作品タイトル不明
55話 決着、そして……
2年生の一部のサッカー部員を唆し、俺に対していじめ行為を働いた双葉の悪行に対し、学校側はしかるべき処置を取る事となった。
まず、今回リンチを働こうとした2年の先輩達は長期の謹慎処分が言い渡され、更にはサッカー部は退部処分となったそうだ。
だがその中で1人、中島先輩だけはそれ以上に重い処分が下された。
他の部員は直接手を出していないとの事で謹慎で済まされたが、中島先輩に関しては俺へ暴行を振るってしまっている。それ故に彼だけは他の2年と違い、高校からの退学処分が下される事となった。
そして最後、今回の黒幕である双葉も退学処分が下された。
幼稚園から共に時間を過ごした幼馴染を学校から追放した事実は分かっていたが重く、当然この件は俺の家族も知る事となった。
母さんは相当なショックを受けていた。
俺がいじめを受けていたこと、そして何よりもショックを受けていたのは、いじめ行為を先導した人物が双葉であった事実だった。
何しろ学校から連絡があった時、はじめは信じられず俺に何度も冗談じゃないかと確認してきたぐらいだ。
「ねえ誠也、本当のことなの? あの双葉ちゃんがあなたにこんな酷い事、本当にしていたの?」
あの時の母さんの顔はとてもじゃないが見ていられなかった。
どうか嘘だと言ってほしい。その思いが顕著に表れていて、まるで縋るように俺に否定してほしいと顔に出ていた。
それでも、どんなに残酷な事実だとして誤魔化すわけにはいかなかった。
「全部、本当なんだ。俺がいじめられたのも、それが全て双葉の仕組んだことも……」
母さんは言葉を失い、悲し気に目を伏せた。
だがそれでも母さんは、そのショックを受け入れ、俺のことをおもんばかってくれた。
「大変だったわね誠也。そして、母親としてあなたの痛みに気付けなくてごめんなさい」
「母さんが謝る事なんて何もないでしょ。それに俺の方こそごめん。こんな話をいきなりしてさ、動揺するよね」
「そうね。まだどこか現実感が薄いけど、でも事実なんでしょう。なら、ちゃんと受け止めるわ」
遠い目をしながら母さんはこの事実を受け止めてくれた。
その後、双葉の母親が自宅へと謝罪にやって来た。
俺の姿を見るなり、彼女は号泣しながら俺に土下座までしてきた。
「本当に、本当にウチの娘が申し訳ありませんでした」
その姿は痛々しすぎて、謝られている筈のこちらの胸が締め付けられた。
ご両親は双葉の親とは思えないほどの人格者であると知っていたから。一番の被害者はもしかしたら俺でなく、彼女の親であるご両親なのかもしれない。
だが痛ましく胸を痛める俺とは違い、母さんの対応はきっちりしていた。
「双葉ちゃんの件で息子は身も心も傷つけられました。何も知らなかった北條さんも気の毒だとは思いますが、今後一切、我が家とは関わり合いを持たないでください。この事は特に双葉ちゃんにも強く言い聞かせてください」
「はい、もちろんです。娘には深く深く言い聞かせます」
「お願いします。これでまだ双葉ちゃんが息子に何かしようものなら、その時は警察への相談も私は辞さないつもりです。たとえ相手が十年近く関係をもった双葉ちゃんだとしても」
一切の温情を感じさせないほど、冷酷にそう告げる母さんは恐ろしくもあった。
だがそれ以上に、俺の為にここまで激怒してくれる事が嬉しく、もう何度目になるか憶えていない涙を俺は零していた。
こうして完全に問題が終結してようやく安息が訪れたが、俺の心は決して晴れたりはしない。
「これで全部終わったんだね」
屋上でここまでの出来事を振り返っていると、隣の星良がそう言った。
「私もこれで気が抜けちゃった気分かも。もう誠也君が傷つく事もなくなって、また平穏な生活が戻るんだから」
「ああ、そうだな……」
「……やっぱり、胸が痛い?」
そう静かに問いかける彼女に俺は無言で頷く。
今の俺の心中など、彼女にとってはお見通しに決まっている。だから隠すことなく、本心を吐露していく。
「もっと違う結末があったんじゃないかって考えてしまうんだ。俺だって双葉に復讐したいとか、学校から追い出したいとか考えていた訳じゃない。彼女が戻れないほど暴走してしまった、だからこの選択しか選べなかったとは理解している。でも……色々と考えちゃうんだよ……」
「それでいいと思うよ。悩んで、後悔して、それでも一歩ずつ前に一緒に進んでいこう。私だって双葉ちゃんとこんな別れ方、いい気分しないよ。今だってモヤモヤ考えている始末。だからね、お互いに吐き出し合って進んでいこう」
そう言いながら彼女はそっと俺の頬に唇を添えた。
その行為は何があっても俺の味方である彼女なりの証明であり、同時に自分の弱さを支えてほしい行為の現れだと俺は悟る。
「そうだな。心の奥底にまだ色々と溜まっているけど、星良と一緒になら先に進んでいける」
この心の傷は決してすぐには消えないのだろう。
でもその痛みを抱えて生きていく事に不安はない。
だって……こんなにも俺を愛してくれる人が、この先の道を一緒に歩いてくれるのだから……。