軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11・1 身勝手なシルヴァン様

筆頭魔術師の執務室に飛び込むと、急いで扉をしめる。

「氷の令嬢らしくない振る舞いだな」と机に向かっていたシルヴァン殿下が鼻で笑った。

確かにそうかもしれない。廊下も小走りしてしまったし、扉も音を立ててしまった。

だけど、そんな細かいことを気にしている場合ではないのよ。

「あなた、やったわね!」と、机に駆け寄る。

だけど、

「なんのことだ?」と、ラスボスは首をかしげた。

「とぼけないで!」

明日は園遊会。つまり今日は魔力暴走の事故が起こり、オラスがピアに助けられる日だった。

だけど魔法省で仕事中の私に報は、いつまでたっても届かなかった。

小説とズレが起きたのかと思い、退勤後に様子を見に行ったのだけど――。

「オラスとピアの件よ! シルヴァン様の差し金ね!」

「なんだ、わかったのか」

シルヴァン様は悪びれもなくそう言って、書きかけの書類に目を落とした。

「ベルジュ公爵家をなめないで。お兄様がすべて把握していたわ! 魔法省から全近衛兵に試作品といって、おかしなものを配ったわね。それに魔力安定剤が入っていたのでしょう?」

『魔法省から』ならば、試作も配布も筆頭魔術師の許可がいる。なのに私は知らない。ということは、シルヴァン様が意図的に隠したのよ。

省をあげてのものならば、どこからか私の耳に入ったはず。だってシルヴァン様に届く書類を管理するのは私だもの!

「『おかしなもの』とは失礼だな。肉体労働者向けの、安価な滋養強壮剤だ」

淡々と告げるシルヴァン様。

確かにお兄様も、そう話していた。近衛たちにも好評で、商品化してほしいとの声が多数上がっているとか。

いったいいつの間にそんなものを開発していたのかしら。私はまったく知らない。ということは、私が退勤したあとか、雑用係になる前か。

でも、その詮索はあとよ。

「それに肝心のオラスが王宮にいなかったわ! ピアに提案された視察で、街に出ていたって!」

彼女はオラスとのことは、なんでも私に報告する。外出ならば、必ずその前に。

なのに、今日のことは聞いていない。

ピアに口止めをした人がいるはず。

しかも――

「視察先で事故が起きたそうよ。オラスは庶民の女性を突き飛ばして逃げて、相手を大怪我させたって」

しかもその様子が魔法中継されていて、国王夫妻や重臣がばっちり見たらしい。

「ついに馬脚を現したな。よかったじゃないか」

「それはね。だけど、シルヴァン様」

頑なに顔を上げないシルヴァン様。ペンを動かす手が止まることもない。

「どうして干渉したの? これは大事な事件だと言ったわよね? ひどいわ」

怒りのせいなのか、声が震えた。

シルヴァン様がようやく私を見た。

「……泣くほどのことか?」

「そうよ」

指で涙をぬぐう。

婚約破棄への大事な事件だときちんと説明したのに、シルヴァン様がどうしてこんなことをしたのか。まったくわからない。

私に黙ってやったことも、悲しい。

「あなたがなにを考えているのか、わからないわ」

シルヴァン様が小さく息を吐く。

「……あの不愉快な小娘の評判が上がるのは、おもしろくない」

「ピアのこと?」

彼女にそれほど非はない。

ただ、少しばかり貴族令嬢としては型破りな活躍をしているし、貧乏で貴族のマナーを知らないから、それを面白く思わない人たちはたんといる。小説では、それが重要な要素のひとつだったし。

だけどシルヴァン様まで、彼女をよく思っていないとは知らなかった。今まで一言だってそんなことは言わなかったわよね?

だとしても――

私も負けじと長いため息を吐く。

「今回は絶対に、ピアの活躍が必要だったのよ。オラスが婚約破棄をしてくれなくなると、困るもの」

「お前からすればいいじゃないか」と、シルヴァン様がにらむ。

「陛下が我が子可愛さに認めてくれないって、何度も言ったわよね?」

普通に陛下に頼むのではダメなのよ。可能性があるのは、相応の覚悟が必要な奥の手をお兄様たちが断行することぐらい。

それぐらいに陛下はオラスを溺愛している。母親である最初の王妃様とは恋愛結婚で、彼女が産んだ唯一の子供だからだ。だけど王妃様のご実家は、力のない男爵家だった。

だからオラスに権力のある後見人をつけるという意味で、公爵令嬢の私が婚約者に選ばれたのよ。

陛下からすれば、私の気持ちなんてどうでもいいのだ。息子を助けるための駒に過ぎない。

「あなただって、よく知っているでしょう? どうしよう、婚約破棄が行われなかったら……」

「なんの問題がある。お前は見たのだろ? 俺がオラスをどうするか」

「だけど失敗したわ。ピアが邪魔をするから」

「回避させてくれると言わなかったか?」

「そうだけど。でもそれはまだ先のことだし。私はこの日をずっと待っていたのよ。彼女を気に入らないからだなんて理由で台無しにするなんて、ひどいわ」

「不満があるなら、雑用係を今すぐやめろ。俺は問題ない」

「私がいなければ計画は失敗するわよ」

「成功させるさ。俺は今までずっと、ひとりでやってきた」

シルヴァン様は書類を手に立ち上がった。

呪文を唱えている。

「シルヴァ――」

私が名前を言い終える前に、上司は姿を消した。