軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第196話、異種族コミュニケーション

「うまい! 何だ何だ、これが焼いた肉とタレの力だと言うのか!?」

人型に化けている影竜が、皿の上の焼き肉を味わい、驚愕の面持ちとなっている。

アイテムボックス内、影竜のテリトリーと名付けた区画で、焼き肉パーティーが開かれた。

なお発案はミストであり、ソウヤは、もっぱら作る人だった。……歓迎会にかこつけて、自分もいい肉を食べたかったのではないか、と邪推する。

「タレ! この甘さ! こんな食べ方があったのか!」

「そうでしょうそうでしょう」

驚く影竜に、ミストは得意顔だ。時々、このドラゴン娘が焼き肉ダレの親善大使のように思えてくる。

「生肉を食らっていただけではわからぬ味だ」

影竜も絶賛である。

「料理なるものは、肉をこうも変えるのだな。興味深い! 我も次からは焼き肉を所望しようか」

――それって、結局オレらが作るってことか?

そうなるだろうという予感はあった。伝家の宝刀ならぬ焼き肉タレを使った肉を出したら最後、ミストと同様のマニアになるだろう、と。

正直、ミストがこのパーティーを言い出さなければ、ソウヤは勧めるのを躊躇っていたりする。

「次からも欲しいのなら――」

ミストは影竜に思わせぶりな視線を寄越した。

「何か対価を用意することね。人間の社会では、人に作ってもらう、食べ物をもらうには対価を支払うルールがあるのよ」

「対価、だと?」

影竜が顔をしかめた。――せっかくの美人が台無しだ。

「我に対価を要求するのか? このドラゴンに、他の種族が?」

ドラゴン族は、とかく他の種族を下に見ているところがある。剣呑な雰囲気に、パーティーに参加していた面々にも緊張が走る。

しかし、ミストは平然と言った。

「ドラゴンにはドラゴンの、人間には人間のルールがあるということよ。人間にものを頼むなら、対価を出すのが早いというだけ。嫌なら、関わらなければいいわ。焼き肉は食べられなくても、卵は安全だし」

「……まさか、我を受け入れたのは、我を何かに利用するためか!?」

「大げさねぇ。対価と言ったってそう難しいものじゃなくていいわ。たとえば古くなって落ちた鱗でも充分よ」

「なんと! そんなものでいいのか?」

別の意味で影竜は驚いた。ミストがため息をついた。

「あなたはどうも他の種族のことは疎いようね。ドラゴンの素材って、他の種族にとってはとても価値のあるお宝なのよ。状態のよいものなら、たとえ鱗でも、人間社会なら家が一軒建つわ」

レアなモンスター素材は高額に取引される。ミストの言う通り、上級ドラゴンの素材なら、本当に家が買えるくらいのお金になるだろう。

「そうだったのか……!」

影竜は感心したようだった。

「ドラゴンが対価を出すなど聞いたことがなかったからな。少し動揺した」

「そう? 人間の求めに応じたドラゴンが、その人間に対価を要求するのはよくある話じゃない。ノー対価でやると、人間って増長するから」

ミストが言えば、影竜も頷いた。

「あー、それなら聞いたことがあるな。いちいち付き合うと面倒だから、対価を要求することで、おいそれと頼み事をさせないやつ」

面倒だから――その言葉に、ソウヤは苦笑する。チョイチョイ、とミストが肉のおかわりを要求するので、新しい肉を焼く。

確かに、ドラゴンが、鱗だったり血だったりを求められたのを、言われた通りに渡していたらキリがないだろう。

何でもホイホイ聞いていれば、相手が増長するというのもわかる話だ。

ドラゴンなどが、対価なり契約なりを持ちかけるのも、相手を増長させないためにはよい手かもしれない。

それにしても、自分たちは対価を要求しておいて、相手から対価を求められることは慣れてないってか? 上から目線のドラゴンらしい傲慢さだ。

「鱗などでよいと言うのなら、提供しよう。それでタレ付きの焼き肉を対価としようぞ」

「焼き肉だけでいいの?」

「どういう意味だ?」

「他にも人間は色々な料理を作るわよ」

ミストが意味深な顔をしている。知っているからこその優越感が透けてみえる。

影竜とミストのやりとりを余所に、遠巻きに見守っていたソフィアがセイジを肘で軽くこづいた。

「ドラゴンといっても、人の姿をしていると案外普通よね」

「そうだね」

「あれ、本当に影竜なの?」

「そうらしいよ」

ソフィアが無言で皿を出したので、セイジは焼いていた肉をよそった。ありがと、とソフィアは礼を言うと、タレをつけてパクリ。

「あぁ、家にいたのでは味わえないこの味が食べられるのはいいわぁ」

「醤油タレは、流行の最先端だからね」

セイジは煮込んでいるスープを味見する。

「銀の翼商会で流行らせている醤油、もう品薄だからね。タルボットさんとこは施設を増設して拡大しているけど、それで間に合うのかな……」

「ふうん、ショーユを作るのって大変なの?」

「一日二日でできるものじゃないよ」

セイジは、完成したスープをお椀に移していく。

「ソウヤさんが、タルボットさんに『ミソ』という調味料の話を持ちかけたらしいけど、それもいつできるのやら……」

『ミソ?』

「うん。醤油がダイズと小麦を使うらしいんだけど、ミソはダイズと米を使ってできる調味料だって話だよ。南方で米が手に入るってわかって、ソウヤさんがタルボットさんに頼んだらしい」

「それ、美味しいの?」

「僕は実物を見たことがないから」

セイジが肩をすくめると、ソフィアは首をかしげた。

「本当、ソウヤって不思議よね。元勇者なのは聞いてるけど、ドラゴンにも物怖じしないでさ。腕力ばかりかと思えば、ショーユとか、ミソ? 調味料のことも知っているし」

「不思議って言ったら、ミストさんも相当だと思う」

セイジは、ソウヤと影竜、そしてそれと話し合うミストを見やる。

「僕さ、影竜さんを見て思ったんだけど」

「何よ?」

「ミストさんって、実はドラゴンじゃないかって――」

「ミスト師匠が?」

ソフィアは目を丸くする。セイジは言った。

「君も見ているよね? ミストさんって、ドラゴンみたいな咆哮を発することできるし、ドラゴンブレスの仕組みを知っていた。ゴーレム遺跡で、普通だったら死んでもおかしくない打撃を頭に受けたのに、平然としていたこともあった」

「……」

思い当たるところがあるのか、ソフィアは押し黙る。セイジは首を振った。

「誤解しないで。別にミストさんが人間に化けているドラゴンだったとしても、そんなの関係ないんだ。あの人は信頼できる、僕らの仲間だってことは間違いないから」