作品タイトル不明
17話 魔人国マスター、ギラ
「コレ、どういうことか?」
彼の声はまるで殺人鬼が振るう刃のようにドス黒く鋭かった。
ゴブリン顔青年は手練れの暗殺者と何人も顔を合わせ、言葉を交わしてきたが――これほど恐ろしい声音を出す者は、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を立ち上げた張本人で今も結社のボスであるギラしか知らない。
当然といえば当然の話だ。
なぜならギラは魔人国『マスター』の1人なのだから。
大抵の暗殺者などと比べても隔絶した力を持っている。
そんな事実をゴブリン顔青年達が知るはずもなく、彼は結社のトップに対して挨拶をする。
「お、お疲れ様でやんすボス。珍しいでやんすねこちらにお顔をお出しになるんなんて」
ギラは揉み手をしながら声をかけてきたゴブリン顔青年に対して一瞥。
その鋭い瞳を向けられただけで、彼の心臓は止まりそうだった。
しかし応対を間違えれば、この『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』屋敷そのものが崩壊する。
比喩ではなく、ギラの怒りに触れた場合、屋敷が物理的に崩壊しかねないのだ。
ギラの趣味――生き甲斐は生物、無機物問わず『切断』することである。結果、彼は多くの生物、モンスター、物体を斬り刻んできた。
『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』も彼が趣味と実益を兼ねて作り出した暗殺集団であるが、気に食わなければゴミを捨てるように破壊するのがギラという男だ。
古株であるゴブリン顔青年や暗殺者達はそれを良く知っているため、危険な猛獣を前にしているかのように緊張する。
暫しの間。
ゴブリン顔青年が冷や汗を流しつつ返答を待つ。
「……丁度、こっち来る予定だった。顔出した。そしたら――」
『!?』
ギラの実力を知る暗殺者達が冷たい視線を向けられ震え上がる。
『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を知る者達から死神のように恐れられる暗殺者達が、まるで子鹿のように震えたのだ。
ギラは彼らの態度など一切気にせず、淡々と告げる。
「われ、部屋に入る、気付かない。皆、腕、落ちてる。これが 処刑人(ブロー) ? 笑止、これ、ただの雑魚集団」
(貴方からすれば自分達なんて当然雑魚でやんすよ! ボスを基準に考えるのは止めてほしいでやんすよ!)
ゴブリン顔青年は思わず胸中で絶叫してしまう。
ギラの台詞から、どうも彼が部屋にこっそり入ったことにも気付かず、談笑していた彼らの実力が気に食わないらしい。
だが弁明するなら、この場に居る暗殺者達は一流と言って問題無い腕をしている。
単純にギラの実力が高すぎて、この場にいた暗殺者達が誰も彼の侵入に気付かなかっただけなのだ。
あまりにも言われていることが理不尽過ぎて、ゴブリン顔青年だけではなく他暗殺者達も胸中で盛大なツッコミを入れているだろう。
口には出さないが。
――問題があるとするなら、ギラの実力を知らない新人暗殺者がこの場に居たことだ。
「おいクソチビ! さっきから聞いていれば俺様達を見下しやがって! ちょっと盗みに入るのが得意だからって調子にのってるんじゃねぇぞ!」
『!?』
新人暗殺者、魔人種で単眼、身長は2mを超えた筋肉を限界まで乗せた男が、ボスの言葉に我慢できず声を上げてソファーから立ち上がる。
歩くたびに地面が揺れそうなほど、筋肉が発達した単眼男が、凄みながらギラへと近付く。
「この組織のトップだからって、チビがいきってるなよ! この『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』は実力主義なんだよ! 創設者だからっていつまでもデカイ顔をしていいわけじゃねぇんだ!」
「馬鹿! 止めろ!」
先輩暗殺者が声をあげるが、もう遅い。
重い肉が落ちる音が『社交場』に響く。
「あん? ……あぁぁぁぁぁあぁぁあッ!?」
単眼男は最初、響く音の意味を理解できなかったが、すぐに痛みで知る。
自分の左腕がなぜか絨毯の上に落ちた音だと。
単眼男とギラの間は10mほど距離が開いていた。
ギラに動いた様子もなく、単眼男も『社交場』に居るだけの実力者で、他暗殺者も緊張感から何が起きてもいいように警戒していた。
にもかかわらず『何をしたのか』分からないが、単眼男の左腕が切り落とされたのだ。
それだけでは終わらない。
次は右腕が落とされ、左足、右足と続く。
最後に首が飛ばされ、単眼男は絶命した。
問題は攻撃を間近で見ているのに、この場に居る誰もが『どうやって単眼男を斬ったのか』が分からなかったことだ。
左腕の時は突然のことだったため、反応出来なかったと言い訳がきくが、その後の攻撃もまったく予兆、筋、軌跡すら見えなかった。
単純に単眼男が悲鳴をあげて、次々腕、足、首が最初から切れていたかのように落ちていったのだ。
全く実力が違い過ぎて攻撃に反応できないどころか、視認すらできていない。
その場に居る暗殺者達はギラと自身の実力差を痛感し怯えた表情を作る。
ギラは単眼男の死体を冷たく見下ろし、
「斬った感触、悪い。実力、無い。全員、始末して、やり直す、いいか……」
その言葉に暗殺者全員が身を固くする。
もし全員を始末して1から『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』を立て直した方が良いと判断されたら、まず自分達は助からない。
にも関わらず賛同の声が出入口から聞こえてくる。
「賛成よボス。『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』に弱者はいらないわ」
「いせんさ! いせんさ!」
「むしろ~、さっさと自分達で向いてないって自覚して死ぬべきじゃないの~」
「然り! 実力が無い暗殺者など不要! 『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の名を下げるだけだ!」
「…………」
ギラにばかり注目していた暗殺者達は声に反応して振り返る。
そこには『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の上位暗殺者達が勢揃いしていたのだった。