軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第34話、最初はみんな素人

ロッシュヴァーグ工房は、今日も景気よく金床を叩く音が響いている。ドワーフの名工の弟子たちが額に汗を流して作業を進める。

熱気と息が詰まりそうな集中力。そんな中、ミストとセイジは、工房作の武器が陳列されている棚に行って、そこでここの弟子から説明を受けていた。

プトーコスの雑貨店でもそうだったが、ここでもミストは何やら真剣な目で武器を凝視している。セイジは、おそらく武器の値についての情報集めをしていると思われる。

一方、ソウヤとロッシュヴァーグは休憩所でくつろいでいた。

「最近どうだい?」

「まあ、ボチボチじゃな」

ロッシュヴァーグはカップの茶を飲む。

「お主は眠っておったから知らんだろうが、魔王が倒れてから魔族の連中も急激に弱体化した。戦争は終わり、ここ数年、武器の需要が減った」

「戦時需要ってやつだな」

戦いがあれば、それだけ武器が必要になる。また使っていれば壊れるのも然り。平時とは比べものにならないほど、大量の武器が使用され、そして消耗するのだ。

「平和になれば、そこまで大量に作る必要もなくなる。戦時にはあれほどいた武器職人も、かなり減ったわい」

「でもあんたは残っただろう?」

ソウヤは工房を見やる。勇者時代、行動を共にした時はあまり群れたがらなかったロッシュヴァーグだったが、なかなかどうして大勢の弟子を抱えている。

「あの魔王討伐とそれに関係する戦争で名が売れたからのぅ。お主と行動した腕利き職人ということで生き残れた口じゃ」

「またまた、ドワーフが謙遜かよ」

笑うソウヤに、ロッシュヴァーグは真顔で首を横に振った。

「作るのはな。じゃが、それ以外のところはワシはトンと疎いからのぅ。工房の仲間たちのおかげじゃ。それがなければ、転職を考えねばならなかったかもしれん……」

「……あんたも苦労したんだな」

しみじみとしてしまうソウヤ。ロッシュヴァーグは肩をすくめた。

「まあな。ようやく需要と供給がトントンになって、職人たちも落ち着いてきてはいる。戦争はなくとも、武器の需要はあるもんじゃからな」

「魔獣が徘徊している世界だもんな。そりゃ武器は必要さ」

だから武器職人が、必要なくなるなんてことは絶対にないと言える。

「そういえば、ソウヤ。需要の話で思い出したが、最近、何やら武器の注文が増えているらしい。うちの工房だけじゃない。王国の武器職人の界隈で」

「……穏やかじゃないな」

ソウヤは顔をしかめた。最近の武器の注文がそこかしこで増えている。それは――

「どこかと戦争でもするつもりかね?」

「どこかで反乱が起きたとか、隣国と不仲とか、その手の噂は聞かん。じゃが、ここのところ、魔獣による被害が増えているという話もある。噂じゃと――」

ロッシュヴァーグは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「魔族の連中が動いているかもしれん、と」

「……魔族」

苦虫はソウヤにも伝染した。魔王は倒した。だがその配下、つまりは魔族がまだよからぬことを企んでいるかもしれない。

――そういや、ミストのいた霧の谷にも魔族が入り込んでいたな……。

「魔王の復活」

「なんじゃと!?」

思わず立ち上がるロッシュヴァーグ。ソウヤはヒラヒラと手を振った。

「魔族の、魔王軍の残党が動いているなら、そういうのもあるかもしれないってことさ」

「うむぅ……」

ロッシュヴァーグは腕を組んで腰を下ろした。

「今のところ、証拠はないということじゃな」

「注意する必要はあるだろうな」

重苦しい空気が漂う。金属を叩く音が工房に響く。

どれくらいそうしていたか、ロッシュヴァーグはガリガリと頭をかいた。

「まあ、魔族のことはこの際、置いておこう。……それで、お主、行商になったとな?」

「ああ、銀の翼商会」

「『黄金の翼』が懐かしく感じる名じゃのう」

笑うロッシュヴァーグ。

「しかし、何でまた?」

「色々なところを見て回りたかった、っていうのはある」

勇者時代は、ゆっくり観光している余裕はなかった。魔王討伐のために、また窮地の民あれば救わんと努力した。

「平和になった今、オレのアイテムボックスが活かせる仕事って何だろう、って考えた結果でもある」

「それで行商か?」

ロッシュヴァーグは肩をすくめた。

「お主、商人はド素人じゃろ?」

「似合わない?」

ソウヤは真顔になる。

「人間、誰しも最初は素人だよ。オレだって、最初から勇者だったわけじゃねえし」

この世界に召喚されるまでは、ちょっと力がある以外は、ただの高校生だった。

「歳をとってから始めても、遅すぎるってことはないと思うがね」

「そうさな」

ロッシュヴァーグは頷いた。

「いや、ワシは生まれてこのかた、職人以外の道など考えたことなかったからのぅ。本当のところはよくわからん。他の職に就いたとして、上手くやっていけるとは思えん」

「失敗することはあるだろうよ。でも人生ってのはそういうもんだろ?」

たとえ天職だろうが、何もかも上手くやれるということもあるまい。ミスだってあるだろう。

「何か自分以外の理由で続けられないってことになるまでは、失敗したとしても、やり続けていいと思う」

ううむ――ロッシュヴァーグは顎髭に手を当てて考え込む。ソウヤは言った。

「生き残った分、しっかり生きていかないとな」

「……そういえば、お主のアイテムボックス……まだ中には瀕死の者が?」

「いるよ」

「聖女もか?」

「ああ……」

ソウヤのアイテムボックスに保存されている死亡寸前の人たち。その中に、某国の聖女様も含まれる。魔王討伐の旅で致命傷を負ってしまった彼女を救うには、奇跡が必要だった。

「行商になった理由のひとつだな。秘薬を探して手に入れる機会を増やす」

「というと?」

「奇跡の回復薬とか、エリクサーとか、その手の情報を商人サイドから得られればと思っている。あるいはそれらを手に入れた奴から、大金払って買うことも商人ならやりやすくなるだろう?」

「金が欲しければまず商人に売ろうとするもんじゃからのう」

「冒険者でもよかったかも、と思ったが、冒険者がエリクサーの買い取りとかって、何に使うんだろうって怪しまれるかなって」

なるほどなるほど、とロッシュヴァーグは納得した。ソウヤは意地の悪い顔になる。

「そういうわけだから……ロッシュ、どこかでエリクサーの噂とか聞いたことない?」

「そんな簡単にわかれば苦労はせんわい」

「……だな。じっくりやっていくしかないよな」

雲を掴むような話だ。ソウヤのアイテムボックスに保護している重傷者は、もう十年もそこにいる。できれば早く復活させてあげたいが……。

――俺も昏睡から目覚めて、浦島太郎だったけど、中の連中もそうだよなぁきっと。