軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第310話、戦ってわかることもある

どういう流れなのか、さっぱりわからない。だがミストとソフィアがタッグを組んで、クラウドドラゴンと戦っていた。

ミストは漆黒の戦乙女姿で、竜爪槍を手に、美女姿のクラウドドラゴンに突進する。――これガチでやりあってる?

「ジン殿、ソウヤ殿、これはいったい……!?」

イリクも困惑している。ソウヤも首を横に振った。

「オレにもさっぱり。……おい、ダル!」

観戦者を決め込んでいるエルフの治癒魔術師に声をかける。

「これはどういうことだ?」

「あー、模擬戦ですよ」

世間話をする調子でダルは答えた。その隣で同じくギャラリーをしているリアハが口を開いた。

「ソフィアの魔法大会に向けての演習らしいです」

「……戦っているのは、ミストがメインっぽいんだが」

それに何故、クラウドドラゴンが模擬戦の相手を務めているのか?

「――行け、ファイアボール!」

ソフィアが短詠唱と共に、杖をふりかざし、火の玉を十連発。

初めてソフィアの魔法を見たイリクが息を呑んだ。

「短詠唱! それも十発っ!」

意思をもっているように、火の玉が灰色髪の美女に迫り――

「フッ!」

クラウドドラゴンが手を突き出すと、火の玉が消えた。まるで誕生日ケーキのロウソクの炎を吹き消したかのように一瞬で。

「クラウドドラゴーンっ!」

ミストが再度の突撃をかける。空中に飛び上がって回避するクラウドドラゴン。

「ソフィア!」

「砕け! 氷牙!」

アイスブラスト! 氷の刃が瞬時に無数に形成されて飛翔した。人の姿で空中にあるなら、そこから回避はできない……はずだったが。

「笑止」

クラウドドラゴンが再び腕を突き出せば、氷の塊が見えない壁に弾かれたようにはじけ飛び、砕けた。

「風の壁か!?」

イリクが驚く中、その風の壁はソフィアに迫っていたらしく、彼女は飛び退いてかわした。

「隙あり!」

ミストが急上昇し、クラウドドラゴンに迫る。しかし、灰色髪の美女は嘲笑した。彼女に迫った槍は、反発する磁石のように逸れてしまう。

「風を破るには、足りなかったようね」

クラウドドラゴンは、空中で腕を組んで立っていた。まるでそこに足場があるかのように。

「ソウヤ、見えるかね?」

ジンが、クラウドドラゴンの足元を指さした。

「あそこに風が渦を巻いている。彼女は、あの上に立っているのだ」

「マジか……!」

「風の上に立つ、とは!」

イリクは度肝を抜かれている。

「ジン殿、そのようなことが可能なのですか!? 見たことも聞いたこともありません」

「恐ろしく高度な魔法ではある。魔力を足先に展開することで、そこに足場を形成している。……ただ、実際のところは、浮遊魔法の一種だ」

種明かしされるとなんてことはない。一見すると複雑。しかし老魔術師が言うと、さほど難しいことではないように聞こえてしまう。高度な魔法と言ってはいるが。

「もう終わり?」

クラウドドラゴンは挑発した。ミストは槍を構えたまま口を開いた。

「ソフィア、どう? あの風の幕を突破する方法に目星はついたかしら?」

「うーん、私では、ちょっと難しいです」

ソフィアは頼りない発言をした。ミストは苦笑した。

「あなたがクラウドドラゴンの風を抜けないのはわかってるわ。伝説級のドラゴンをなめないで」

わかってるのか――聞いていたソウヤは、ずいぶんな物言いに引きつった笑いしかできなかった。ミストは言った。

「でもいくつか方法くらいは浮かんだんじゃないかしら?」

「ええ、たぶん、効かないと思うけど……」

「よろしい。では、それをひとつずつ検証していきましょうか」

ミストとソフィアで話し合いが始まる。ポツンと宙に浮いているクラウドドラゴンが、わずかに眉を下げた。

「もう終わり?」

「あー、ありがとう、クラウドドラゴン。もういいわ」

古竜をあっさりと手放し、ミストはソフィアの師匠に戻った。

模擬戦は唐突に終わった。勝ち負け的にはどうなのだろう? ソウヤをはじめ、ギャラリーたちは困惑してしまう。

「ソウヤ殿、あの女性は――」

イリクがソウヤの袖を引っ張った。

「クラウドドラゴンと呼ばれていたのですが……まさか、ドラゴンなのですか!?」

――あー、これバラしていいんだろうか?

ソウヤは首をひねる。ミストが散々、クラウドドラゴン呼びしていたので、今さらでもあるのだが。

困ってジンに視線をやれば、彼は頷いた。言ってもいいと解釈し、ソウヤは告げた。

「イリクさん、あれはクラウドドラゴン。四大竜の一角で風を司る、トップクラスのドラゴン……その人化した姿です」

「四大竜! 風のクラウドドラゴンっ!!」

当然のごとく、イリクは発狂寸前の声を上げた。これにはクラウドドラゴン当人はもちろん、ミストと魔法の検討をしていたソフィアも気づいた。

「お、お父様!?」

見られていた――そう思ったのもつかの間、肝心のイリクの関心は伝説のドラゴンのほうに向いていた。

「ソ、ソウヤ殿!? 銀の翼商会には、子ドラゴンのほかに、伝説級のドラゴンまでいるとは……いったいここは何なのですかっ!?」

「いや、何って……行商ですよ」

ソウヤとしては、そう答えるしかない。イリクはブンブンと手を振り回した。

「行商に! ドラゴンなんて! いません!」

「そうは言っても……」

ミストに、影竜とその子供たち。そして、いつの間にか同行するようになったクラウドドラゴン。

――確かに、これのどれか一人ならまだしも、こんなにドラゴンがいるところって、たぶん世界を探してもないだろうなぁ。

言われて、改めて気づく異常な光景。これだけで見世物になるくらいの状態である。……もちろん、ソウヤは、ドラゴンを見世物にするつもりなどなかったが。

年甲斐もなくテンション高いイリクを尻目に、やはり自分のことを見てもらえなかったと解釈したソフィアが落ち込んでしまうのだった。