軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第101話、あの時会ったあの人

「で、あんたは何をやってるんだ、色男?」

エイブルの町、その空は夕焼けで赤く染まっていた。アイテムボックスハウスに入るべく、人のいない路地裏へと入り込む。しばらく進んだソウヤたちは、そこで色男――先日、街道で出会った謎の美青年と出くわした。

前回は全裸だったのだが、今回はきちんと服をまとっている。軽戦士といった格好でマントの下には短剣の類があった。

周りには血塗れで死んでいる戦士。そして青年自体、怪我をしているのか、服を血に染めながら民家の壁に寄りかかっている。……一戦やらかしたのは一目瞭然だった。

「あんたの周りは死体だらけだな。いつもこうなのか?」

「……」

「手当ては必要か?」

かなり派手に戦ったようで、腹部と足を怪我しているようだ。返事しないのは傷が深いのかもしれない。

「問題ない。その内に治る」

青年は答えた。そのうちか――その間に敵が来たらどうするのか。

「あんたは、カリュプスのメンバーだろ? こんなところでウェヌスと抗争か?」

「……」

「その沈黙は肯定と見なす」

いい加減、返事がないのはしんどい。

「昨日、冒険者ギルドで爆発騒ぎが起きた。両親がカリュプスにいたっていう子が命を落とすところだったんだが、あんた、知っているか?」

「……」

視線が動く。返事はなくとも、こちらの言ったことに対して、一瞬考えたのだろう。

何か心当たりがあり、か。ソウヤがなおも質問しようと思った時、ミストが口を開いた。

「ソウヤ、こっちへ近づいてくる気配がするわ。それも複数」

鋭敏なドラゴンの感覚が、それを捉えた。路地裏とはいえ、ここは町中である。

「地元民かな」

「屋根の上を駆ける地元民なんているかしら?」

「それはないな」

ソウヤの視線の端で、青年の表情が鋭くなるのが見えた。やれやれ――ソウヤは首を振った。

「あんたの連れか? 人気者だな」

「……」

「十中八九、ウェヌスの連中ってか。くそ、こっちはまだ聞きたいことがあるってのに」

暗殺組織との抗争にぶち当たるというわけだ。

空は薄暗く、もう日が沈む。お世辞にも広いとは言えない路地裏で、夜間戦闘など面倒極まりない。ソウヤとミストはともかく、セイジとソフィアが危ない。

「問答をしている時間はなさそうだな」

ソウヤは、いまだ壁にもたれかかったままの青年の肩をつかんだ。

「ちょっと、ツラを貸せ」

・ ・ ・

真っ白な空間だった。

青年は痛みを忘れて驚く。路地裏の風景が、真っ白な世界に変わった。そこへソウヤが現れ、残る三人も順次、見えないドアを潜ってきたように現れた。

「……ここ、は……?」

「ちょっとした異空間の中」

ソウヤは答える。

「オレが許可しない限り、邪魔者はやってこれない場所さ。……だから、こっちに迫っていた連中のことは忘れていいぞ」

「ソウヤ」

ミストの声。ソウヤも気づいた。座り込んでいる青年が自身の体を抱きしめるように震えていることに。

――やべぇ、ひょっとして怪我が……!?

血が流れすぎて血圧、体温が下がっているのか。手当てを、と近づこうとした時、青年は右手を出して、来るなとジェスチャーをした。

「いまは、近づくな……」

「おい、大丈夫かよ!?」

震えが大きくなり、うずくまる青年。どう見てもヤバそうだ。

ソウヤたちの目の前で、青年が軽鎧を外した。直後、彼の背中が膨れ上がったように見え、一同は目を疑った。

人の肌だったものが、獣の毛皮に変わり、体格が一回り大きくなる。服が破れ、その体格も、美形青年が野獣――狼頭の獣人へと変身した。

――あぁ、やっぱりこいつが街道の獣人だったか。

納得するソウヤだが、セイジとソフィアは慌てた。

「こいつはっ!」

「獣人!?」

ソフィアが魔法カードをとっさに指に挟むのが見えて、ミストが「待ちなさい!」と叫んだ。

「でも……!」

「いいから!」

ミストに言われ、ソフィアは獣人に向けていたカードを持つ手を下ろした。

先ほどまで震えていた体がピタリと止まり、その獰猛な狼の頭が、ゆっくりとソウヤを睨んだ。

「……この姿を見ても、襲ってこないのか?」

「何となく、予感はしていたからな」

街道に獣人が出ている噂は聞いていたし、前回疑ったので、さほど衝撃はなかった。勇者時代、人間の姿に化けていた魔族を何人か見ていたのも影響している。

「そろそろ、名前を教えてくれないか? ここじゃ、外の誰にも聞こえないし、気づかれない。あんたが黙っている限りは情報は漏れない」

「……ガルだ」

「やあ、ガル。オレはソウヤだ。よろしく」

さらっと挨拶と共に名乗るソウヤ。ガルと名乗った青年――今は獣人が怪訝に眉間を寄せた。

「お前は、何故、俺を前に自然にしていられる?」

敵意もなければ、演技でもない。ソウヤの素の態度を見破るガルに、当のソウヤは苦笑する。

「まあ、獣人や亜人も、魔族だっていっぱい見てきたからな。別に驚きはしないさ」

それよりガル――ソウヤは、獣人の腹辺りを指さす。

「怪我のほうは平気か? 手当てするぞ」

「その必要はない」

ガルは、毛に覆われたその部分を撫でる。

「変身の段階で、再生する程度の傷だ」

「そうか、ならいい。それじゃ本題と行こう」

ソウヤは声を落とした。

「事情説明。オレが納得できるまで付き合ってもらうぞ」