軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43話 星良VS双葉 ②

スマホ越しに聴こえる、どこか余裕すら感じられるほど、双葉ちゃんの声は落ち着いていた。

このタイミングで私が個人的に連絡を入れれば、多少は声に動揺が混じると思っていたので、ここまで平坦な口調で応対され少し驚いた。

『もしもし北條さんよね? 私に一体何の用かしら?』

しばし呆気に取られていたが、スマホ越しから発せられた言葉で瞬時に我に返った。

「こんばんわ双葉ちゃん。こうしてスマホで連絡するの、久しぶりだね」

『ええそうね。それで、もう一度聞くけど要件は何かしら? わざわざこんな夜遅く、まるで他の人間には聞かれたくない話でもするかのようにコソコソと』

彼女の口にした、最後のコソコソという表現の仕方、それは暗に無駄話はいいから本題に入れと言っているようだった。

私としては彼女のこの姿勢はむしろありがたかった。こちらとしても、昔話に花を咲かせる気など皆無なのだから。

「前置きは抜きにして単刀直入に聞くね。双葉ちゃん、今日の昼休みにサッカー部の先輩達に誠也君が痛めつけられたの」

『ふ~ん、それはご愁傷様。で、それを私に話してどうしろと?』

「サッカー部の先輩が誠也君にリンチを働こうとした理由って、双葉ちゃんが痛めつけるように命令したからだよね?」

『はぁ? ぷっ、あっはは!』

一切取り繕う事もせず、私はダイレクトに事実をぶつけてやった。

だが返って来たのは観念の意でなく、嘲笑を含んだ笑い声だった。

「何がおかしいの?」

『そりゃ笑い声も出るわよ。こんな夜分遅くにどんな要件で連絡を入れたかと思えば……』

最初は笑い声を入り交えて喋っていた彼女だが、次第にその声色には苛立ちが募っていくのは、スマホ越しでも感じ取れた。

『くだらない言い掛かりの為に人の時間を浪費して楽しい? ほんっと、言い趣味をお持ちで』

彼女には一切焦燥感が感じられなかった。

この反応を窺う限り、彼女はよほど中島先輩達を上手に飼いならしていたのだろう。

彼女にとって先輩たちは、言うなれば調教が完了したペットに近いのだろう。

甘い言葉で彼等に取り入り、中毒の強い餌を垂れ下げて裏で操る。まるで女王様気取りの双葉ちゃんに、私の思い出の中で生きている彼女が汚されていく。

「もう……やめてよ……」

これ以上、純粋だった頃の彼女を汚して欲しくない。

お願いだからあなたに更なる失望をさせないでほしい。

そんな切実な願いが言葉となって零れ落ちる。

『えっ、何? ぼそぼそと何を言ってるのかしら?』

私の痛みなどお構いなしに、双葉ちゃんは更に落ちぶれていく。

『もう通話を切ってもいいかしら? 明日も学校なんだからさ』

そう言いながらスピーカーからは、退屈そうな欠伸が聴こえてきた。

自己反省など皆無、自らの罪に負い目すら感じない態度に我慢できないのは私の方だった。

だからこそ、私は容赦なく彼女の心に剣を突き刺し追い込む。

「中島先輩がもう自白したよ。誠也君へのいやがらせ、全てあなたが裏で企てていたって……」

『……はぁ?』

これまで余裕ぶっていた双葉ちゃんの口から、今までとは毛色の違う声が聴こえた。

『な、なにを言ってるの? 言っている意味が分からないんだけど?』

僅かに震えが生じたその声は、スマホ越しで直接その顔色を拝まずとも、動揺を隠しきれていない事を容易に悟らせる。

彼女がどれだけしらを切ろうが、もう証拠はこちらの手の内にある。

私や南条の脅しに屈した中島先輩達は全てを暴露した後なのだ。それに証言だけでなく、明確な証拠だってこちらは手に入れる事に成功している。

「中島先輩と双葉ちゃんのラインのやり取り、その一部分のメッセージを押収する事に成功したの。これでもまだ言い逃れるつもり?」

双葉ちゃんと、傀儡のサッカー部員達は、証拠隠滅の為にメッセージのやり取りを即時消去していた。

データ復元ツールなどを利用し、時間をかければ削除したメッセージを復元する事は可能だが、今回はそんな手間をかける必要はなかった。

大半の部員達はメッセージを消去していたが、中島先輩のラインには双葉ちゃんとのやり取りの記録がしっかり残っていた。

――『大丈夫だよ。明日以降は精神的な制裁方法にチェンジするからさ』

――『ありがとうございます! やっぱり中島先輩に頼んで正解でした!!』

他のメッセージはちゃんと命令通り消していたようだが、このやり取りは丸々残っていた。

中島先輩と双葉ちゃんがこのようなやり取りを終えた直後、タイミング良く私は彼を廃倉庫に呼び出すダミーメッセージを飛ばし、彼をおびき寄せた。

彼は焦りのあまり、彼女と交わしたこの不快なやり取りを残したまま、のこのこと誘い出されてしまった。

「もう一度言うよ双葉ちゃん。私は証拠をもう掴んでいる」

もう言い逃れは許さない、その気迫を乗せて私はそう告げた。

そこからしばしの間、彼女は無言のまま応答してくれなかった。

だが小さく息をのむ声が聴こえた直後、凄まじい怒声がスピーカーから響き渡って来た。

『うるっさいのよ、この泥棒猫がッ!!』