軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話、タイムリミット

妙なところで繋がりがあるものだ。

グレースランド王国国境の結界による封鎖は、魔王軍の残党の仕業だった。

連中は、王国の民を呪いによってモンスター化させ、自らの軍勢の手駒として使おうとしている。

暗殺組織カリュプスとウェヌスの壊滅に関係した魔族の魔術師ブルハ。裏で呪いを使っていたのは、ひょっとしたら今回の予行演習か、あるいは実験だったのかもしれない。

「しかし、王国全体に影響するとか……恐ろしいな」

グレースランド王国は国としては小国ではあるが、国ひとつ丸々呪いをかけるとか、その効果範囲、恐るべしである。

「ひとつ疑問!」

ソフィアが挙手した。

「お姫様、あなたは呪いをかけられなかったのですか?」

「姉の残したお守りがありましたから」

リアハは胸に下げているペンダントを手にとった。

「姉が、あらゆる負の魔法効果から守る魔道具を残してくださったのです」

「なるほど。納得しました」

聖女のお守りとは、とても御利益がありそうだ。いや実際にあったから、リアハは単身危機を切り抜けられたのだろう。

「結界はどうやって抜けたの?」

ミストが質問した。リアハは腰に下げている剣をとった。

「魔断剣『ソラス・ナ・ガリー』です。この剣は、魔法を断つ力があります。魔族の結界もわずかな間でしたが、通過できる隙間を作ることができたのです」

「わずかな間、ということは、今はもう?」

「ええ、穴が開いていたのは数分程度でした」

俯くリアハだが、ミストは笑みを浮かべた。

「それなら結界の中に侵入するくらいは問題なさそうね」

「……問題は呪いだな」

アイテムボックス内で作業していたジンが、セイジに呼ばれてやってきた。事情もおおまかに彼から聞いたようだ。

「姫君、魔族の呪いについて詳しく聞きたい」

「詳しく、と言われても私にもわからないことだらけですが……」

「なに、こちらの質問にわかることだけでいい。さっそくだが、その呪いが発動したのは一回だけか? 数回、あるいはかけっぱなしか?」

ジンの質問の意図が、いまいちわからないソウヤたち。リアハは少し考える。

「……おそらく呪いは発動しっぱなしだと思います。私が城から脱出する際、ブルハが十日以内に解決できなければ、お前らの負けだ、と言っていましたから……」

「十日以内……」

ソウヤは腕を組む。――意味わかる?

「魔族は国全体を結界によって封鎖した」

ジンは顎髭を撫でながら言った。

「何故、そうしたか? モンスター化させる呪いは、すぐにではなく、徐々に人間を変化させていくものだからだろう」

変化させていく間に王国から人間が逃げないよう、国境を封鎖した。つまり、外からの侵入を防ぐためではなく、中の人間を捕らえておくために結界を張ったのだ。

「呪いが浸透し、兵として使えるようになるまで、十日ほどかかる……ということではないかな?」

「なるほど……」

おそらく、敵の言う十日後、モンスター化した人間を兵士に、隣接する国々に攻撃……とか考えているのだろう。

ソウヤは、リアハを見た。

「ちなみに、プリンセス。ブルハが十日と言ってから、何日が経ってます?」

「……」

リアハが黙り込む。顔は青ざめ、しかし間違いがないか数えているようだ。

「三日前です」

「つまり、あと七日か」

「安全策をとるなら六日だろう」

――マジかよ、一週間もないじゃないか。

思わず頭をかくソウヤ。後ろでソフィアがセイジに『大変なことになったね……』などと話している。

「もう、ダメ……」

リアハがその場に膝をついた。ソウヤは彼女の肩に触れる。

「プリンセス……」

「あと六日でなんて……。父の言った希望はレーラ姉さんのことだったとしても、石化しているのでは、呪いをかけられた民を救うことができない……!」

聖女の力は癒やしと呪い解きだと、リアハは言った。それを聞いたガルが、目を見開いた。

「獣人化の呪いも、聖女の力で解けるのか?」

「大抵の呪いは解除できるはず。それが聖女の力です」

リアハの言葉に、ガルは目を伏せた。自身に刻まれた呪い、獣人化した仲間たちを元に戻す方法がわかったのだ。降って湧いた希望に、打ち震えているのかもしれない。

「そうなると、だ」

ソウヤは腰に手を当て、自身の考えを口にした。

「六日以内に、レーラの石化を解除し、グレースランド王国に乗り込んでブルハをぶちのめして、呪いをやめさせる必要があるわけだ。……爺さん」

ソウヤは老魔術師を見つめた。

「ここは無茶をやるところだぞ」

「自棄になってはいけない」

ジンは睨むように、見つめ返した。

「熱意にほだされて冷静さを失ってはいけない。やる気はあっても成功率をあげるブーストにはなりえない」

「だがなぁ……」

「まあ待て、ソウヤ。私も反対はしない。無茶をやらねばならないのは承知している」

ジンは穏やかだが、きっぱりと告げる。

「しかし、勢い任せはよろしくない。急がねばならない時ほど、足元に注意せねば転ぶ。失敗できない状況なのは変わっていないのだからね」

そう言うと、ジンはトレーラーに置いてあるアイテムボックスへの入り口に向かいながら、ソウヤを手招きした。

「例のアースドラゴンの島へ行くのだろう? こちらで成功率を上げるための小細工をいくつか用意した。どうやるか、話し合おう」

「おう」

そんなわけで、アイテムボックス内の飛空艇ドックへ移動するソウヤたち。初めてやってきたリアハは、鎮座している巨大飛空艇に目を見張る。

修理作業中のライヤーが、やってきたソウヤたちに気づく。

「よう、旦那」

「こいつを飛ばせるか?」

「はぁ? 無理に決まってんだろ。まだエンジンができてないんだぜ」

何を言ってるんだ、と言わんばかりのライヤー。ソウヤはジンを見やり……その魔術師がスタスタと先へ行くのを追った。

「爺さん?」

「そっちの飛空艇は、どんなに急いでももう一週間か十日はかかる」

「じゃあ、何でこっちに?」

「私が作っていたものが、他にもあるだろう?」

「……浮遊ボート!」

着いた先には、先日、ジンが製作していた小型ボートと――

「ロボット……? いや、ゴーレムか」

「バッサンの町の遺跡で拾ったゴーレムを元に、私が作っていたのは君も知っているだろう」

ジンは答えた。

「生憎とオツムが弱いので、単純な命令しか理解できないが……こいつも役に立つと思うよ」