軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第230話、出現、マンティコア

ハンドゥワーの森を行く銀の翼商会一行。深い森の中を駆けて大型の魔獣が飛び出してきた。

「カーシュ!」

とっさに大型盾をかざしたカーシュが後ろへ倒れ込んだ。目にも留まらぬスピードで突進してきた四足の魔獣の体当たりを受けたのだ。盾がなければ尻餅だけでは済まなかっただろう。

マンティコア――人面の巨大ライオンが、一行の近くに立って吼えた。

だが次の瞬間、ソウヤの振り回した斬鉄がその頭を殴打した。その場に倒れ込んだマンティコアは、そのまま絶命した。

「やれやれ、こいつは図体のわりに速いな」

ソウヤは斬鉄を肩に担ぐ。

マンティコアは、一般的なライオンよりふた回りほど大きな体を持つ。だがその速度は、まさに刹那。まばたきしている間に距離を詰められ、やられてしまうだろう。

「ボスにかかれば、一撃ですな」

オダシューが、マンティコアの死体を確認する。

「さすがです」

「ありがとう。――カーシュ、無事か?」

「ああ、怪我はないよ」

盾に異常がないか確認するカーシュ。大型魔獣の体当たり同然の衝撃を食らったのだ。へこんだり、最悪壊れかけているということもある。

「盾も問題ない」

カーシュの盾は、魔王討伐時代から愛用されている聖騎士の盾という、魔法金属や護りの魔法などがふんだんに使用された特別製だ。マンティコアといえど、その体当たり程度ではビクともしなかったようだ。

――壊れないのはいい。買い換える必要がないから。

もっとも、聖騎士の盾は一般販売はされていない特注の品だが。

「ボス、解体しますか?」

「ここで、のんびりやってると血のにおいに釣られて、他の魔獣が来るかもしれない。アイテムボックスに入れて後で解体しよう」

「それなら、中で待機している連中に解体させておくのもありだと思いますぜ。どうせ暇してますし」

オダシューの提案に、ソウヤはなるほどと思った。うまくやれば時間の節約にもなる。

マンティコアをアイテムボックス内に放り込む。オダシューが待機組に説明してくるというので、ちょっと中へ行った。

では、先を進むとしよう。

ハンドゥワーの森の魔獣は、人が訪れたことがよっぽど嬉しかったのか、歓迎してくれた。

大トカゲ、ホーンラビット、ゴブリンにマンティコアといった具合だ。ホーンラビット自体は防衛本能で突っ込んでくるくらいで、さほど害はないが。

面白いのは、ここではゴブリンはマンティコアの捕食対象だということか。マンイーターとして知られるマンティコアも、人型に近ければ、何でもいいようだった。

一度、ゴブリンの集団に待ち伏せをされたが、ガルやミストの察知の前では無駄な努力。そのガルに剣で切られ、ミストの槍に貫かれた。

カーシュは後方のソフィアを守りつつ、ゴブリンを返り討ちにし、リアハもまた巧みな剣さばきで複数の敵を斬り伏せていった。

ゴブリン程度ではどうということはなかったか。

やはり要注意なのは、マンティコアだろう。

なにぶんこの魔獣は動きが速い。あっという間に距離を詰めてくる。森の中でもこれなのだから、障害物のない平原だったら本当にヤバイことになるに違いない。

「ま、初手さえ防げば何とかなる」

早期発見が肝だ。そしてまずは壁役が敵の一撃を阻止することで、マンティコアにも隙ができる。

「そこを素早く叩く。幸い、うちのメンバーなら一撃で仕留め――」

「……られるわけないでしょ、ソウヤ!」

ソフィアがぶんぶんと杖を振り回して抗議した。

「そんな簡単に仕留められるのは、ソウヤとミスト師匠くらいしかないわ!」

ソフィアのツッコミに、カーシュやセイジも苦笑いである。相手の急所を一突きで倒すガルでさえ、マンティコアを一撃で倒すのは――

「いや、もう少ししたらコツが掴める。たぶん、できるようになる」

淡々と、ガルは頼もしい言葉を吐いた。オダシューが笑った。

「ガルは、カリュプスでもかなりの逸材でしたから。コイツ、本当に一撃でマンティコアを仕留めますよ」

「腕利きなのは間違いない」

ソウヤも頷いた。しっ、とミストが視線を転じた。

「言ってる間に、もう一頭!」

そう警告した瞬間には、手にした竜爪槍を投擲した。次の瞬間、脳天を撃ち抜かれたマンティコアが滑りながらソウヤたちの前に現れた。

「……というか、死んでるなこれ」

頭にミストの投げた槍が貫通した状態で、絶命している。ミストは死体から槍を引き抜いた。

「案外、うまくいったわ」

「外したらどうするつもりだったんだい?」

「その時はその時よ」

ミストは不敵な笑みを浮かべた。

「さあ、先に行きましょう。泉は、すぐそこよ」

マンティコアをアイテムボックス内に収納。ソウヤたち一行は草木をかきわけ、さらに進んだ。

そして数分後、こじんまりとした泉に出た。

リアハが、すっと息を吸った。

「聖なる気配を感じます。ここが精霊の泉でしょうか」

「たぶんね」

ミストが視線を動かした後、ソフィアを見た。

「あなたも感じる?」

「ええ、綺麗な魔力の流れが見えます」

女性陣が話しているのを、男性陣は眺める。オダシューが屈んで、セイジの小声で言った。

「なあ、セイジ。お前には見えるか?」

「……うーん、僕にもわからないです。カーシュさんは?」

「身が引き締まるような空気は感じるけど、たぶん彼女たちが言っているものは見えてない」

ソウヤは、美少女三人に聞いた。

「大精霊とやらはいそうか?」

「……妖精はいるみたいだけれど、ワタシの目には、大精霊は見えないわね」

ミストは眉をひそめた。

――へえ、妖精か。

小さくて背中に昆虫の羽を持つフェアリーとか、そのあたりだろうか。

リアハは、泉のまわりを歩き出す。

「少し歩いてみましょう。もしかしたら隠れているのかも」

ソウヤたちは、泉のまわりを探索したが、結論を言えばここには大精霊はいなかった。

「まあ、最初から当たりを引くなんてのは出来過ぎってもんだ。こんなもんだろう」

マンティコアの肉や素材を手に入れたと思えば、まったく無駄というわけではなかった。一応、泉の水をいくらか回収しておく。

次だ次。エンネア王国にあるという泉へ行こう。