軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話、嵐とドラゴン

『あの嵐が何なのか私にはわからないよ』

大精霊が、ジンの問いにそう答えた。

『嵐が発生した時に、あの場所にいたならともかく、私は下見でよそに出ている隙だったからね。おかげで本体に戻れず、中がどうなっているかもわからない』

しん、と室内が静まった。顔を見合わせる仲間たち。オダシューが難しい顔で言った。

「やっぱ、魔族の仕業ですかねぇ……」

「何でも魔族のせいにするのは賛成できないが……」

ジンは顎髭を撫でた。

「可能性は充分あるだろうね」

「嵐を突破しないと、中に入れない……」

ライヤーの眉間にしわが寄る。

「せっかく直したのに壊されるのは勘弁だぜ」

「防御魔法で何とかならないか?」

ソウヤはジンを見た。

「グレースランドの時に、呪い避けで完全魔法防御のフダ作っただろ? ああいうのを防御に応用したら――」

「おそらく突破する前に、魔力が切れて防御魔法が解けてしまうのではないかな」

ジンは、ミストへと視線を向けた。実際に嵐を見ている彼女に意見を聞いているのだ。そのミストは鼻をならした。

「あの強い嵐は、防御魔法とか障壁で防げるようなものじゃないでしょうね……。ある程度は保つかもしれないけれど、そこから先は保証できないわ」

「お手上げ、ですか……」

リアハが心持ち肩を落とした。

「いや、まったく心当たりがないわけじゃないわ」

「本当か、ミスト?」

ソウヤは期待を込める。ミストは難しい顔のまま、首を捻った。

「たぶん、アレに頼めば、嵐くらいはどうにかなると思う……」

どこか歯切れが悪かった。

「アレ、とは?」

「クラウドドラゴン」

四大竜のひとつ、風の古竜、それがクラウドドラゴン。

「アースドラゴンほどではないけれど、高齢のドラゴンではある。風を操り、嵐を起こしたり鎮めたりするのはお手のもの。厄介な嵐も、クラウドドラゴンに頼むことができれば、消すことができるわ」

「天候を操るドラゴンか」

ジンが考え深げに言った。ミストは頷く。

「一応、ワタシは風の属性持ちだから、会うことができれば、もしかしたら協力してくれる……かもしれない」

やはり歯切れの悪いミストである。

「かもしれない、とは?」

「非常に気まぐれで、正直、こちらの思っている通りに動いてくれるかわからない」

ミストはため息をついた。

「話は聞いてくれると思うのよ。でも、協力してくれるかは……ちょっと自信がないわ」

「でも、完全に断られるとか、無理って決まったわけじゃないだろ?」

それなら、可能性があるのではないか、とソウヤは思う。

いつぞやの、テリトリーに入ったら絶対殺すと名高いファイアードラゴンよりは、よっぽどマシと考える。

「案外、話せばわかってくれるかもよ」

「旦那、アースドラゴンの時は、お土産を持っていっただろう?」

ライヤーがニヤリとした。

「クラウドドラゴンさんとやらにも、何かご機嫌取りの品を用意するってのはどうよ」

「なるほど」

それは悪くない。アースドラゴンも、ミスリルタートルを献上したら、上機嫌だったのを想い出す。

「それ、採用。ミスト、クラウドドラゴンが喜びそうなお土産って何かあるか?」

「さあて、心当たりがないわね」

ミストは肩をすくめた。

「ドラゴンなんて、大半が引きこもり。お互いの好き嫌いを知っているほうが珍しいわ。……あ、でも」

そこで何か思いついたようだ。

「光モノが好きだったような。……宝石とか、キラキラしたものを集めているって話を聞いたことがあるわ」

「光モノ……」

――ミスリルなら、もうないぞ。アースドラゴンに食われた。

「金銀財宝が大好きってか」

お土産作戦は、やめておこう。

「それで、クラウドドラゴンは、どこに行けば会えるんだ?」

「世界の果てを、北東へ行った巨大な島。かつて文明があったけど今では滅びたとか言われてるわ」

ミストの言葉に、ライヤーは反応した。

「それって、もしかしてウィスペル島?」

「知っているのか、ライヤー?」

ソウヤが聞けば、彼は相好を崩した。

「おうよ。飛空艇を手に入れたら行ってみたい場所のひとつだな。古代文明の遺跡が数多く存在するという、界隈じゃ有名な島だ。ただし――」

ライヤーは深刻ぶった。

「その島に行って生きて帰ってきた奴は、とある飛空艇とその乗組員だけだ。最初に見つけた奴から、話を聞いて何人もの冒険者や学者が目指したが、後から行った連中は誰ひとり帰ってこなかったっていう曰く付きだ」

「何で帰ってこなかったんですか?」

リアハが質問する。

「さあな。何せ誰も帰ってこなかったからな。ただ、ミストさんのいうクラウドドラゴンさんがいらっしゃる島だって言うなら、おそらく――」

「ドラゴンにやられた、か」

ジンが後を引きとった。ライヤーは頷く。

「そう考えるのが妥当かもな。最初の奴らは運がよかったのかもしれん」

「運がよかったというなら……」

ミストが口を開いた。

「あの気まぐれクラウドドラゴンが、お留守の時だったかもね。何故かは知らないけど、例の気まぐれを起こして、テリトリーの外へ出かけることもあるみたいだから」

「留守の時もあるのか……」

ソウヤは、精霊の泉を巡る一連の旅路を思い出し、眉を潜めた。ミストは苦笑する。

「たまに出かけるって話よ。あれで結構なお歳だし、じっとしていることが多いんじゃないかしら」

「とにかく、行ってみるしかないってことだな」

次の目的地が決まった。精霊の泉がある島を囲む嵐を吹き飛ばすために、クラウドドラゴンのもとへ行き、協力を求める。

「……という感じで、話がまとまりました」

先ほどから沈黙している大精霊を見れば、彼女は机の上で横になっていた。ソフィアが顔を上げた。

「大精霊様なら、寝ちゃったわよ」

あー、そう……――ソウヤたちは顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。