軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話 私は君の為なら鬼にだってなれる(星良視点)

誠也君に抱きしめられ、彼の暖かな体温を感じながら、私は今のはしたない顔を見られないように気を配る。

自分が傷ついたばかりだというのに、彼は何よりも私の身を案じてくれている。

「それじゃあ星良に負担をかけるけど、弁護士先生への相談、頼めるかな?」

本当であれば誠也君も今すぐにでも学校側に報告したいはずだ。

だがあの連中は去り際、あろうことか誠也君に対してこう脅した。

『あ、そうそう。これは独り言だけどな、この期に及んで教師や親に相談するなら、今度は標的が隣に移るかもなぁ~』

この言葉が原因で誠也君は迂闊に動けなくなったのだろう。

だからこそ、渋々ながらもこの件を私に一任してくれる事を承諾してくれた。

ごめんね誠也君、本当はあなたに嘘なんてつきたくなかったけど……。

私の北條組が顧問弁護士と契約している事は決して嘘ではない。

では私が彼に付いた嘘とは何か、それは弁護士相談するという点であった。

あいつらは反省どころか誠也君を脅した。

それもこの私を人質のように扱った。

許せない、私を人質として扱った事がではない。誠也君は私という存在を本当に大事にしてくれている。そんな彼の弱みに付け込む事が許せなかった。

だからこそ私は奴等への対応を〝変更〟する事にした。

温情のある表側の常識でなく、裏側のケジメを取らせる事にしたのだ。

今後の方針を話し終えると同時だった。昼休み終了を報せるチャイムが鳴り響く。

「お昼休み、終わっちゃったね」

本当なら頑張って作った私の手作り弁当を食べてもらう筈だったのに。

彼の口から美味しいと言ってもらい、昨日は行わなかった食べさせ合いっこだってしてみたかった。

本来なら堪能できた幸福な時間を妨害され沈んでいると、誠也君は頭を撫でながら私を気遣ってくれた。

「あのさ、このお弁当だけど家に持ち帰って食べていいか? ちゃんと明日に弁当箱も返すから」

「え、でも誠也君の家だって夕食が用意されてるんじゃ……」

「全然大丈夫だよ。すきっ腹だし夕食と一緒にこのお弁当だって、ぺろっと平らげられるさ。それにさ、星良が頑張って作ったお弁当を無駄にしたくないし」

ああ……憂鬱だった気分が一気に高揚していくのが分かる。

私の努力を無駄にしまいとしてくれる彼の優しさに、自然と頬が緩んでほころんでしまう。

「分かった。じゃあ明日、お弁当の感想教えてね」

「ああ、もちろんだ」

結局、昼休みに誠也君と一緒にお弁当を食べる暇はなかったが、それでも私の心は幾分か晴れた。

急いで一緒に教室に戻った時、既に5時間目の受け持ちの教師が到着しており、私と誠也は一緒に軽い説教を受けた。

その際に、先生は誠也君の頬が少し赤く腫れている事に気付く。彼は咄嗟にぶつかって軽い打ち付けだと言っており、その姿に胸が痛む。

そして私はハッキリと目撃した。

「ふふふ……」

私を……傷ついた誠也君を見て嗤っている双葉ちゃんの姿を。

あの笑みだけでもう私は確信を持つ。この騒動の主犯は彼女であるということに。

この瞬間、私の中で綺麗だったころの双葉ちゃんとの思い出が引き裂かれた気がした。

そう……それがあなたの選択なんだね双葉ちゃん……。

この時、私の怒りの炎が焼き焦がす対象者が1人増えてしまった。

できる事ならかつては仲の良かった幼馴染、もうお互いに干渉せず、それぞれの道を歩めたらそれでよかった。

でも誠也君を傷つけてしまった以上はもうダメだ。

私は愛する人の為ならば、誰が相手でも鬼となる覚悟がある。

◇◇◇

放課後の学園、大概の運動部の部活練習も終わった頃、各々は帰り支度を済ませて帰路についていた。だがサッカー部の、厳密に言えば2年の一部男子は未だ学園内に残っており、彼等はある話題に花を咲かせ盛り上がりを見せていた。

「いやーそれにしても昼休みはスカッとしたな」

そう言いながら笑うのはサッカー部2年男子、中島馬頭だった。

彼は昼休みの屋上で誠也を殴った時の事を思い返し、一切の反省などなく悦に浸った様子でこう仲間たちに続ける。

「それにしても屋上でのアイツ、本当に無様だったよな。少し軽く殴っただけで紙切れみたくフッ飛んでいたぜ」

「だよな~。三日月ちゃんもあんなダサい幼馴染持って苦労しただろうなぁ」

この場に居る面々は誰一人として罪悪感など芽生えず、それどころか見当違いに三日月に同情をしていた。

そこからも誠也への侮辱で盛り上がる一同。そんな彼等の纏め上げ役である中島がこう言いだす。

「長年の幼馴染を、俺達のアイドルたる三日月ちゃんを苦しめたんだ。この程度で済ませる訳にはいかねぇ。あいつにはもっと制裁を加えねぇとな」

「でもよ、いくら脅しているとはいえ何度も殴ればヤバくね?」

「な~に、制裁方法は何も肉体限定に拘る必要はないだろ。精神的に追い詰めてやる方法なんざいくらでもある」

中島のその言葉に残っている部室内の全員が醜悪な笑みを浮かべつつ、明日以降の誠也へ行う〝制裁〟という名の〝イジメ〟方法を出し合い出す始末だった。

だが彼らは知らなかった。この放課後を境に、もう彼らは誠也へ干渉する暇などなくなる。だって……自らの〝生命〟を護る事に必死にならざるを得なくなる。

彼らが苦しめた大道誠也の背後には、鬼の顔を持つ恋人が既に、彼等への禊をさせる準備を終えているのだから……。