軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第353話、それは瞬きの間に

ティーガーマスケの対戦相手は、紅蓮のロッソ。火属性魔法の使い手らしいが、なるほどその紅いマントと炎の意匠は、見るからにそれとわかる。

「戦士か。昨日生き残ったのは偶然だってのを教えてやる!」

闘志満々のロッソである。

対するティーガーマスケは無言である。しかし表情はマスクで隠れているので、黙っていても不気味さがあった。

いや、バトルロイヤルの動きを思い出せば威圧感かもしれない。剣を構え、加速の姿勢になる。

審判が『始め!』と宣言した。

円形のリングの上での1対1。ロッソは攻撃を選択した。

「紅蓮よ! 焔よ! 灼熱の弾となりて、我が敵を――」

呪文詠唱。その間にティーガーマスケは突っ込んでくるだろう。――しかし奴の加速魔法のスピードではオレが詠唱するのが速い!

ロッソはしかし目を見開く。

飛び込んできたのは電撃弾。

「!?」

やられた。電撃の魔法が直撃し、ロッソを守る保護する護符が発動。その体を場外へ転送した。

秒殺だった。

「勝者、ティーガーマスケ!」

審判の宣告に、会場がどよめいた。

『うおーっと、魔法です! ティーガーマスケ、ライトニングの魔法で、紅蓮のロッソを瞬殺です!』

『これは意外でした。火属性より雷属性のほうが速いですが――』

実況に続き、解説者らしい声が響いた。

『てっきり、加速での肉薄を選択すると思ったのですが。ロッソ魔術師も、おそらくそう判断しての炎の魔法詠唱だったのでしょうが、裏をかかれましたねぇ』

・ ・ ・

「裏をかかれた、とさ」

ソウヤは、ジンに視線を向けた。

「剣を手にした戦士は、十中八九、近接戦を挑む……そう先入観が働いたのだろうね」

老魔術師は腕を組んだ。

「セイジも役者だよ。いかにも突っ込みますと、前のめりに構えてみせた。昨日の加速で走り回ったのを見ていれば、相手は肉薄してくるとふんで、攻撃魔法を選択する」

「防御の魔法は?」

「魔術師というのは、戦士に近づかれるのを恥だと思うものだ」

老魔術師は苦笑した。

「何故なら、魔法は、戦士の届かない場所から放つことができる。アウトレンジができるのに、懐まで飛び込まれるのは、よほど多人数が相手でなければないことだ。1対1ではまずあり得ない。さらに、火属性の魔術師は、攻撃は最大の防御と考える者が多い」

「セイジは相手の性格まで考えて、魔法を選択した?」

「防御より攻撃を優先する。しかも火属性の魔術師。それより速度に優れた属性の魔法が使えるなら、後出しでも勝てる。セイジは、相手を引っ掛け、無防備にしたところを確実に一撃で仕留めたのだ」

魔力量的に、節約したいセイジは、1回戦を魔法一発でクリアしたわけだ。

「あいつ、頭いいな」

「観察眼は普段から鍛えているからね。自分は非力だと考えるからこそ、知恵をしぼる」

「邪道で行きます、なんて言うから、オレも突っ込むと思ったんだけど、あれもフリだったのかな」

「いや、おそらく最初は物理で行くつもりだったのだろう。だが相手と対峙したわずかな間に方針転換した。プランに拘泥しないところも彼の強みだと思う」

「お師匠様も大絶賛だな」

「よくやっていると思うよ」

ジンは認めた。

「まあ、まだ1回戦だ。ここからだよ」

「そうだな」

ソウヤは認めた。

セイジ――ティーガーマスケが戻ってくる。その間にも、次の試合が開始される。

「お疲れさん」

ソウヤが声を掛けると、ティーガーマスケは頷いた。

「ありがとうございます」

「一発だったな」

「相手が火属性でしたから」

顔はマスクで見えないが苦笑したようだった。

「下手に近づくと、かえって危ないな、と思いまして。火属性には、周囲に炎の壁を形成するファイアウォールという防御魔法がありますから。あれ、物理攻撃主体の戦士だと火傷確実の天敵みたいな魔法ですし」

だから近づかずに、ライトニングを撃ったという。

「でも、これで次からの対戦相手も対応に迷うんじゃないかなって思います」

ティーガーマスケは、闘技場のリングで戦っている魔術師らを見る。

「僕が肉薄するのか、あるいは攻撃魔法を使ってくるのか」

「いまの戦いで、ティーガーマスケはどちらもできることを知らしめたからね」

ジンが補足するように言った。

「ティーガーマスケのライトニングは魔法カードだから、詠唱タイムはほぼゼロ。早撃ち勝負でも有利だ。……その場合、君がティーガーマスケと戦うとしたら、開幕はどうするね?」

「オレか? そうだなぁ……。オレなら防御を構えて、早撃ちに備えつつ、次の出方を窺うかな」

「……だそうだ、ティーガーマスケ」

「はい。次は、相手がまず防御を固めるのを想定して組み立てます」

もちろん、相手の性格で、必ずしもそうはならないだろうが、ある程度の傾向と、その対策はできる。

トーナメントは続く。派手な魔法を放つ者もいれば、やたら早撃ちする者がいたり、ティーガーマスケ同様、魔法を使う戦士もいたりと、その戦いぶりに、観客たちは一喜一憂した。

ソウヤはジンと、それらを観戦。

なお銀の翼商会のカリュプスメンバーたちは、本日も売り子として客席で水とツマミを販売していた。

試合は順調に進み、1回戦最終試合がやってきた。

いよいよソフィアの登場だ。ソウヤやティーガーマスケがいる東側ではなく、反対側の西側ゲートから登場する、六色の魔術師ことソフィア。向こうのサポート席には、ミストとリアハがいるはずだ。

それで、肝心の試合であるが――

『えー、皆さんにお知らせです。ソフィア・グラスニカ魔術師の対戦相手である、ジェミド魔術師が体調不良につき、参加を辞退しました。よって、ソフィア魔術師の不戦勝となります!』

六色の魔術師の活躍を期待していた観客たちから不満げな声が上がる。

「……対戦相手は逃げたか?」

ソフィアにとても敵わないと判断して。

「かもしれないし、あるいは本当に体調不良かもしれない」

ジンは顎髭を撫でた。

「何にせよ、勝ちは勝ちだ」