作品タイトル不明
74話 最悪のタイミング、そして監視する者
「よーし、次はあっちのレーシングゲームだよ!」
「おい百地、一旦休憩にしないか?」
「私も本音を言うと少し疲れてきたかな」
「もー、ノリ悪いぞお二人さん」
現在、誠也たち3人は学校近くのゲームセンターへと繰り出していた。
御手洗先輩への告白が玉砕した後のことだ。気持ちを切り替えるために百地はストレス発散したいと近所のゲームセンターへと立ち寄り、鬱憤を晴らすかのように店の中の遊戯を片っ端から遊んでいた。
流石に失恋直後の彼女を独りにはできず、二人も百地に付き合う事にした。
ゲームセンターに入るなり、百地は全ての遊戯を制覇する勢いで遊び続ける。
最初は俺も星良も一緒に楽しむ余裕があったが、今はもうヘトヘトで見守る形となっていた。
「それにしても滝川、手当たり次第に遊んでいるけど小遣いの方は大丈夫なのか?」
「ちゃんと計算してるから大丈夫だって。それと、私のことは百地って呼ぶようにって言ったじゃん」
「ああ悪い。ずっと苗字で呼んでいたから……」
ちなみにだが、このゲームセンターで遊んでいる中で、彼女からこれからは名前呼びで構わないと言われた。
「あっ、次はあれやろうよ」
ハイテンションを維持したまま、彼女が指をさしたのはプリクラの筐体だった。
「プリクラか……」
「そっ。せっかくだし今日の思い出を形で残したいからさ」
思えばゲームセンターに遊びに来たことは何度もあるが、プリクラに手を出した事は一度もない。というか、男が一人きりでプリクラなんて想像すると少し不気味だ。
「3人一緒の写真撮ろうよ。ほらほら二人とも早く」
「プリクラなんて私も初めてだから少しドキドキしちゃう」
百地に背中を押されて俺と星良は画面の前に立たされる。
少し恥ずかしがってる俺と違い、星良は初めてのプリクラに興味津々らしく瞳を輝かせている。
「ほら、ここのボタンでフレームを選ぶんだよ」
「わぁ、この小動物のフレームとかすごくかわいい!」
完全に置き去りとなっている俺とは裏腹に、可愛いもの好きの女子二人は大いに盛り上がる。
そこから俺を真ん中に挟み、百地と星良はそれぞれ選んだフレームや加工を駆使して数種類の写真を作った。
ひとしきり写真を撮り終わった後も、二人は撮影した写真を眺めてお互いに感想を言い合っていた。
「ほら、このメイク加工した誠也君とか可愛いじゃん。星良の心をくすぐるんじゃない?」
「ほんと、これは記念にしないと」
人生初のプリクラがよほど興味を引いたのか、俺と同様に疲労していた星良もすっかり調子を取り戻していた。
女の子のハイテンションについていけず、俺は近くのベンチに座って様子を伺っていた。
まぁでも良かった。あの感じだと百地も本当に引きずっていないみたいだし。
幼馴染に対する失恋から立ち直る彼女に安堵するが、ふと視界の端に映り込んだ人物を見て息が詰まった。
「うそ……だろ……」
隠し切れない驚愕は声となって漏れ出てしまう。
俺の視界の先、つい先ほどまで百地が遊んでいたレーシングゲームのシートには2人の男女が座ってプレイをしていた。
その人物は御手洗蓮司先輩とその彼女さんだ。
何であの二人がこんな場所に……!?
まさかの人物達との邂逅に俺は冷や汗が止まらなかった。
思い返してみれば御手洗先輩が確か『この後にデート』だと言っていた。つまりこの遭遇はお互いにとって意図したものではないのだろう。
だがよりにもよってこのタイミングは最悪すぎる。
とにかく一刻も早くこの場から退散しないと……。
俺が気付かれぬようにこの場から立ち去ろうと思考を回していると、上機嫌な顔で星良が話しかけてきた。
「ねえ誠也君、せっかくだから二人でもう1枚撮りたいな。友達同士だけじゃなくてね、私とあなただけの思い出も残した……誠也君?」
無言で険しい顔をしている俺を不信に感じ星良が怪訝な顔つきになる。
俺は決して百地には悟られぬよう、視線で会話をして彼女を御手洗先輩の方角に誘導した。
「え、あっちに何かあるの……っ!?」
目配せをする俺に首を傾げていた星良だが、すぐに二人の姿を視界に捉えると俺の意図を察してくれた。
「あっ、そうだ百地さん。実はあっちのクレーンゲームで可愛いぬいぐるみを見つけたんだ。よければ一緒に協力してゲットしない?」
「おっ、いいね。それじゃあいっちょ星良の為に奮闘してみせますか」
無事に星良の誘導で御手洗先輩の視界から二人は外れる事に成功する。
「よし……俺も行くか」
最後にもう一度だけ先輩の方を振り返ってバレてないかを確認した。
どうやら二人はゲームを終えたらしく、今は顔を合わせて談笑している。
二人が話し合っている隙にその場を後にする俺だが、この時に実はそんな俺を遠巻きに眺めている人物が居た。
「ふ~ん……女の子二人仲良くはべらせて楽しそうだね~」
まるで監視するかのように死角から1人の女子生徒が笑いながらそう呟いていた。