軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話、用事を済ませて次の街へ

翌朝、宿の食事処で、別途料金を支払って、白パンをいただいた。

部屋に戻り、アイテムボックス内で調理作業。白パンを切り開いて、焼いたベヒーモス肉のスライスを、ミストお気に入りのタレをたっぷりかけて挟んだ。

「そうそう、これよ! これなら食べられるわ!」

ミストさんもニッコニコだ。

「肉とタレが絶妙に絡み合って、甘いのよ。肉の風味も最高だわ!」

大絶賛をどうも。

自分で作って中々よかったとは思うが、カツサンドが恋しくなってくるソウヤだった。

さて、宿を引き払ったのち、ソウヤは町を出る前に用事を済ませておく。

まず立ち寄ったのは、グレイ氏の魔獣素材店。

「やあ、ソウヤ。また来てくれて嬉しいよ」

「どうも、グレイさん」

挨拶をかわしただけだが、店主はとても柔やかだった。

ソウヤは素材を買い取ってほしいと持ちかけた。昨日は、角とバイクを引き換えたが、お金もそこそこ持っておかないと買い物もできない。

「素材は、ベヒーモスかな?」

得たり、という顔になる店主。

「角を出したんだ、きっと爪とか牙も持っていると思ったよ」

「お見通しってわけか。さすがだな」

話が早くて助かる。というわけで、ソウヤはベヒーモスの爪を机に並べた。爪ひとつでも、ヘタなダガーより大きい。親指から小指の爪まで揃っている。

グレイは、半ば予想していたというだけあって、テキパキと鑑定を進めた。時々「うひょ」とか、変な声が出ていたが、ソウヤは気にしないようにした。

やがて、店主は金額を示した。

「全部で金貨にして50枚!」

そこそこの高値である。

ソウヤは、目覚めてから色々店を覗いたが、大抵銀貨と銅貨単位で取引されていて、金貨で売られているものも一桁ものばかりだった。

しかし、ここで問題は、ベヒーモスがAランクの魔獣で、しかも希少価値が高いということだ。爪十個で金貨二桁は、一見すると高値だが、ベヒーモスの素材の相場としては、安いのか高いのか、残念ながら今のソウヤには判断の材料がない。

店側からすれば、抑え気味の値段を提示して様子見をしているとソウヤは思う。安く買えれば、売るときの儲けで得する。だから大抵は低めに見積もって、それでそのまま買えればラッキー。売り手がもうひと声と言ってきた時のために多少余裕を見ているはずだ。

ソウヤはじっと、提示金額を見つめ、考える。

ぶっちゃけると、ソウヤとしてはベヒーモスを倒すのは苦ではなく、しかもまだ爪をいっぱい所有している。ここで安く買い叩かれても、痛くも痒くもない。

それに記憶違いでなければ、この国の一般人の稼ぎが年間十から十五金貨ほど。金貨五十枚といえば、贅沢しなければ四、五年働かなくて暮らしていける分になる。

「ニィさんは上客になりそうだから、色はつけたんだよ」

ソウヤが熟考しているとみて、グレイはそう言った。さも良い値をつけてますよというアピール。本当かもしれないし、嘘かもしれない。

――まあ、これも経験だ。

余所と値段を比べて、商売の経験値を稼げると思えば、授業料とみていいだろう。

「オーケー、グレイさんには、バイクももらってるからな。その値段でいいよ」

当面のお買い物用のお金が得られればいい、という目的で売っている。数年分の資金の生活費を得たなら、目的は果たしている。

「お、いいのかい、まいど!」

交渉成立。机に並べたベヒーモスの爪を丁寧に移動させ、金貨の入った革袋が置かれる。きちんと枚数をお互いに確認して、取引終了。

「今こんなことを言うのも何だけど、もう少し吊り上げてくるかなと思った」

などと、グレイは口にした。想定より安く済んで饒舌になっているようだ。……少しごねてもよかったかもしれん、とソウヤは思った。

「ベヒーモスなんて滅多に出ない希少種。仕留めるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ! とか」

「まあ、オレほどになると、それほど苦労はしていない」

「だろうね。だってソウヤ、君、ベヒーモスを二体も倒しているもんな! 本当スゴイよ」

――グレイさん、いい笑顔。……本当は三頭だけど。

「そういや、爪は十個だけでよかったのか? こっちはまだあるぜ?」

「知ってる。けど、こっちも用意できる金額に限界があるからね。売る相手の目星がついているからいいけど、もし売れなかったら、この店終わりだよ」

そう言って、クビをかき切る仕草をするグレイ。

――なるほど、割とギリギリの勝負してたんだな、グレイさん。

ソウヤは、もう少し吊り上げてもよかったかも、という気分が消えた。なるほど、それは機嫌もよくなると思った。

仕入れたはいいけど売れないと商売としては意味がない。売れなかった時のリスクを考えれば、この取引自体が発生しなかった展開もあったわけだ。

貴重素材なら、どこでも売れるというのは思い違いである。相手だって人間で、商売しているわけだから、無理とあれば店だろうと断ってくる。

ゲームだと、いくらでもレア装備売りまくれるから、そういう感覚でいちゃいけない。わかっているつもりではあったが。

そんなわけで、ソウヤは当面の生活費と活動費を手に入れた。外で待っていたミストと合流して、露天などで食材を購入、アイテムボックスに収納。

用が済んだので、いよいよ王都へ向けて出発。城壁で、門番たちから軽い検査を受け、メーヴェリングの城壁の外へ。

「あっ、しまった!」

「何? どうしたの!?」

ソウヤは、ひとつやり忘れていたことを思い出して、渋顔を作った。

「いやな、お前からもらった鱗の値段がどんなものか、グレイさんに聞くのを忘れた」

「……なんだ」

大したことじゃない、とばかりにミストはため息をついた。

ミストドラゴンの鱗なら、素材として高値で売れるのはわかっている。が、やはり相場がわからないので、比較対象のためにも、色々なところで聞いておきたかった。

「戻るの?」

「……入る時、また銀貨取られるんだよなぁ」

ソウヤは城門を恨めしげに睨んだ。

「今回はいいや。また次回来たときにしよう」

ソウヤとミストは街道を進む。町から充分離れたところで、ソウヤはアイテムボックスから、浮遊バイクを出した。

「さあて、こいつの出番だな」

近未来的なシルエットの黒いバイクに跨がり、燃料タンク、もとい魔力式充電器に魔力を注ぎ込む。その様子をミストは訝しげに見守っている。

「ミスト、後ろに乗れよ」

ソウヤは自分の座るシートの後ろを指さす。人がもうひとり乗れるだけのスペースがある。彼女は不思議そうな目をしたまま、言われた通り、ソウヤのすぐ後ろにひょいと飛び乗った。一瞬、バイクのアブソーバーが沈んだ。

「結構スピード出るから、落ちないように。オレにしがみついてもいいからな」

「へぇ……つまり、こう?」

バッと、ミストがソウヤの背中に抱きついた。彼女の豊かな胸の感触が背中に当たり、刹那、ソウヤの脳がしびれた。

「――いいね、悪くない」

アイテムボックスからゴーグルを取り出す。十年前から愛用しているそれを、きちんと着用。

魔力のチャージを確認。エンジンスタート。インジェクション→イグニッションボタンを押し込めば、軽い振動と共に、浮遊バイクに命が宿った。足で浮遊ペダルを操作。するとふわり、と地面から数十センチほど浮かび、接地用のタイヤが地面から離れる。

「行くぞ、相棒」

ソウヤは右手に握るアクセルレバーを押し込んだ。バイクは滑るように動き出す。ミストが慌てた。

「え、え、え……!?」

次第に速度を上げるバイク。正面から吹きつけてくる風に、ソウヤは懐かしさを感じ、そして風になった。