軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第132話、呪いの解き方

グラ村の入り口近くに、浮遊バイクと荷車を置いて陣取っている銀の翼商会。

魔族に襲われたその日の夜ということで、村人たちの不安な心を、ソウヤたちが守っているところを見せて安心させる。

ソウヤとセイジは焚き火を囲んで、見張りをする。浮遊バイクのそばに、キャンプ用テントをひとつ設営。中で、ジン先生によるソフィアの診察が行われている。

ちなみに、ミストがソフィアと一緒に付き添っていた。ジンを銀の翼商会で受け入れるとはいえ、まだ会ったばかりだから、どこまで信じていいかわからないところもあるのだ。

――年寄りとはいえ、あの爺さんも男だからなぁ。

ソフィアが、着衣をある程度脱がないと全体の把握ができない広範囲に刻まれた呪いだ。乙女の肌を前に、性欲を刺激されて……なんてこともないとは限らない。そうなってしまった時のストッパーとしてミストが同席している格好である。

「落ち着け、セイジ」

どこか、少年がソワソワしているのを、ソウヤは感じ取っていた。彼は、どうもソフィアのことを気にしている素振りを見せることがしばしばある。

「落ち着いてますよ!」

セイジは答えたが、チラチラとテントのほうを見る。

もっとも、気になるのも無理はない。先ほど、テントからミストの『何ならワタシも脱ぐわ!』とか『服なんてただの飾りよ! 生き物は生まれた時から裸なのよ!』と、もう少しソフィアに気をつかってあげようよ的な発言が聞こえたりしていたのだ。

思春期の少年ならずとも、つい注目したくなる。そんなセイジに、ソウヤはニッコリ。

――若いっていいねぇ……。青春だ。

単なる片思いなのか、そもそも恋愛感情なのかは知らない。年齢上、おじさんに差し掛かっているソウヤには、今のところ色恋はないのが少々寂しくある。

しばらくして、ソフィアとミストがテントから出てきた。

「じゃあ、早速試したいわ!」

「村から離れてやりましょう。もう夜だし、騒ぐのはよくないわ」

などと言っている。村の外へ歩き出すソフィア。ミストは、注目しているソウヤたちに手を振った。

「ちょっと、出てくるわ」

「おう」

正直、何が何だかわからないソウヤだが、彼女たちの反応を見るに、よい方向に転がっているように感じた。

――マジで呪いを解いたのか?

遅れてテントから出てきたジンが、こちらへとやってきた。

「どうだった、先生?」

「先生とは私のことか?」

ジンは腕を組んだ。ソウヤは取りあえず、アイテムボックスからカップと水筒を出して、水を渡す。

「単刀直入に言えば、呪いは解けたよ」

「マジか! 凄ぇな」

こんな簡単に解けるとは思っていなかった。確かに高名な魔術師を探して、秘術を聞き出そうと考えていたが、早々に見つかるとは思っていなかったし、しばらく先になると想像していた。

「じゃあ、ソフィアは魔法が使えるようになったんですか!?」

セイジが聞けば、ジンは鷹揚に頷いた。

「問題ない。ミストが付き添って、魔法を試してみるそうだ」

「そうなんですか。いや、ジン先生、凄いですね。呪いを解いちゃうなんて」

「正式な解き方ではなかったかもしれんがね」

謙遜するようにジンは微笑した。

「何が、どういう働きをしているのか理解できれば、解除するのも難しくはない」

「さすが! 専門家は違うな」

ソウヤは素直に感心する。

魔法学校の教官たちでさえ解けなかった呪いを、わずかな時間で解析してしまうとは……。並大抵の実力ではない。

そうなると、ガルの獣人化の呪いも解析してもらいたい、と思うのも自然なことで。

「なあ、先生。もうひとつ、頼みがあるんだけどさ――」

夜のために、アイテムボックスハウスのほうにいる元暗殺者の話をしてやれば、ジンはあご髭をいじりながら考え込む。

「魔族の呪いか。……はてさて、どんなものか。とりあえず診てみよう」

「そうしてくれると助かる」

そんなわけで、アイテムボックスハウスに移動。会ったばかりのジンを招くのは時期尚早な気がしないでもない。

だが、銀の翼商会に加わり行動を共にするなら、どのみち知ることになるので心配するだけ無駄だ。ジンが自己申告どおり、ずっとひとり旅をしてきたなら、この秘密を漏らすような相手もいないだろう。

「ほう、異空間に家か。面白い」

ジンは、さほど驚いた様子はないが、どこか感心したような声を出した。

「異空間っつーか、アイテムボックスだけどな」

「人が入れるアイテムボックスか。やはり世界は広いな」

愉快そうな老魔術師である。本来なら驚愕するような事柄でも、この老練な男にとっては穏やかに笑っていられるらしい。それだけ世界を旅して、様々なものを見てきたのだろう。

――いいなあ、そういうの。

自分も世界を巡って色々なものを見てみたいとソウヤは思った。

・ ・ ・

ジンに、ガルの呪いを診てもらったが、残念ながら老魔術師でも解けなかった。

「簡単に言えば、ソフィア嬢の場合は、呪いというか魔法の文字式が浮かんでいたから、どういう仕組みか解析できた。だがガルの場合は、さながら変身だ。体に文様や文字式が浮かぶでもないから、手がかりすらない」

ジンが解説すれば、ガルは質問した。

「この呪いは、生涯解けない類いだろうか?」

聞いていたソウヤも無言で、ジンの返事に注目する。

夜になると獣人化するという呪いを、ガルは一生背負っていかなくてはならないかもしれない。空気が張りつめた。

「一般的な治癒魔法などでは解けないだろうな。呪いとはそれほどに強力なのだ」

ジンは重々しく告げた。

「血や骨、肉に呪いが浸透しているから、それを取り除くのは簡単ではない」

――そんなものどうしろっていうんだ……!

ソウヤは頭をかいた。ちら、とガルを見れば、彼は淡々とした表情ながら、口元を真一文字に引き締めている。やはり、ショックを伴うことゆえ、冷静沈着な暗殺者といえど動揺を隠しきれないようだ。

「とはいえ、まったく何もできない、とは思わない」

ジンは考え深げに目を細めた。

「もしかしたら呪いを解く方法があるかもしれないし、時間をかければ治療ができるかもしれない。あるいは完全に取り除くことはできないが、自分自身で制御できるかもしれない」

要するに――老魔術師は落ち着き払って言った。

「方法はひとつではないということだ。どの道を選択するかは君次第だが、私は君が呪いを克服できると宣言しておくよ」