軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

魔王は傷ついていた。だがその根源たる闇の力を絞り出して、その姿を巨大な魔神へとトランスフォームさせようとしている。

赤く染まった巨大な地下空洞。禍々しき獣の咆哮が轟き、魔の王に立ち向かいし者たちの心を押し潰さんとする。

だが、その中にあって 相木(あいき) ソウヤは、一人、魔王へと駆けていた。

身につけた白銀の鎧は傷み、黄金の盾はすでに半分になっている。手にした光の剣は、眩いばかりの光を集め、なお輝いている。

「てめぇを外に逃がすわけにはいかねえんだよっ! てめぇを倒すために倒れていった、仲間たちのためにもなァ……!」

「ソウヤ!」

後方にいた青髪の女魔術師が、ソウヤに浮遊の魔法をかける。ソウヤが地を蹴った瞬間、彼の体はまるで翼を得たように飛び上がった。

変身の最中である魔王――暗黒竜にも似た姿は、すでに三十メートルほどの高さになっていた。その紅蓮の瞳が、光りを集め、向かってくるソウヤを睨んだ。

「邪魔してくれるなって、目をしてやがるなぁ、魔王さんよォ!」

だがなぁ――ソウヤは剣を構え、突進した。

「オレは勇者だからなァ! 邪魔させてもらうぜぇぇ!」

魔王の目から闇色の光が迸る。それはソウヤの体を貫く。だが、ソウヤの勢いは止まらない。

「――おおおおおおぉっ!!!」

次の瞬間、魔王の頭、その額に光の剣が突き刺さった。

絶叫が木霊する。魔神へと変異しようとしていた魔王の大きな体が力を失った。

徐々に小さくなりつつ、体から欠片のようなものが剥がれ、塵のように消えていく。そしてソウヤもまた、小さくなっていく魔王と共に地面へと落ちていった。

――おのれ、小僧ォ……! 必ず、必ずや貴様に復讐してやるぞぉ!

魔王の声が、念話となってソウヤに届く。憎悪。怨念にも似たそれは、聞くだけでおぞましいはずだが、ソウヤの心は安らかだった。

胴に受けた一撃のせいか。たぶんこれオレも死ぬんじゃないかな――そう思ったから。

――何だよ、地獄で再戦希望ってか?

――地獄へは貴様ひとりで行け! 我は、ここより逃げ、何年かかっても力を取り戻し、貴様のいない世界を……。

――そいつは困るなァ。……てめぇは逃がさねえって言ったよなぁ。

ソウヤは、その手でひしりと魔王の体をつかんだ。

――何のつもりだ、死に損ない!

――そりゃお互い様だろうがよ。……てめぇは、オレと一緒に逝くんだよ!

ソウヤが授かった力で。

――アイテムボックスに封印される魔王ってどんな気分だ?

――な、なに!? 何を言っている!?

困惑する魔王。いい加減、意識が薄れてきたソウヤは、口元を笑みの形に歪めた。

――てめぇが、最高に間抜けな魔王になるって意味さ……!

アイテムボックス。

それを唯一開けることができるソウヤが死ねば、開ける術はなく、もはや魔王とて逃げ場なし。

魔王が慌てるが、もはや手遅れだった。その邪な念話もかき消え、ソウヤはすべてをやり遂げた気分になって、目を閉じた。

かくて、世界を支配しようと目論んだ魔王と、異世界召喚された勇者の戦いは、ここに終結した。

勇者の伝説、完。

・ ・ ・

「はっ!?」

目が覚めた時、視界には木目の天井が見えた。知らない天井、どこかの宿か?

ソウヤは瞬きしつつ、急激な不安に襲われた。

「おいおい、魔王を倒したって夢を見ましたってオチかぁ……」

思わず頭を抱えた。

なにそれ、めちゃ恥ずかしい――寝覚めは最悪だった。

ガタンと、部屋の端で音がした。思わずソウヤは視線を向ければ、そこには青髪の女魔術師――魔王討伐パーティーの仲間、クレア……によく似た人物がいた。

――彼女のお姉さん、かな?

見た目は十代の美少女だったクレアがそのまま歳を重ねたようで、勝ち気魔術師だった彼女と比べれば、随分と落ち着いた雰囲気だった。いや、今は慌てていたが。

「ソウヤ! 目が覚めたのね!?」

「あ、え……と」

クレアだったら、そうだと言えるのだが、ちょっと違うその女性にどう答えたものかソウヤは一瞬ためらった。

その間にも、クレア似の女性はソウヤの寝ているベッドに駆け寄った。

「よかった! このまま一生目覚めないかと思った!」

目覚めない?――ソウヤはボリボリと自身の髪をかきつつ、違和感をおぼえた。――髪が結構伸びてる……?

「それはそうと……えっと、あなたはどちらさん?」

ソウヤは困惑しつつ聞いてみれば、クレア似の女性はキョトンとした顔になる。だがそれもわずかの間で、すぐに彼女は笑みを浮かべた。

「私よ、クレア」

「クレア……!?」

「そうだったわね。あなたにとっては、少し前の出来事だったものね」

クレアと名乗った女性は、かつてのソウヤの記憶にある口元に指を当てる仕草で言った。

「ソウヤ。あなたが魔王を打ち倒してから、十年の月日が流れているのよ」

十年……!

ソウヤは愕然とする。

――おいおい、嘘だろ。え、じゃあ、さっきのアレは夢じゃなくて現実で……オレが魔王を倒して、それから……。

とっさに、自身の腹を見やる。見慣れない寝間着を着ていたが、手で触れてもそこに痛みはなく、傷もなさそうだった。

致命傷だと思ったが、そんなことはなかったらしい。どうやら意識を失った後、仲間たちが手当をしてくれて、九死に一生を得たようだった。

だが、その反動でソウヤは十年間、昏睡していたということか。

「そうか……魔王は、もういないんだな」

ソウヤは脱力したようにベッドに倒れ込むように寝転んだ。勇者として魔王討伐の使命に人生を賭けていた――それから解放されたとあれば、自然と力が抜けていった。

――というか、痩せたなぁオレ。体も鈍ってるよな、十年も経ちゃあ。

「ソウヤ?」

そして目の前のクレアは、あの頃から十年経った姿。

「美人になったなぁ、クレア」

「!? あら、それは前の私は美人じゃなかったってこと?」

悪戯っ子のような顔になるクレア。ソウヤは苦笑する。

「いや、あの頃も美人だったよ。……わかってて意地悪するなよ」

「ごめん。……でも本当によかったわ。あなたが目覚めて」

安堵しながらベッドの端に座るクレア。ソウヤは彼女を眺めつつ言った。

「聞かせてくれ。オレが眠っていた直後から、この十年のこと」

相木ソウヤ、勇者の十年ぶりの覚醒。魔王が消え、世界がどうなったのか? 平和な世界を願い、今どうなっているのか。