軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12・1 もうそろそろ

世間でのオラスの評価が落ちている。

原因は、もちろんアレ。先月の、事故に見舞われた街の視察。貴族社会でも、城下でも『人格者のふりをしていただけの、卑怯者かもしれない』と噂されているのよね。

それで以前、私が元魔術師に人質にされたときのことも、蒸し返されている。

『ぶつかっただけ』というオラスの言葉は嘘で、『突き飛ばされた』という氷の令嬢の言葉が真実だったのではとの意見がだいぶ強い。

そこに更に、『オラスが嫌っているベルジュ公爵令嬢と婚約を解消しないのは、自分の仕事をすべて肩代わりさせていたため』という噂も加わった。

実際に私がオラスの代わりに作った書類も流出して、筆跡の違いがおおいに取沙汰されている。

ま、噂も流出も、私がやったのだけどね。

これで私との婚約が彼にとってマイナスなものにしかならなくなれば、破棄される可能性が高まると思うのよ。

だからオラスにますます嫌われるように、行動中。

ただ。ひとつだけ、気にかかっていることがある。

一連の事件。オラスの急な視察、突然の事故、魔法中継で王宮と繋がっていたこと。これは全部、シルヴァン様が企んだことのように思える。

最初は視察だけだと思った。だけどあまりにも上手くいきすぎているのだもの。それに小説の展開に少し似ている。

でも、本人に、「やった?」と尋ねたけれど、否定されたのよね。

私の知っている未来に似ているとも主張したけど、「俺がやるなら、もっと徹底的にやる」との返事が来た。

そこなのよね。

小説でシルヴァン様が企むのは、こんな生半可な程度じゃない。

来国した帝国の皇女殿下が王宮内で暴行されて殺される事件が起きるのだけど、オラスをその犯人に仕立て上げるのだ。魔法で様々な証拠を作りだし、本物の犯人には完璧なアリバイを授ける。

そうしていかに親バカな陛下でも、オラスに死刑を宣告するほかない状況にする。

息子を心から愛している陛下には、辛酸をなめるような苦痛のはず。

シルヴァン様は望んだとおりの復讐を成功させる――

というところで、アロイスの情報提供があり、シルヴァン様の計画は破綻。

強い絆で結ばれたピアとオラス(おまけでアロイス)対シルヴァン様の魔法対決になり、シルヴァン様は敗れることになる。

とにかく。今回の事件も小説の事件も、オラスをはめるという点が同じ。ただ、邪魔者をはめるのは、ラスボスの十八番みたいだから、気にするほどのことではないのかもしれない。

もうひとつ気になることがある。園遊会の翌日のこと。シルヴァン様は、退勤後にアロイスの部屋に集まることを禁じた。理由は、『アロイスを信用できないから』。

だからこそ探ったほうがいいと思うのだけど、私の意見は通らなかった。

ルシールと集まることは構わないというから困ることもなかったので、仕方なく従った。

ただ、もしかしたらシルヴァン様とアロイスはケンカをしたのかもしれない。園遊会以降、どことなくぎこちないのよね。

いれたてのアップルティーをシルヴァン様の机に置く。

陛下との会合から帰ったばかりで、だるそうに椅子にもたれかかっていたラスボスは、ソーサーが立てた小さい音に反応して目をあけた。

無言でカップを手に取り口元に運ぶ。

だけど唇に触れる直前で、止まった。

ぎろりと私を見上げる。

「最近オラスはどうだ?」

「『あまりしつこいと仕事をしろと命じた手紙を公開する』と脅して以降、近づいてこないわ」

「なるほど。国王の伝言だ。『オラスを支えてやってくれ』だそうだ」

「お断りよ。図々しい」

本当に、親バカここに極まれり、ね。愛息子の苦境に、胸を痛めているのだろうけど。私はもっともっとつらい思いをしてきたのよ!

「婚約破棄はいつだ?」と、アップルティーを堪能しつつシルヴァン様が尋ねる。

「私の知っている未来だと、そろそろのはずよ」

「破棄後はどうなるんだ? 新しい婚約者が決まるのか?」

「いいえ。悪人として、オラスに殺されるの」

婚約破棄された私は、ピアにいやがらせをするようになる。それは段々とエスカレートし、最終的に彼女を誘拐、外国の娼館に売り飛ばそうとする。

その寸前に、ヒーローのオラスがピアを助け出し、その場で私を切り殺すのよね。

シルヴァン様が険しい目を私に向ける。

「対策は?」

「なにもしていないわ。でもどうしたら回避できるかを知っているから、問題ないの。それよりもシルヴァン様の破滅のほうが困るから、そちらに注力するわ」

にこりと微笑む。

「……回避できなさそうなら、言え。お前のいれるアップルティーが飲めなくなるのは、困る」

まあ! なんて嬉しい言葉!

いままでで一番優しいセリフだわ!

「だったら、ずっと雑用係として私を使ってくださいな」

「……そのつもりだ」

「本当に? シルヴァン様、調子でも悪いの? そんな甘い言葉を私にくださるなんて、おかしいわ」

「能力を正当に評価してやっているだけだ」

「まあ!」

この数ヵ月、それなりに重宝されているなと感じることはあったけど、はっきり言葉にしてもらったのは初めてだもの。

素敵なことが立て続けに二件も起こるなんて。

雑用係をがんばってきた甲斐があるわ。

まずは婚約破棄を乗り越えて――