軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第210話、島を抜けて

ゴーレム『アイアン1』は、浜に上陸すると、島の中心部に向けて走行を開始した。

結構、派手な着地だったが、異常もなく走る。

「さすがゴーレムだ、何ともないぜ!」

無骨な外観にふさわしい堅牢さである。スコープごしの視界で前方を見るソウヤ。

「まったく、ゴーレムとは思えないスピードだ……」

人間が走っているような感覚である。

本来のゴーレムには、そこまでの機動力はない。よほどの軽量――たとえば、ゴーレム製造工場遺跡でみた、案山子のようなものならともかく、堅牢かつ重厚な通常のゴーレムは、そもそも走ることが苦手だ。

泥や砂、岩、鉄など、ゴーレムのボディを構成する素材は、防御に向く一方で、関節の可動範囲を狭めたり、重量による機動力の低下を招く原因にもなった。

だが、ジンが改造したこのアイアン1は、関節をスライムジェルというスライム系モンスターのボディと、それを連結するための魔力によって稼働させた。その結果、アイアン1はゴーレム特有のガチガチな動きではなく、動物のようなしなやかさな動作を手に入れた。

「速い、速い、速い――!」

砂浜を抜け、森へと突入する。木々の隙間を抜け、段差を跳躍。

――こりゃゴーレムというより、馬に乗っているみたいだ。

アイアン1はそのゴーレムの頭脳で地形を読み、与えられた行動オプションに従い、駆け抜けている。ロボットというよりは動物に乗っている感覚だ。

――こんなに動けるなら、商品化したら売れないだろうか……。

つい、そんなことを考えてしまう。これだけ動けるゴーレムというのは希少だろう。

「……しかし、これはまた……」

やたらと障害物の多い場所を選んでいるような気がする。浮遊バイクでも、高度をとって上を通過するレベルの場所を右へ左へかわしながら走っている。

「これもまたバジリスク対策なんだろうが……」

乗り物慣れしていないと、酔ってしまうのでは、と思うほど上下、左右の動きが激しい。

そこで、轟音が空から聞こえた。魔力式ジェットエンジンの音だ。

ジンの浮遊ボートが島の上空を飛んでいるのだ。この未経験の音には、バジリスクやコカトリスの他、モンスターたちも空を見上げるだろう。

そうやって広い範囲のモンスターの注意を空に引きつければ、ソウヤのアイアン1に反応する個体も少なくなるはずである。

森を抜けた。スコープの視界がゴツゴツとした岩場とその間に生えている草の緑を映し出した。むしろ原っぱのほうが近いかもしれない。

そこに一瞬、コカトリスの全身が映った。巨大な雄鶏のような全体が映ったが、すぐにその視界はその胴体でいっぱいになる。アイアン1が躊躇うことなく前進し続けたせいだ。

コカトリスは一見すると巨大な雄鶏のような姿をしている。ただし蛇との合成生物のようで尻尾、もしくはそれを含めた後ろ半分は蛇である。頭にとさかがあって、割と派手な色をしている。翼はあるので、一応飛べるという。

一応、というのはそれほど空戦能力が高いとか聞いたことがないからだ。

毒もしくは石化のブレスを吐くことができ、敵対者にとっては非常に危険な魔獣である。

そんなコカトリスに、敢然と向かっていくアイアン1。止めるべきか、と逡巡した時には、アイアン1はコカトリスの脇を抜け、そのまま走り去った。

ここの魔獣とは戦わないように、という事前のジンからの命令を忠実に守っているのだ。

「こういうとこ、ゴーレムってのは真面目だよな!」

後ろでコカトリスのわめき声がしたが、すぐに聞こえなくなった。追いかけるのを諦めたか、最初から追うつもりがなかったのか。

とりあえず、魔獣はこのままスルーで行く。……と言っても、ソウヤにできることなど何もなかったが。

時々聞こえるジェットエンジン音が、魔獣の視線と意識を引きつけている間に、ひたすら突き進む。

「……しかし、これちゃんとわかって走っているんだろうな」

ソウヤは首をひねる。

アイアン1は、定められたコースに従うが如く、迷いなく進んでいる。

道なき道を進むことしばし、コカトリスとバジリスクに二度ほど遭遇したが、ゴーレムは速度を活かして突破。

「……突破ぁ?」

スコープを一周させて、後方を見るソウヤ。コカトリスがバサバサと翼を羽ばたかせながらドタドタと追いかけてくる。さながら鶏のように、地面の上を走っているのだ。

地形が林となって、飛び上がりにくくなったのかもしれない。

「……」

アイアン1が地面から突き出た岩をを蹴って、方向転換した。コカトリスの頭部がその動きを追いかけるが、体が大木と激突し、跳ね返って転倒する。

その間にアイアン1は離脱。……これで振り切れるだろう。

「お前、頭いいな」

言葉を発する機能はないが、アイアン1の頭は優秀なようで、ソウヤは段々愛着がわいてきた。

林を抜け、島の中心近くの岩地に到達する。ゴーレムのバックパックの中にいても、外の空気が変わったのを、ソウヤは感じた。

重々しいプレッシャー。魔王と対峙する前にも、これに似たような雰囲気を経験している。

――いるな、ドラゴンが……。

でこぼこした岩地をさらに進めば、そこには影竜の二倍以上はある巨大なドラゴンが居座っていた。

濃緑色のウロコ。背中に羽根をたたみ、地面に寝そべる犬か猫のような姿勢なのは、探している古竜、アースドラゴンだろう。

その証拠に、ドラゴンの頭のすぐ近くに、漆黒髪の戦乙女姿のミストがいた。ドラゴンと比べると、小人のようである。

『ようやくお出ましか』

低音ボイスが響いた。叫んだわけでもないのに、声だけで重さを感じるは、アースドラゴンか。

アイアン1は、ミストのそばまで来ると立ち止まった。膝をつき、バックパックを開く。ソウヤはそのまま外に出た。一瞬、足がふらついた。アイアン1の走行中、ずっと踏ん張っていたせいだ。

「お待たせ! 銀の翼商会です。ミスリルタートルをお届けに上がりました!」

口にして、配達員になった気分になる。本格的に、配達業についても考えようか、と思うソウヤだった。

『……ふむ、主の言うとおり、すぐに来たな』

アースドラゴンがギロリとミストを見やる。そのミストは一礼した。

「もちろん、嘘は申しませんわ、アースドラゴン様。そして紹介します。彼が、かの魔王を十年前に打ち取った勇者、ソウヤです」

『ふむ……』

アースドラゴンの黄金色の目が、ソウヤへと動いた。爬虫類特有の目が、じっと値踏みするかのように向けられる。

大きさが大きさなので、その目の眼力も半端ない。

どれくらいそうしたか、アースドラゴンは口を開いた。

『そこな娘より聞いた。我に、石化した人間を戻すことを頼みにきた、それで間違いないか?』