れたザンダーは、中の機械を魔法で入れ替えた。
外装のない中身は、ザンダーの所有するアイテムボックスの中。では破壊された装置の中身といえば、適当な金属屑を転送し入れ替えたのだ。
――あの時、魔術師が圧縮して消滅させてくれて助かった。
もしソウヤが力任せに破壊したなら、中身に違和感を抱かれる可能性もあったのだから。
「装置が手に入ったのなら――」
先ほど聞いてきた後ろの男が言った。
「我らの主の復活も近い」
「装置は効果的なタイミングで使わねばなるまい」
ザンダーは淡々と言った。
「魔王軍の動きも近い。本当は魔王が復活してから動こうとしていたようだが……」
「今回の失敗で、計画を前倒しにする可能性はあるな」
「人間どもに戦争を仕掛けた時、魔王軍は――」
「装置の生け贄となる。我らの主の復活だ」
三人は、王都の闇へと消えた。
・ ・ ・
魂収集装置を破壊した後、ソウヤたちは駆けつけたミストに事情を話し、続いてアルガンテ王に会って、またも事情説明をする羽目になった。
ミストは単純に、魔族相手に暴れられなかったことに不満だが、アルガンテ王は、魔族が侵入していた事実にショックを受けた。
「王都の民が犠牲になるところだったとは……」
もちろん、その時は王やその側近も含め、やられていただろう。
ソウヤは言った。
「オレんところの者で、他に闘技場内に不審なモノや魔族がいないか確認させています」
休みを与えた早々に呼び戻すことになったのは申し訳ないが、人の命が掛かっているから仕方がない。
カーシュやメリンダら騎士組にも手伝ってもらっている。
「では、王国軍からも兵を出して調べさせる」
アルガンテ王は近衛騎士団の長を呼び、命令を発した。そしてその後、ソウヤとジンに頭を下げた。
「よくやってくれた。お前たちが動かなかったら、我らの命もなかっただろう。ありがとう」
後で褒美がもらえるとのことだった。
一通りの話の後、会場に戻るソウヤたち。ミストは、ソフィアたちのもとへ行き、ドラゴンたちも、自分たちの『応援席』とやらに戻った。
「会場の安全が確認されるまで、試合は延期なんだけどな……」
呟くソウヤ。そこで、先ほどから沈黙している老魔術師を見やる。
「爺さん、どうしたんだ? 疲れたかい?」
「いや……。ちょっと覗き見をしていた」
「魔法を使ってか?」
そんな様子は見えなかったが――ソウヤは唇の端を吊り上げる。
「で、何を覗いていたんだ? 女の着替えか?」
「いや、例のザンダーだ」
茶化したら、真顔で返された件。ソウヤも表情を引き締めた。
「裏が取れたのか?」
「ああ、彼は、やはり腹に一物抱えていた」
ジンは語った。
ザンダーとその仲間は、彼らが『主』と呼ぶ存在がいて、それを復活させようとしていること。そして魔王軍をその生け贄にしようとしている、と。
「魔王軍と敵対している、というのは本当だったということか」
「その可能性は高いね」
ジンは顎髭を撫でた。
「気になるのは魔王軍の動きだな。もしかしたら近いうちに攻勢をかけてくる恐れがある」
大規模な攻撃。また人類と魔王軍との戦争になるのか。
「ザンダーが言うように、その魔王軍をまとめて装置で吹き飛ばしてくれるなら、少しは楽になるんだろうがね……」
そう口にしたジンだが、表情は冴えない。
「ただ、彼らが主とやらを復活させるだけで終わらないだろう。その目的がまだ見えていない」
「魔王に成り代わり、自分たちが世界を支配するって可能性もあるわけだ」
結局、戦争となるパターンも考えられる。
「その場合、ザンダーたちは漁夫の利を狙ってくるだろう」
ジンは思案する。
「たとえば魔王軍を装置に利用しようとするにしても、人間の軍と戦っている戦場で使うとか、双方にダメージを与えられる形が最高だ」
「あの装置が、奴らの手に渡ったのが痛かったな……」
「あのわずか一瞬の間にすり替えるとはな。やるものだ」
壊したつもりだったのだが、その前にすでに偽物だったから、結局破壊できなかったということになる。
「どうする、爺さん。ザンダーとその仲間を追うか?」
「……目的や組織、その規模やアジト。わからないことだらけだからな。しばらく泳がせて情報を探ろうと思う」
ジンは断言した。
「それに、彼らはこちらに情報提供をしてくれるという話だった。魔王軍への嫌がらせのためなら、本当にそうするだろう」
「敵の敵は味方、か」
少し前にそう口にしたものの、今度はニュアンスが少々異なる。
「もちろん、彼らが全てを明かすとは思えないが、こちらを利用しようとしているように、あちらも利用してやろう」
ジンはそう言うと、闘技場内へと歩き出した。
「とりあえずは、今はこの大会を見守ることにしよう」