軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.新聞

クロイゼル子爵家の舞踏会での事件は、翌朝にはもうすでに国中に広まっていた。

驚くことに大衆紙に大きく取り上げられていたのだ。

「いくら何でも記事になるのが早すぎない? 誰が漏らしたのかしら……」

オパールは新聞をテーブルに置いて呟いた。

記事の内容はここ最近巷を悩ませていた賊の正体が貴族の子息たちだったと、かなりセンセーショナルに書かれている。

大事件であることは間違いないのだが、オパールが気になったのは記事の内容がかなり詳細なことだった。

舞踏会で起こったこと、クロードが言ったセリフまで正確な上に、オパールの知らないこと――法務省の内部事情まで書かれているのだ。

「近頃は識字率も上がって、新聞は市民の娯楽になりつつあるからね。どうせ皆に知れてしまうなら正確な情報をと法務省も考えたんじゃないかな。市民の敵である賊が貴族のボンクラ……いや、上流社会の者たちだったなんて、かなりの反感を買うからね。ただでさえ最近は市民の貴族に対する不満が募っているのに、これが火種になって大きく燃えてしまっては困る。だから法務省や真っ当な貴族たちが悪の貴族を倒したといった図にしたいんだよ」

「国民のみんなが平等な権利を手に入れるのは素晴らしいことだと思うわ。だけど急ぎすぎてはどこかに歪が生まれるかもしれない。それなのに最近は色々と物事が急速に進みすぎていて怖くなる時があるの」

「そうだな。この国もタイセイ王国も他の国も、今は目まぐるしく変化しているよな。ぼやぼやしているとあっという間に時代の変化についていけなくて、置いていかれる」

クロードは言いながら、テーブルの上の新聞を取り上げた。

そして開くと、ある記事を指さす。

「それよりも俺はこの記事に腹が立つな。誰だよ、これ書いたやつ。アラン・マロンとか、ふざけてんのか?」

珍しくクロードが苛立っている。

キーモントたちの記事にばかり気を取られていたが、他に何か重要なことが書かれていたのだろうかと、オパールは視線を落として驚いた。

急ぎ新聞を手に取り記事に目を通す。

「何、これ……」

文字を指で追いながら、オパールは顔をしかめた。

記事には昨夜の逮捕劇だけでなく、オパールがキーモントを糾弾したことまで詳しく書かれていたのだ。

見出しは『弱き女性の味方! オパール・ホロウェイ・元マクラウド公爵夫人!』とある。

「名前を間違うなんて失礼よ!」

「ああ、そういえば間違ってるな」

「私はオパール・フレッド・ルーセル侯爵夫人よ。すぐに訂正文を載せるよう、抗議しないと!」

オパールが怒りながら新聞社の連絡先を探していると、クロードが噴き出した。

その笑い声を聞いて、オパールは顔を上げる。

「どうして笑うの? クロードも怒っていたじゃない」

「俺が怒っていたのは記事の内容だよ。この記者はオパールのことを褒め称えている。それはいい。真実だから。だが最後に『ぜひお近づきになりたい』とあるんだ」

「ただの締めの軽口だと思うけれど、クロードが嫌なら抗議するわ。私はクロード以外には興味ないって」

「いや、そういうことじゃない」

「じゃあ、どういうこと? きっとこの記者は私が再婚したことを知らないのね。記者としては取材が不十分だわ」

オパールは新聞社の住所を見つけると眉を寄せた。

ここからはそれほど遠くはないが、この後はクロイゼル子爵家に訪問するので時間がない。

「午後に時間があるかしら……」

「本気で抗議しに行くつもりなのか? きっと大騒ぎになるぞ」

「騒ぎにはもうなっているもの。それよりも抗議と一緒に寄付をお願いしようと思って。それを大々的に報じてもらえば、新聞社だけでなく団体の宣伝にもなるでしょう? しかも他の会社や個人での寄付が増える可能性もあるし、やらない手はないわ」

オパールが意気込んで言うと、クロードは再び噴き出した。

本当にオパールと一緒にいると退屈しないなと思う。

見出しや締めくくりはとにかく、記事の内容はこうだった。

『オパール・ホロウェイはジェブ・キーモントが騙し、無責任にも妊娠させた女性たちとその子供を救済すべく、キーモントから養育費として財産を譲渡させる手段を講じた。

そしてその悪事をクロイゼル子爵家の舞踏会で堂々と糾弾し、追い詰めたのだ。

彼女はマクラウド公爵との離婚時に莫大な財産を譲渡されており、それを元手に資産を増やして恵まれない人々のために還元している。

特に女性の保護と活躍を重視して保護団体を設立し、王都だけでなく地方へも救いの手を差し伸べようと活動を始めたらしい』

地方というのはオパールがノボリの街へと出かけたことから予想をつけたのだろう。

実際、オパールは地方都市の慈善団体の設立に力を入れている。

そんな彼女を道半ばも同然にタイセイ王国へ連れ去ってよかったのだろうかと、クロードは罪悪感を覚えた。

「クロード、どうかした? やっぱり淑女としてはしたない?」

「いや、まさか。違うよ」

先ほどまで笑っていたのに急に真顔になったクロードに気付いて、オパールは問いかけた。

やりたいことはたくさんあるが、まず一番はクロードを大切にしたいのだ。

プロポーズを受けた時からその気持ちは変わっていない。

この国にいる間にと、少し焦りすぎたかと心配したオパールだったが、クロードの答えは予想外のものだった。

「オパールはこの国の困窮している人たちを助けたいと頑張っているのに、俺の都合でタイセイ王国に連れて行っていいのか考えてたんだ。今のオパールはすごくいきいきしているから」

「それはそうよ。最近の悩みが少しだけ解決したんだもの。嬉しくもなるわ」

「悩み?」

「ええ。ずっとどうしたら多くの人に――できれば困っている人たちに保護施設や慈善団体のことを知ってもらえるか考えていたの。王都はいいけれど、地方だとまだまだ知られていないから。ノボリの街ほど大きな街でも全然だってことがわかったの。だけど、今回新聞で取り上げられたことで、少しずつでも変わっていくんじゃないかしら? 賛同者も増えれば言うことなしだわ」

「確かに……」

「それにね、私が助けたいのはこの国の人たちだけじゃないわ。タイセイ王国の人だって同じよ。あの国はこの国よりすごく発展していたけれど、社交界の人たちの意識はそれほど変わらないようだし、地方では疫病と内乱から立ち直れていない人たちがまだまだいるのでしょう? この国は私の生まれ育った場所で、状況も把握しているし協力者だって今はまだ少ないけれどいるんだから、私がついていなくても大丈夫よ。私はおせっかいだから、今度はタイセイ王国の人たちを助けるつもりなの」

オパールが胸を張って宣言すると、クロードはほっと安堵したように見えた。

次いで、満面の笑みを浮かべる。

途端にオパールの心臓はどきんと音を立て、そこからどきどきと早鐘を打ち始めた。

「ありがとう、オパール」

「ど、どういたしまして? あ、えっと、出かける用意をしないと!」

「そうだな。あまり遅くなっては新聞社に行くのが遅くなるからな」

「そうなのよ! じゃあ、また後で!」

結局、オパールはひとまず退散とばかりにその場から逃げ出した。

結婚してもうひと月近くなるというのに、未だにクロードのちょっとした仕草や言葉にどきどきしてしまう。

オパールは部屋に入って大きく息を吐くと、今日やるべきことを声に出して確認しながら、気持ちをどうにか落ち着かせたのだった。