軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1、運がいいのか、悪いのか……

茉莉花は運の悪い女の子だった。

たとえば今日も、茉莉花はバスに乗っていただけのはずだった。

しかし、気がついたら扉のない壁だけの閉塞的な白い部屋にいた。色が全部剥げ落ちたかのように果てしなく濃密な真っ白な部屋だった。窓すらない部屋は外部との接点が完全に遮断されており、出口のない円周のように物理的に閉ざされている。茉莉花だけではない。バスの運転手と乗客全員がその部屋にいたのである。

バスの乗客は、ちょうど下校時間だったこともあり茉莉花の学校の生徒が大半を占めていた。そのこともあって幾つかのグループができていたが、友人のいない茉莉花は一人であった。

茉莉花は壁側に一人で立ち。

茉莉花の高校の生徒たちのグループが五つ。

運転手を含む一般乗客たちのグループと親子連れ。

バスは満員に近かったので50人〜60人の人間が白い部屋の中にいた。何故、自分がここにいるのか状況がわからずに皆が動揺を隠せない顔をしている。

家族は茉莉花を愛して大事にしてくれていたが、子どもの頃から茉莉花が不運であることは有名であったので、巻き込まれることを恐れた周囲から距離をおかれていた。

偏見と忌避で無責任な噂が広まり悪評が立ってしまったのだ。

けれども茉莉花の不運は、自身が不運なのではなくて、誰かの不運な場面に居合わせてしまい巻き添えになる、というものであった。それが茉莉花にとって不運といえば不運であるのだが、そんなことが多々重なったために茉莉花自身が不吉だという悪名となってしまったのだった。

結果として友達0人を更新継続となり一人ぼっちとなったが、茉莉花はへこたれない性格であった。

家族からの愛情たっぷりの生活ゆえに世間の風聞に負けぬ打たれ強さの性格へと成長していたからだ。それに、もともと他人と足並みを揃えることが苦手だったので一人ぼっちであることは茉莉花的に都合がよかった。

学校でのグループ分けの時が不便だったが、茉莉花以外にも一人ぼっちの生徒はそれなりにいて教師も配慮してくれたので不自由することはなかった。

結果として茉莉花は、深海魚のように静かに教室の隅っこ暮らしを堪能する生徒となったのだった。

だから今も茉莉花は部屋と人々の様子を、真夜中に無人のブランコが揺れていた時みたいに注意深く観察していた。またもや何かの災難に巻き込まれたのかも、と。

今は図太い茉莉花だが、幼い頃は自分の行動や考えを柔軟に受け入れられない臆病さもあって精神的に追いつめられたことが幾度もあった。悪いことに病気も重なり毎日が断崖絶壁に立っている気分であった。学校の屋上から飛び降りたいわけではない、しかし、もう耐えることができない。ひたすらここにいることが苦しい。咲けない花に降る雨のように。辛くて堪え難くて。でも飛び降りるには気力が足らなかった。何よりも茉莉花には想像力がありすぎた。茉莉花を愛し続けてくれた家族が嘆く姿が想像できてしまったのだ。

茉莉花は知っている。

転んだことがあるからこそ見える世界もあるのだ。

極限の状況での人間の本質を。何度も何度も経験してきたのだから。

悪魔になる人間と。

悪魔にならない人間と。

他者を踏みにじるくせに自分がされれば怨言を吐く人間と、自分にできることとして勇気をもって他者を助ける人間。

弱いものに対して優越感を抱く人間もいるし、弱さを盾にするものもいる。強いものや悪いものに対して立ち向かえる人間は少ないのだ。

そして一番多いのが「何もしない」「何も言わない」人間。

行動することによっての心理的負担と予想外のリスクは大きなマイナス面となる。それに、何もせず何も言わなければ自分にも他者にも言い訳ができる。こんな結果になるとは思わなかった、と。自分の責任ではない、自分は悪くない、と。

茉莉花は周りを見回した。

耳に届くのは、

「怖い……、ここはどこ?」

「どうして私は……」

「誰か説明して」

「ねぇ、わからないの……」

「うるせぇ」

「俺だってわかんねぇよ」

と、周囲の人々の怯えた声や怒鳴り声だ。心に重い錨が下ろされているみたいに不安げであった。

その声に重なるようにして茉莉花の耳の奥で誰かが叫ぶ声が蘇る。ぐゎっ、と負荷がかかった。鼓膜が破れそうな鋭い声と重い音の振動がフラッシュバックする。

「落ちる」

「助けて」

「痛い」

「熱い」

脳裏に浮かんだのはグニャリと歪むガードレール。対向車のブレーキ音。山の上に建つ学校からの下りの崖道で何かの衝撃を受けてバスごと落下した記憶であった。

ヒュッ、と喉で息が詰まる。

私、死んだの? 茉莉花の額に汗が滲んだ。

『皆のもの、よく聞け〜』

突然、声が響いた。

『この部屋は、これから1分ごとに1度の温度が下がるぞよ〜』

口調は軽いが、悪意が滴る毒のような声だった。

『凍死を回避したければ、この部屋に1人だけ残るのじゃ〜。残る1人が決定したならば全員で挙手しろ〜。そうすれば隣の部屋への扉が開くぞよ〜』

あまりの残酷な内容に茉莉花の肌が粟立った。

驚愕に人々がざわめく。

「誰だよ!? てめぇ、誘拐犯か!」

茉莉花と同学年くらいの男子生徒が喚いた。

「いきなり何よ! イタズラにしては度がすぎるわ!」

「ここから帰して。返事してよ!!」

「姿を現しなさいよ!!」

女子生徒が大声を上げたが、白い部屋に虚ろに谺するだけだった。

再び声は響かなかった。

どんどんと部屋の温度が急激に低下していく。

次第に、人々の表情に切迫した恐慌が混じっていった。

「やだ、寒い」

「と、凍死って……。本当に……?」

「そんな、嫌よ! 死にたくないっ!!」

「は、話し合おう?」

「バカ言うなよ! お前は死ね、って投票か? それとも吊し上げか? 何を話し合えって言うんだよ!!」

「誰か残れって!!」

「はぁ!? そう言うお前が残れば?」

キリキリと歯を鳴らした男子生徒たちが興奮して睨み合う。恐怖が蔓延して心の均衡が乱れ始める。女子生徒たちが泣き出すと緊張がさらに高まり、各グループ内は結束を強くして他のグループを探るように様子を窺った。

人間はマイナス50度からプラス50度の外気温の間ならば生きていられるが、それは整えられた条件下のみである。体温の上限は42度、下限は28度もしくは27度。下限の体温を下回ると低体温症となり意識が昏睡して20度以下では心停止に至る可能性があった。

すでに人々の吐く息は白くなっていた。

はぁ、と空気を曇らせるが一瞬で砂糖菓子のように溶けてしまうほど温度が低い。

1分1分と、体温の調整が自己で不可能になり生命維持が難しくなる時間へと近づいてゆき、皆が寒さでブルブルと身体を震わせる。徐々に不安と焦りは敵愾心へと変化して、お互いに害意を抱いて深めた。

茉莉花が迷ったのは数分だった。

「私が残ります」

高く手をあげる。

かつて茉莉花は嘘をついた。妖精さんが見える、妖精さんが助けてくれる、と。成功率50パーセントの手術に、その嘘は家族にとって希望であり最後の砦となった。

手術は成功して茉莉花は元気になったが、再び茉莉花は嘘を唱えた。

「私、手術をするんです。成功率は50パーセントです。逃げるにしても体力がありません。私が残るのが一番いいと思います」

と、他者の負担にならぬように自身の生存率の低さを匂わせた。

茉莉花は、毎年同じことができることの幸せを知っていた。どの年でも同じことを繰り返せることは貴重なのだ。

冬の寒さをどこかに残した早春の花も。

春爛漫の華やかな花も。

生命力の溢れる緑の夏も。

小川の流れに葉が落ちて小舟となる秋も。

葉のない木の梢に星々が輝く冬も。

あたりまえのことはあたりまえではないのだ。

部屋は真冬並みに寒い。

立っている靴先から冷気が這い上がり身体を刺すように締め付けていた。唇の色が変わり、関節が痛い。骨の髄まで寒さに蝕まれて冷たく軋んだ。

誰かが何かを言おうとしたが、それは口の中で気化して数秒の沈黙が続いた。

やがてノロノロと手があがった。

ひとり。

ふたり。

さんにん。

挙手する人数が増えていく。

全員の手があがると、茉莉花と反対側の壁に扉が現れて開いた。

ドッ、と我先に人々が扉をくぐる。

誰も茉莉花を見ない。振り返った者も少数いたが、罪悪感から視線を逸らして足早に去っていった。

茉莉花も見送らなかった。

俯いたまま去っていく足音だけを聞いていた。

茉莉花だって残るのは恐い。視線を合わせてしまえば泣く寸前の歪んだ自分の顔を見られてしまう。嫌だと叫んでしがみつくかも知れない。

決して茉莉花は顔を上げることをしなかった。

とうとう部屋には茉莉花ひとりとなり、パッと扉が消える。

『ねぇ、君、どうして残ったの〜?』

正面から聞こえた声に茉莉花は総毛立って、崩れるように土下座した。

見てはいけない。

本能が警告する。

心臓が破裂しそうなほど速く脈打った。

『君の身体は健康なのに嘘を言ったよね〜。どうして〜?』

覆い被さるように、土下座した頭上から声がした。太古の夜空のような暗闇が頭に伸し掛かっているみたいな重圧感がある。ずるずると地滑りをするように粘りつく声が首筋にドロリと粘着した。

あきらかに最初の時と同じ声なのに、何かが違った。

歯の根が合わぬほど震えるのは寒気ではなく畏怖故なのか、茉莉花はかじかむ手を握りしめた。慣性に従って流れる血液が凝固したみたいな錯覚に襲われて全身が強張る。声だけでも恐ろしい。おそらく姿を見てしまえば自分を保てなくなる。ひたすら茉莉花は頭を低く下げて、声を喉奥から絞り出した。

「……私、私は臆病者なのです。誰かを犠牲にして生き延びて、何事もなかったかのように平然とこの先を生きていけません……。それに隣の部屋でも、もしかしたら同じような選択があるかも知れません。それは耐えることができない、と思いました。だから最初のこの部屋で脱落した方がいい、と……」

『ふ~ん。つまり自分のため〜?』

茉莉花が唇を噛んで頷いた。嘘など言えない。真実以外は許されない、と茉莉花の直感が訴える。

「…………はい、そうです…………」

『正直だね〜、それに勘もいいし賢いね〜。気に入った、転移させてあげるよ〜。え〜と、君たちの世界では転移する時に三種の神器がいるンだっけ〜? 言語と鑑定と収納の能力をあげるよ〜』

「……あの、神様?」

『神ではないよ〜。似たような力を持っているけどね〜。君たちの乗ったバスは崖から落ちてね〜、皆シンじゃったんだよ〜。たまたま見てたンだ〜、だからちょっと遊ぼうと思って〜』

ゾッと冷や汗が背中に流れた。

隣の部屋に行った人々は遊びがエスカレートして過酷な状況になるのではないか、と茉莉花の本能が警鐘を鳴らした。

それに転移したとしても厄災が降りかかる確率が高いのでは、と茉莉花は思った。

「……あの、ありがたいお言葉なのですが転移はせずこのまま成仏したいと思うのですが……」

『え〜? ああ、安全とかが心配なンだね〜?』

思考を読まれた茉莉花が、ビクリと肩を震わせた。

『警戒心の強いおりこうさんだね〜。よし、番を付けてあげようね〜。絶対に君を裏切らないよ〜。じゃあね、僕、もっと遊ぶから〜。バイバイ』

眩い光に包まれて、ギュッと目を閉じ、開いた時には何故か茉莉花は魔法陣の中にいた。

しかも目の前には剣を突きつける男性がいる。

「ぴっ」

と、奇妙な声をあげて固まる茉莉花。だが直前まで対面していた恐ろしすぎる〈声の主〉と比べると男性への恐怖は薄かった。

白刃の光が反射する。

殺されてしまうかも、と腰を抜かすとか生きた心地がしないとか脅威を感じるはずなのに〈声の主〉への恐怖が絶大すぎて、茉莉花は感覚が鈍くなり麻痺に等しくなっていた。それだけ〈声の主〉の恐怖は次元が異なるレベルであったのだ。

「…………番だ」

男性が剣を投げ捨てて茉莉花に抱きつく。強く、しかし決して壊さないように丁寧に。茉莉花を腕で囲い込む。

「番だっ! 俺の番っ! ああ、すまない。怖かっただろう。いきなり魔法陣が輝いたので、何が転移してくるのか警戒して剣を持っていたんだ」

「ま、魔法陣……?」

「ここはダンジョンの最下層のボス部屋だ。ボスを討伐したら宝箱といっしょに魔法陣が現れたんだよ」

茉莉花は周囲を見渡した。

広い部屋は岩壁で、天井の光る苔が光源となっていて明るい。苔はリング状に生えているため、洞窟の暗闇の天蓋を飾る金環食みたいだった。

空気は湿った水の匂いがする。そこに薄っすらと混じる血臭。首を切断された竜の死骸が横たわっていた。部屋には大きな竜の死骸と宝箱と、男性と茉莉花だけであった。

竜をソロで討ち取ったらしい男性に、茉莉花はびっくりして目を見開く。

茉莉花の視線の意味を感じた男性が照れたように笑った。

「俺、S級の冒険者なんだ。自慢になるけど強いんだ、君を必ず守るよ。だから名前を教えて? 俺の名前はジーク・ライドルド」

「……茉莉花です」

用心深い茉莉花はフルネームを言わなかった。異世界なのだ。名前は重要な鍵になるかも知れない。

その時。

『ねぇ〜、聞いてよ〜! 君以外はありきたりで全然おもしろくなかったンだよ〜! 自分たちで殺し合いをして酷かったンだよ〜! やっぱり君が一番だから、お気に入り登録して時々見にくるね〜! 死なないように結界と精神耐性をあげる〜。あ〜、拾得も楽しそうだからあげるね〜』

「え?」

茉莉花がきょとんとする。声だけなので威圧感はないが、急に言われても理解が追いつかない。

『その男、凄まじく強いから安心してね〜。君の場合、相性バツグンの番候補が複数いたから迷ったンだけどね〜。その男が嫌なら第二候補の王子の元に送ってあげるよ〜?』

「は!? 第二候補だと?」

ジークが獣のように唸る。

おそるおそる茉莉花が返事をした。ここで断らないと白い部屋の二の舞いで〈声の主〉のおもちゃになりそうな気がしたのだ。

「……あの、王子様なんて荷が重いです」

『そう? ふふ、君は賢いね。じゃあ、また見にくるね〜』

自分勝手に言いたいことだけを言ってプツンと消失した〈声の主〉に茉莉花が茫然とする。

「ありがとう!」

ジークが茉莉花に縋りついた。

「よくわからない現状だが、あの声がヤバい存在だとは本能が叫んでいた。あやうく君を失うところだった。俺を選んでくれてありがとうっ!! 絶対に君を幸福にする、すぐに結婚しよう!!!」

「け、結婚!?」

涙を流さんばかりの顔をして気迫満点で誓いを立てるジークに茉莉花は硬直した。

鬼気迫るジークに、選んだわけではないと言えない茉莉花。王子という地位に付属するものが嫌だったのだ。

茉莉花はシンデレラにはなれない。

シンデレラは一人で王宮のパーティーに遅れても出席する度胸があった。でも茉莉花は、たとえば皇室主催のパーティーに一人で遅れて出席しなさい、と招待されても出席なんてできない。そんな胆力はない。それにシンデレラは王子と釣り合う身分と家柄があったから結婚できたのだ。

くわえて〈声の主〉の愉快犯的思考も怖かった。

異世界でも前途多難な、いや〈声の主〉が絡んでくるので悪化した現実に、茉莉花は「成仏したかった……」と遠い目をしたのだった。

「……あの、」

とりあえず茉莉花は白い部屋でのことをジークに話すことにした。異世界のことまでは話さない。この世界の常識がないのだから、茉莉花の言動が用心深くなるのは当然であった。

ジークは遠く未知の他大陸から無理矢理に転移させられて、この大陸の常識がないと判断したみたいだった。言語は通じるのだ。まさか異世界からの転移とはジークは思わなかったのである。

番に関することと一言も漏らさず耳を傾けたジークが渋い顔をした。

「神と等しい力、か……」

「はい」

「厄介な存在だが、これでも俺は元貴族だ。悪辣さには自信があるし、力では劣るが鍛錬して能力も上げる。任せてくれ。それより今はマリの能力の方が問題だ。どれも貴重な能力で、所有している者は国に一人か二人かだ。ダンジョンの外では能力を口外してはいけないよ」

真剣に頷く茉莉花にジークが目を細める。

茉莉花ではなくマリ。ジークは茉莉花の名前を正確に発音できなかった。

種族の掟として、伴侶の名前を正確に発音することは不可欠な条件である。泣く泣くジークは茉莉花の名前を正確に発音できるようになるまで求婚を一時的に諦めたが、茉莉花はホッとしていた。

くわえてジークは、茉莉花が番の感覚が薄い種族だと会話をするうちに理解した。この世界には多種多様な種族がいる。大多数の種族は番の感覚が強いが、番の感覚が弱い極少数の種族もいるのだ。

その極少数の種族に番を強要するとたいていは失敗するので、ジークは慎重になっていた。

まず茉莉花との歩み寄りをして信頼関係を築くことが優先である、と判断したのだ。

「マリ。悪いけど竜と宝箱を収納に入れておいてくれないか? このダンジョンの魔物は倒されると30分でダンジョンに吸収されるんだ。収納に入れてしまえばダンジョンの支配から離れるから吸収されることなく素材として使える。竜は高値で取り引きされるから持ち帰ろう。それに竜肉は旨いんだ、帰路に食べようか?」

「食べるのですか?」

「このダンジョンには便利な転移陣がないんだ。帰りの食料は多い方がいい」

「はい、わかりました」

「それからマリ、君の服は目立つ。俺の予備の服で申し訳ないが着替えてくれ。サイズが違う所は切るか紐で工夫しよう。ダンジョンでは装備もなく手ぶらもありえないから俺のカバンで偽装しようか」

岩陰で着替えた茉莉花の姿にジークは弛みそうになる口元を引き締めた。番が自分の服を着ているのだ。つまり自分の匂いつき。素晴らしい。

「あっ!」

茉莉花がボス部屋の隅っこに走り寄ってスチャッとしゃがむ。

「綺麗……」

いそいそと綺麗な石を収納に入れる茉莉花。〈声の主〉から貰った拾得は文字通り落ちているものを目敏く拾うスキルで、茉莉花は非常に気に入っていた。日本にいた時は、ちまちまと小さい物品を集めるのが好きだったのだ。

「楽しい」

にこにこして茉莉花が立ち上がった。

ジークが口元を手で覆う。

声には出さず口の中で「俺の番が可愛い、無限大」と呟いて、茉莉花にバレないように身悶えた。茉莉花の前では、かっこいい俺でいたいジークなので余裕のあるシレッとした顔をしている。

「行こう」

差し出されたジークの手を茉莉花は背筋を伸ばして取った。

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。何があっても守るから安心しておくれ」

こうして茉莉花とジークはボス部屋から出て、地上を目指して歩き出したのであった。