軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 横入り

ドワーフ王国領内で、エルフ女王国国境沿いにあるダンジョン都市に宿泊した翌日。

冒険者登録も済ませた僕達は朝早くから、ダンジョンに潜るための列へと並ぶ。

「朝ご飯に串焼きはいかがですか!」

「保存食! 保存食が今ならお安いですよ!」

「回復ポーション、傷薬、矢まで何でも揃っていやすよ!」

ダンジョンの出入口は街の一番奥にある。

ダンジョンの出入口というより一見すると洞窟のようだった。

ドワーフ王国は山に囲まれている。

このダンジョンも山裾で発見されたモノだ。

ダンジョン出入口周囲を城壁のような高い壁で囲い、鋼鉄製の扉が大きく開き中へ入る冒険者達のタグをドワーフ警備兵士がチェックしている。

そのさらに周囲を屋台、売り子が練り歩きダンジョンに入ろうとしている冒険者達に品物を売ろうとしていた。

僕の前に立つ黄金の甲冑を纏ったゴールドが興味深そうにきょろきょろ視線を彷徨わせる。

「ふむ…… 人種(ヒューマン) 、獣人種、ドワーフ種がメインでエルフ種、魔人種、 竜人種(ドラゴンニュート) は殆どおらぬな」

「昔からこの街はダンジョンの取り扱いで2種間で問題になっているから、エルフ種が少ないのはそのせいだよ。魔人種、 竜人種(ドラゴンニュート) が少ないのは単純に地理的要因だね。人種が多いのは、ダンジョンがあるからそれ目当ての人が多いせいかな」

「さすがダーク様(偽名)。素晴らしい見識ですね」

ゴールド、僕、ネムムの順番に列へと並ぶ。

一応、この並び順にも意味がある。

ゴールドは盾役として前に、護衛対象の僕を中央に置き、後方に探知に優れたネムムが抑えているのだ。

地上の冒険者程度に僕が後れを取るとは考え辛いが、一応の警戒らしい。

この案を主張したのはネムムだ。

『ライト様に何かあってはなりませんから』とキリッとした表情で断言された。

故にネムムが僕を背後から肩に手を置き抱き寄せているのも護衛としての純粋な役割らしい。

後頭部に彼女の柔らかな膨らみがフニフニと当たって恥ずかしいが、ネムムが主張するなら大人しく従うしかない。

なにより僕の見た目は12、3歳で、ネムムは17、8歳だ。

第三者から見れば仲の良い姉弟に見えるだろう。

とはいえやはり目立つのは避けられない。

僕達を周囲の冒険者達、売り子、屋台の店員、その他の人々が興味深そうな視線を向けてきたり、『なんだこの人種は』と不躾なモノも混じっている。

ゴールドは頭から爪先まで甲冑を身につけ背も高く、列に並ぶと頭ひとつ抜け出てしまう。

ネムムは朝日を反射する銀髪に、褐色肌の美少女のため男性からは好意&下心、女性からも嫉妬&一部下心的な熱い視線を向けられていた。

僕は黒いフードを被り、お面を着けているのと2人の間に挟まって大切に扱われている姿から奇異の視線が向けられる。

ちなみにドワーフ王国は大陸の真西にある。

僕達が居る街はドワーフ王国最南端に位置し、魔人国は真北に位置し山を越えるか人種の領土を横断する必要がある。

竜人帝国は大陸の真東にあるため、どちらも移動が大変なのだ。

(……あれ?)

僕達の一つ前、15歳前後の駆け出し冒険者風のチームの前に、フードを被り手荷物を持った若者が1人横入りする。

背丈は170cm前後。荷物を手に歩いているにもかかわらず軸にブレがない。相当鍛えているのが理解できた。

その技術を使ってやることが横入りとは少々情けない。

横入りされた駆け出し冒険者達は、人種の若者達ということもあり遠慮して注意できず『ど、どうする』と互いに視線を向け文句を言えずまごついていた。

僕は空気を読んで助け船を出す。

「そこのフードの人、横入りは止めましょうね」

彼らに代わって僕が注意すると、フードが振り返る。

間に挟まれた若者達は萎縮していた。

「僕様に注意するとは……。僕様が誰か知っての狼藉か!」

「フードで顔を隠している相手をどうやって知っていると……。僕が知らないだけで高名なお方ならなおさら『横入り』なんて恥ずかしいマネは慎んだ方がいいですよ?」

「わははははは! 主の仰る通りだ! フードを被った他者の正体を具体的に知っている方が怖いだろう。昼間から酒でも呷って酔っぱらっているのか? いいからアホな事を口にせず大人しく最後尾に並べ。我輩達だけではなく、ちゃんと並ぶ他の者達にも迷惑だろう」

「ダーク様の仰る通りだ。さっさと最後尾に並び直せ。それともその程度のことも分からないほどの低脳か」

僕の注意にゴールド、ネムムが続き声をあげる。

「確かにあの坊主の言う通りだ! 正体を隠すオマエのことを知っていたら逆に怖いわ!」

「そうだ、そうだ! 坊主の言う通りちゃんと並べ!」

ゴールド、ネムムだけではない。

僕の意見に賛同し後方に並ぶ人種冒険者からもブーイングを浴びる。

フード男の種族が分からないというのもあるだろうが、冒険者ならば威勢のいい者もいるし、人種族の僕らを見て同意の声をあげたということだろう。

そして列に並んでいるドワーフ種や獣人種の冒険者は、黙ったまま冷めた視線でその光景を見ている。フードの横入りも気に食わないが、劣っていると思っている人種が騒いでいるのを鬱陶しく思っているのだろう。

「ぼ、僕様達に踏み潰される虫けら ヒューマン(劣等種) の分際で……」

フードの男は言動からプライドが高く、ブーイングを受けてわなわなと体全体を震わせた。

激怒しているのが一目で分かる。

だが僕は気にせず、さらに告げた。

「その虫けらでも分かるルールを破っているから注意をしているのです。ご理解頂けたのなら最後尾に並び直してくださいね」

「こ、この言わせておけば――ッ!」

フードの男は荷物に腕を伸ばすが、歯ぎしりの音と共に耐える。

「 ヒューマン(劣等種) が……虫けら種の分際で調子に乗りおって覚えていろよ!」

捨て台詞を吐くと列から抜け、後方へと向かい歩き出す。

追い払った僕に対して、後ろの冒険者から『人種の意地を良く見せてくれた』と称賛の声が上がる。

僕らはその声に一通り応え終えると、

「あ、あの助けてくださってありがとうございました!」

一つ前に並んでいた人種の若者冒険者達のリーダー格が僕にお礼を告げてくる。

どうやら4人のパーティーらしい。

1人は赤髪を短く切ったリーダー格らしい少年で、彼の背後に隠れるように同じ髪色、顔立ちの少女が1人。

お調子者っぽい背丈がやや低いのと、逆に背が高い少年の4人パーティーだ。

少女が12、3歳で、男子が14、5歳前後の年齢だろう。

「突然のことで俺達だけではなんて言っていいか分からなくて。下手にプライドが高い種族だと揉め事にもなるので……。結局押しつける形になってしまって申し訳ありませんでした」

「いえ、お気になさらず。当然のことをしたまでです。それに横入りされたままでは僕達の順番が遅れて困りますから」

リーダー格の赤髪少年が頭を下げる。

僕は恩に着せるような態度を出さず、さっぱりとした声音で答えた。

その対応が良かったのか、若者達は緊張感が完全に抜けて安堵し、互いに笑い合う。

「本当にありがとうございましたッス。そのお面も格好いいッスね。そっちの黄金色の甲冑もまさかマジな黄金なんッスか?」

「おい、ギムラ! 失礼なことを聞くな!」

「リーダーもだけど、皆も正直気になるっしょ?」

「わはははははは! 我輩の黄金の甲冑が気になってしまうのは当然だ! ちなみにこの甲冑が本当に黄金かというと――」

「違う。ただそう見える偽物。普通に考えれば全身を覆う黄金なんてありえない。なにより硬度の低い金で甲冑を作る意味がない」

話を聞いていたネムムが、ゴールドに代わってばっさりと切り捨てる。

彼女の台詞に周囲で耳を立てていた冒険者達も『常識で考えればそうだよな』と納得した気配が伝わってくる。

ただ実際は黄金と稀少金属を混ぜて防具として防御能力を高めつつ黄金の輝きを失わせなかった甲冑らしいが。

わざわざ教える必要はない。

リーダーと呼ばれた赤髪少年が再び頭を下げる。

「す、すみません。うちのパーティーメンバーが失礼な口を利いてしまって」

「気にしないでください。ゴールドも趣味、というか……こだわりで着ていてよく勘違いされるので。もう慣れましたから」

僕は乾いた声音を漏らす。

実は色を上から塗っても魔術的効果で黄金色に塗り直されてしまうので無駄なのだが、建前上そのような事にしているのだ。

冒険者として名を上げる目的にも一致しているため今のままでも問題はない。

「ひ、人によって色々なこだわりがあるものですからね」

リーダー格の若者は僕の台詞を上手く受け止めて流してくれた。

周囲の冒険者もこれで『変なこだわりを持つ騎士』と納得してくれるだろう。

微妙になった空気を変えるため赤髪リーダーが告げてくる。

「先程、助けて頂いたお礼ではありませんが、皆さんはこのダンジョンに潜るのは初めてですよね?」

「? 見て分かるものなんですか?」

彼の指摘に僕は首を傾げ問う。

彼は確信を持って頷いた。

「ダンジョンには色々種類があるじゃないですか。ここのダンジョンは他のとは違ってとにかく1階1階が広いんです。なのでダンジョン内で宿泊するのが一般的なんですよ。皆さんは野外用品を一切持っていないのでそうなのかと。なので次に潜る際は、野外で泊まる用品を一緒に持って行くことをお勧めしますよ」

言われてみれば彼らだけではない。

周囲の冒険者も武器、防具の他に野外で宿泊する荷物を手にしていた。

一般的なダンジョン深部に潜るなら当たり前だが、浅い部分での日帰りならあり得ない姿である。

そういうラフな冒険者が自分達以外居ないのは他ダンジョンでは非常に珍しい光景だ。

僕達が全員『アイテムボックス』を所持しており、そちらに慣れてしまったため手荷物の概念が抜け落ちていたのもあるが。

僕は赤髪リーダーに教えてもらったお礼を告げる。

「ありがとうございます、教えてくださって。今回は様子見で潜るつもりだったんですが……次からは僕達も宿泊用品を準備したほうがいいかな?」

「むしろ助けてもらったのにこんなことしか教えられず、逆に申し訳ないです」

「いえ、本当に参考になりましたから」

「次!」

会話をしていると、赤髪リーダーパーティーがダンジョンに潜る番がやってくる。

彼らは後ろに居る僕達に頭を下げつつ、慌てて前へ進む。

すぐに僕達の番になる。

声をかけられダンジョン内部に進みながら考える。

(『アイテムボックス』は珍しいから、『3人全員所持しています』はいくらなんでも怪しいかな? 誰か1人が『アイテムボックス』持ちと公表するか、もしくは擬装用の野外用品を入れた荷物を準備したほうがいいのかな)

どちらを選択するか、また他に案があるか考えながら僕達はダンジョンへと足を踏み入れたのだった。