軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第223話、呪いは解かれた……しかし

グロース・ディスディナ城中央塔屋上。魔法増幅器とレーラを仕留めようとしたブルハだったが、魔術師ジンの巧みな剣に阻まれた。

まったく勝てる気がしなかった。ブルハは目の前の自称魔術師の老人に、言い知れぬ恐怖を抱いた。これはまるで、魔王と相対した時のような、心臓を鷲づかみにされたような感覚だ。

「いったい、あなた、何者?」

「単なる放浪者だ――」

ジンが瞬時に距離を詰めた。ブルハは後方へ跳躍して回避する。

だが瞬時に愕然とする。自分が考えている以上の大きな回避、ジャンプだった。中央塔から飛び出すぐらいの、自分でも飛びすぎがわかるほどの。

――このままでは落ちる!

だが、このまま何もできずに終わるわけにはいかない。ブルハは聖女と魔法増幅器だけでも撃とうと火球を具現化する。

その数、二十!

「行け!」

ファイアボール二十連発が、一斉に放たれた。結果を見届けることができずに、中央塔からブルハは落ちる。

結果から、言えば魔法は、すべて阻止された。ジンが全部、剣で叩き切ったのだ。

「……しかし、私も、ここまでだ、な……」

ふっと体から力が抜ける。立っているのも億劫なほど消耗し、ジンはその場に座り込んだ。

とても落下したブルハのそのあとを確認する余裕はなかった。

「ジン、大丈夫ですか?」

後ろで、フィーアが確認してきた。彼女は、レーラの前に立ち、最後の防壁として立ちふさがる構えだったようだ。

「……私は大丈夫だ。もっとも、歳には勝てんがね」

この消耗は歳のせいではないのだが、それは言うまい、と老魔術師は考えている。世の中には知らなくてもいいこともある。

「君は無事かね、フィーア?」

「はい、私もレーラ様も無事――」

言いかけた時、彼女の背後でバタリと倒れる音がした。

見れば、レーラが倒れていた。

「そんな! 攻撃は当たっていないはず!?」

フィーアはすぐに倒れたレーラに寄る。聖女レーラに、外傷は見当たらなかったが、顔は青ざめ、その呼吸はとても浅く小さかった。

・ ・ ・

グロース・ディスディナ城から、魔王軍残党は撤退した。

カルドゥーンを倒したことで、大将を失ったとでもいうのか。ブルハの姿は見当たらなかったが、魔族の姿は消え、呪いをかけられていた人々が人の姿に戻っていた。

リアハがそう言うのだからそうなのだろう。そういえば、ソウヤたちは、ここに乗り込んですぐ魔族と戦ったので、グレースランド王国の民がどんな姿に変わっていたのか見ていなかった。

グレースランド王国の危機は去った。――とそれで解決すればよかったのだが、そうはいかなかった。

呪いを解除するために国中に魔法を拡散させたレーラが倒れたのだ。

フィーアが呼びにきて、急いで屋上に戻ったソウヤ。ジンとソフィアが、レーラの傍らに膝をついていた。

姉が横たわっている姿に、リアハが慌てて駆け寄る。

「レーラ姉さん!」

「いったい何があった?」

ソウヤが聞けば、ジンは首を振った。

「呪いの解除に魔力を使い過ぎたのだ」

魔法増幅器によって、国中に解除の魔法を拡散させた。

「だが、魔族でさえ十日もかけて緩やかにかけたものを、たった数分の間に凝縮して解除魔法を使ったのだ。レーラ嬢は魔力欠乏で、命が危ない」

「そんな!」

リアハが驚愕する。

まただ――ソウヤは、レーラの青ざめた顔を見やる。

この娘は自分のことは二の次で、人を助けようとする。それで自分が倒れたら元も子もないのに、それでも頑なに力を使うことをためらわない。それで命を失うことになっても。

救える命は全部救おうとする。それが聖女レーラという少女だった。

「助けられないのか?」

「正直、厳しい」

ジンの視線が、レーラの手を握るソフィアへと向く。

「いま外から魔力を送り込んでいるが……時間の問題だ。死を引き延ばしているに過ぎない」

ソフィアは人より多く魔力をもっている。しかしそれも無限に提供できるわけではない。必ず、疲れて倒れてしまう。

「では、私の魔力を!」

リアハが申し出た。しかしジンは首を横に振った。

「いや、それも根本的な解決にならない。そこでだ、ソウヤ。彼女を再び時間制止のアイテムボックスに収容しろ」

「……!」

「何か強力なマジックアイテムなどが必要になるだろう。それを見つけて、彼女を回復させるまで、その命を繋ぎ止めるのだ」

――せっかく、石化も解かれて……。これからって時に……!

ソウヤは歯噛みする。だが今は感傷に浸る時ではない。

ソウヤは、ソフィアに代わり、すっとレーラの手を握った。

「すまない。必ず、助けるから」

その声が聞こえたのか、血の気の失せた聖女の表情がわずかに穏やかになった。

収納――ソウヤは、レーラを時間経過無視のアイテムボックスに送った。

ふう、とソウヤは息を吐く。泣きそうな顔のリアハ。俯くソフィア。ジンはソウヤの肩を叩いた。

「少なくとも、いまここで彼女を失わずに済んだ」

「ああ」

ソウヤは頷いた。

「……十年。ようやく、外に出してあげられたのに。失った分も――」

妹のリアハを見やる。

「家族と関係を深められたはずだった」

だが――

「また、しばらくお休みだな。でも彼女は、この国を救った」

ソウヤは立ち上がる。

「さて、どうやったらレーラを助けられるか考えようじゃないか」

「ソウヤ様?」

見上げるリアハ。ソウヤは微笑む。

「約束したからな。必ず助けるってな」

あ――リアハは思い至る。ソウヤは、やると言ったことは必ず果たす――そう姉であるレーラは言っていた。

時間経過無視のアイテムボックスがある限り、手遅れはない。諦めなければ、必ず間に合うのだ。