軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話、いい名前を考えるのは難しい

魔王城の地下空洞には、結局のところ、大きな発見はなかった。

掘ったら鉱石や宝石がありそうではあるが、何かお宝が埋蔵されているとか、そういうものは見当たらなかった。

あったとしても、十年も前。後から魔族連中がやってきて、拠点化こそ諦めたにしろ、使えるものは持ち去ったのだろう。

目的の飛行石を手に入れたので、野営で一晩を過ごした後、ソウヤは霧竜になったミストの背に乗って帰途についた。

飛空艇の修理、その後、空へ――その実現に向けて着実に前進しているのがわかる。いつかできたらいいな、ではなく、もう近いうちに飛空艇が蘇るのだ。

『それで、新しい飛空艇の名前はどうするの?』

ミストが念話で聞いてきた。

「名前かぁー」

先代の天空人遺産である飛空艇は『ゴールデンウイング』号だった。

いまは白銀の翼、銀の翼商会である。――シルバーウイング?

自分でつけておいて何だが、船の名前にすると微妙な気がする。金から銀に下がった、というか。パーティー名や商会名では気にならなかったのに何故だろうか。

……おそらく、シルバーという響きが引っかかっているのだろう。高齢者の何とか、を連想してしまうせいかもしれない。

「何か候補はあるかい、ミスト?」

『そうねぇ……』

霧竜は思案する。長い沈黙。ソウヤは自分でも考えながら、ミストの答えを待った。

やがて、彼女は言った。

『そういえば、他のものに名前を考えたり、付けたりなんて、初めてだわ』

「お、おう……」

てっきり何かいい候補が浮かんだのかと思ったら、見当はずれな回答だった。考えてみれば、ドラゴンが名付けなどそうそうないだろう。ソウヤは苦笑する。

「オレも名付けってのは苦手だな」

『ゴールデンウイング号は、誰の発案だったの?』

「……誰だったかな」

勇者時代に飛空艇を手に入れた時、名前をどうするか悩んで、ああだこうだ言っているうちに、『黄金の翼でいいんじゃないですか』という流れになって決まった。賛成多数、と言っても、却下された案はあったが他に候補があったわけでないから、そう決まったのではなかったか。

『じゃあ、手っ取り早く、「ゴールデンウイング二世」とかでよくない?』

「二世か……」

――ゴールデンウイングⅡでもいいか。

「あ、いや、勇者の船じゃないんだから、ゴールデンウイングを受け継いだらマズくないか?」

『何を言ってるのソウヤ』

霧竜の頭が傾いた。さながら首を横に振っているように見える。

『あなたは世間では勇者マニアで通しているんでしょ? むしろマニアなら、勇者の船になぞらえて、自分の船にゴールデンウイング号ってつけるのが自然じゃないかしら?』

「一理あるな、それ」

実に、もっともらしく聞こえた。勇者好きがもとで真似っ子している、という設定からすると、アリだ。……ただ、よくよく考えると少々痛い人みたいではあるが。

「候補としておこう。他の面々にも相談して、それで決めよう」

とりあえず、ソウヤはそう判断を下した。銀の翼商会保有の飛空艇ということで、皆で話し合おう。

・ ・ ・

飛行石を手に入れたソウヤとミストは、ルガードークへ戻った。

出張期間は二日ほどだったが、ドワーフ集落にいた仲間たちは、何もトラブルに見舞われなかった。

「おれは飛空艇の修理に掛かりっきりだったからな」

アイテムボックス内、飛空艇置き場。機械をいじっていたライヤーは、油に塗れた手を拭いながら言った。

「この町じゃ、おれは悪い噂しかないからな。外出は避けた」

「賢明な判断だったな」

ソウヤは皮肉る。実は、留守中に何かあれば、一番危なそうなのがライヤーだと思っていた。理由は、彼自身が口にしたように、ルガードークでは悪い噂が先行しているからである。

「それで、旦那。肝心の飛行石は――手に入ったようだな。その顔を見れば」

「ああ、ゴールデンウイング号の飛行石は無事だった」

「ゴールデンウイング……黄金の翼か、格好いいな」

ライヤーはニヤリと笑った。

「そういや、コイツには名前があるのかい?」

現在修理中の飛空艇を指さしながら、ライヤーが聞いてきた。

「ミストとも話したんだ。この船は拾いモノだし名無しだからな。ミストは『ゴールデンウイング二世号』でどうって言っていた」

「へえ、なるほどねぇ……」

ライヤーは自身の顎を撫で無精ひげに触れる。

「まあ、悪かねえが……」

「すんなり賛成ってわけでもなさそうだな」

「二世っていうけど、こいつ、その初代ゴールデンウイング号と何か共通点あんの?」

「どちらも古代文明時代のものだったくらいかな」

「そっかー。まあ、飛行石を引き継いでるし、二世ってのもアリか」

などと一人納得するライヤー。ソウヤは言った。

「本決まりじゃないから、何か候補があったら教えてくれ」

「あいよ」

ライヤーは、ソウヤから飛行石を受け取ると、飛空艇へと歩き出す。

「じゃあ、さっそくこいつを取り付けよう。いやあ、楽しみだなぁ」

ウキウキしているのが、その背中を見てもわかった。

やる気のライヤーを見送り、アイテムボックスハウスへ戻るソウヤ。そこで、奇妙な光景を目撃した。

「何あれ……?」

小型のボートが、ふよふよと屋敷の上を飛んでいたのだ。

よくよく見れば、ジンがボートに乗っている。老魔術師とボートは、まるで池を進むがごとく、ゆっくりと動いている。

水もないのに、水の中から見上げているような気分になった。

――まーた、あの爺さん、何か始めたな。

下ではセイジが口をあんぐりと開けて、ボートを見上げている。ソウヤはそばまで歩み寄った。

「セイジ、あれは何だ?」

「空飛ぶボートだそうです」

「まんまだな。オレの留守中に新製品の開発か?」

「ドワーフの工房で人工的に作られた飛行石を見たとかで……」

そういえば、そうだったとソウヤは頷く。ライヤーとジンがいて、ブルーアが持っているのを見ている。

「あれで、飛行石に頼らない飛行できるものを作ろうと、言い出して」

「で、ボートを飛ばしていると」

やるなぁ、と感心を露わにするソウヤだが、セイジは肩をすくめた。

「でもジンさん曰く、浮遊バイクの延長らしいです。浮遊するバイクが作れるなら、これくらいはできる、と言っていました」