作品タイトル不明
26話 パレード前
翌日、ついに『人種王国女王就任式典』本番を迎える。
人種王国王城(実際は少し大きな屋敷程度の規模だが)で、各国の代表者の前でリリスが改めて即位式をおこなう。
その後、お城を出て大々的にパレードで首都内部を回り、『自分こそが現在の人種王国女王だ』と喧伝。
当然、パレードが通る場所には厳重な警備が敷かれ、観客の中には『リリス女王万歳』と叫ぶサクラも複数混じっている。
パレードが無事に終われば、成功と断言して問題ないだろう。
故に当然、反リリス派はパレード阻止に動く。
妨害方法として、街中にばらまいた爆弾化している魔術道具が爆発。
街中が混乱している最中、落ち着かせるため王城からも人手を得るため兵士が出て、手薄になる。
その隙を狙って既に首都郊外に待機している第一王子クロー派閥の子爵嫡男であるゴドーが集めた私兵を連れて、王城地下通路を逆走。
女王リリス暗殺を狙う。
もちろん、第一王子であるクローを『隔離塔』から助け出すため、クロー派閥の子爵嫡男ファイトも手勢を連れて待機中だ。
爆弾が爆発し、混乱している隙に、『隔離塔』を襲撃。
首都が混乱してリリス側の援軍が来ない『隔離塔』を一気呵成に攻略して、クローを助け出し、そのまま自領までまずは逃走するのを目的にしていた。
とはいえ、魔術道具爆弾はライト達に見抜かれ回収済み。
逆に利用される手はずになっているが……。
☆ ☆ ☆
「ナズナちゃん! 見て、ここをリリス様が通ってお姿を見せてくれるんだよ!」
「ふーん、でもリリス様? を見て何が楽しいんだ?」
ユメとナズナが手を繋ぎつつ、リリスがパレードで通りかかるルートについて話をしている。
昼過ぎからパレードがおこなわれるが、既に警備兵士が等間隔に並び、『良い位置でリリス女王が通りかかるのを見たい』という層が既に最前列を押さえているため、人垣が出来ていた。
そんな人垣越しにユメが指さし、ナズナへと説明するが、彼女は『何が面白いのか』理解できず、小首を傾げる。
ナズナの反応にユメは気分を害することなく説明する。
「前にパレードをした時はリリス様が凄い綺麗なドレスを着て、馬車に乗って移動するの。そのドレスが今日のように晴れた太陽の日差しをキラキラ反射して本当に綺麗だったんだ。他にもお城の兵士の人達が馬に乗って移動する姿や、楽器を鳴らしながら進むのを見るのはとっても楽しいんだよ」
「へぇ~、そんなに楽しいのか? 妹様がそこまで言うならちょっと楽しみだな!」
ナズナはユメの説明を一通り聞いて、素直にパレードを見るのを楽しみにし出す。
ユメはそんなナズナを見て、過去に見たパレードを思い出したようだ。
「ユメもこうしてしっかりパレードを見たことはないけどね。お城から出発するのを見送ったことしかないから、楽しみなんだ。その前の準備が本当に大変で……。ユメ、まだ見習いメイドなのに、リリス様の高価な装飾品を管理させようとしないでくださいノノメイド長! 人手が足りない? だからってわたしまだ見習いメイドなんですが!」
「妹様!?」
ユメがナズナから手を放し頭を抱え出す。
過去のトラウマを思い出してしまったようだ。
ナズナが慌てた様子でユメの側でわちゃわちゃして、周囲の人々も『何事か』と振り返ってくる。
気持ちを落ち着けたユメがナズナと改めて手を握り直す。
「ご、ごめんね、急に大声出して。ちょっと昔を思い出しちゃって……」
「大丈夫か、妹様?」
「うん、大丈夫。もう落ち着いたから、心配してくれてありがとう」
ユメは笑顔でナズナにお礼を告げたが、すぐに顔を曇らせる。
「でも、これだけ人がいるとパレードは見られそうにないね……」
「安心していいよ。こうなることを予想して既に席を用意しているから」
二人の交流を邪魔しないように黙っていた僕は、口を開く。
「パレードが見やすい建物を確保してるんだ。時間になったら、人混みに邪魔されずに見物できるから安心して」
「さすがご主人――ダーク様だぜ!」
もうほぼ『ご主人様』と言っている状態だが、ナズナは無邪気に喜ぶ。
もちろん『二人にパレードをしっかり楽しんで欲しい』という気持ちもあるが、不特定多数が密集している人混みに紛れるより、隔離された建物の上から見てもらった方が護衛がしやすい。
故に見物する席を用意したのである。
ユメもそこまでしっかり準備がなされているとは知らず、満面の笑顔で喜ぶ。
「ありがとう! まさかそんなしっかり確保しているなんて知らなかったよ」
「どういたしまして。だから二人は時間になるまで安心してお祭りを楽しんでね」
「ならあたい、お腹減ったから肉が食べたい!」
「ナズナちゃん、朝食をあんなに食べたのに?」
ナズナの食欲にユメが驚きの表情を作る。
今朝、高級宿の食堂を利用し、朝食を口にした。
ナズナはユメの倍以上食べたにもかかわらず、昼には大分時間があるが既にお腹が減ったようだ。
ナズナの食欲にユメが驚きつつも、手を繋いだまま彼女が指さした屋台へと移動する。
当然、僕達も一緒だ。
ナズナが指さした屋台では肉が焼かれ、風に乗ってきているためか意外と遠くまで良い匂いが漂ってくる。
その匂いにつられてか、屋台裏近くの路地裏から路上で寝泊まりしているらしき孤児達まで顔を覗かせ、羨ましそうに眺めていた。
(手に花? ……そうか、お祭りで財布の紐が緩むから花を売ろうとしているのか)
僕は彼女達を見てすぐに察する。
冒険者時代、お祭りではないが日中、彼女達のように摘んだ花を売る子供を見た覚えがあった。
冒険者として外に薬草や薪拾いに行くにはあまりにも小さく、危険度が高い者達が金銭を稼ぐ定番仕事だ。
買う側も孤児達を哀れんで善意で金銭を支払い買う。だが、そんな人物はなかなかいないため、当然儲かることはない。
しかし、『人種王国女王就任式典』――お祭りのお陰で人々が浮かれて財布の紐は緩んでいる。
商機を見逃さず、そこに目を付けて、花を売ろうとするなんてなかなか目ざとい子供達だ。
「…………」
「ナズナちゃん?」
ナズナが立ち止まり、路地裏から表通りを覗く孤児達に視線を固定する。
ユメが不思議がって声をかけるが反応しない。
反応しないどころか、ユメから手を放し、ずんずん一人孤児達へ向かって近づいていき、さらに周囲に気付かれないようにアイテムボックスからカードを取り出す。
カードがちらりと見えたが、『SSSR 祈りの息吹(オーバーヒール) 』のようだ。
ナズナは周りの視線を気にせず、ずんずん孤児の少女達へと近づき――。
「な、ナズナちゃん!?」
彼女が何をしようとしているのか驚いたユメが名前を呼ぶが、間に合わない。
ナズナは孤児の子供のお腹を素手でぶち抜いたのだった。