作品タイトル不明
15話 処刑人
ディアブロは『世界最強の暗殺結社』のひとつと言われている依頼場所へと辿り着く。
依頼場所は魔人国首都スラム内にある酒場だ。
外見はお世辞にも良くない。
ぼろく、汚れと血のシミが付いた扉を開き中へと入る。
「…………」
フードの下からディアブロは内部を観察した。
奥の端に魔人種の客2名が気難しい顔で酒を飲んでいる。
顔に傷があり、指も何本か欠落していた。確実に堅気ではない。
ディアブロの入店に気付くと、ちらりと視線で威嚇するように目を細めるがすぐに視線を戻す。
カウンター内側に店主が暇そうに酒を飲んでいる。
ディアブロを歓迎する様子は微塵もない。
(客が来たのなら挨拶の一つぐらいするべきでしょうにー)
ディアブロは内心で苛立ちながら、カウンターへと移動。
彼は懐からピンバッジを取り出し、店主へと見せる。
ピンバッジは黄金で作られ、中心に骸骨、大鎌のデザインをしていた。
これは『世界最高の暗殺結社』のひとつ『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の依頼人バッジだ。
このピンバッジを持って酒場のマスターに見せると、『暗殺結社 処刑人(ブロー) 』の交渉人と顔を合わせ、依頼。殺害対象者、期限、殺害方法、金額などの交渉をおこなう。
ちなみにディアブロはこのピンバッジを手に入れるため、裏に関わる者にかなりの金額を支払っていた。
――話を戻す。
店主がディアブロを一目見ると、顎先で奥へと促す。
「待ち人なら奥に居るぞ」
「…………」
ディアブロは指示通り、ピンバッジをしまって店の奥へと向かう。
奥の扉を開くと、個室だった。
その個室は店とは正反対に清潔で、調度品も貴族が使用する高級品で整えられていた。家具の配置、デザイン、センスだけなら中級以上の貴族屋敷内部と言っても信じてもらえるレベルである。
スラムの店との落差にディアブロがやや面食らっていると、
「さっさと扉を閉めてくれないでやんすか。外の匂いは鼻につくんでやんすよね」
中で気楽な様子で酒を飲む、ゴブリンのような醜い顔に背が低い魔人種青年が指摘してくる。
ディアブロは静かに扉を閉めて、個室の中へと入った。
ゴブリン顔の青年が、自分の座っている対面へディアブロを手で促す。
彼の態度に、ディアブロは内心で苛立ちつつも席へと座る。
ゴブリン顔の青年が、ディアブロを試すように口を開く。
「普通の店とかなら茶の一杯も出す所でやんすが、場所が場所だけに皆、警戒して出しても口を付けようとしないでやんすよ。お客様、一応聞きますがいるでやんすか?」
「……いえ、結構ですねー」
「でしょうでやんすね。ではでは仲良く話をする間柄でも無いでやんすから、早速話をききましょうか?」
ゴブリン顔の青年が、座り直し問う。
「で、誰を始末して欲しいでやんすか?」
「……殺して欲しいのはこいつですー」
ディアブロは内心の苛立ちを表に出さず、持ってきた書類を相手に渡す。
ゴブリン顔の青年が、書類封筒を受け取るとすぐに中を確認。
殺害対象を確認して口笛を鳴らす。
「冒険者A級の始末でやんすか。これはまた大物でやんすね」
「暗殺できそうですかねー?」
「もちろんでやんす。『 暗殺結社処刑人(うち) 』は金さえ積んでもらえば大商人、国王、貴族だろうが始末するのが仕事でやんすから」
ゴブリン顔の青年はけらけらと気楽な態度で返答する。
ディアブロは『金さえ積まれればオマエ自身も暗殺できるぞ』と言われているようで、畏怖と苛立ちが心の中で混ざり合う。
彼の態度など気にせずゴブリン顔青年は金額を伝える。
「今回は冒険者A級でやんすから……大凡これぐらいになるでやんすかね」
彼は側にある紙にさらさらと金額を書き、ディアブロへと滑らせる。
口頭でないのは、後で『最初、この金額を提示した云々』とごねられるのを防ぐためだ。
ディアブロはその金額に目を剥く。
「ぼ、冒険者A級とはいえ人種子供を殺すのにこんな金額を請求するなんてー! これは詐欺ですよぉー!」
「旦那~、詐欺とは聞き捨てならないでやんすね~。これでも『 暗殺結社処刑人(うち) 』は誠実にお仕事をさせてもらっているんでやんすよ」
ゴブリン顔青年は『冒険者A級 ダーク』の殺害が高額な理由を説明する。
「旦那も仰った通り相手は ヒューマン(劣等種) のガキでやんす。にもかかわらず短期間で冒険者A級に上り詰めたんでやんすよ? ただでさえ冒険者A級は強くて面倒なのに、こんな未知数な相手を暗殺するなら高くなるのは当然というものでやんすよ」
「…………」
彼の指摘にディアブロは反論できず黙り込む。
本来、 ヒューマン(劣等種) の子供は冒険者になってもすぐに命を落とす。にも関わらず短期間で冒険者A級に上り詰めているのだ。
警戒しないほうがおかしい。
ディアブロはフードの奥で歯噛みする。
交渉人に仕事を依頼するピンバッジを手に入れるだけでも良い金額を支払ったのに、さらに高額の金銭を要求されたら自領の貯蓄の三分の一が飛んでしまう。
しかし、ダーク――ライトを始末しなければディアブロ自身が破滅する。
(貯蓄は民への税金を上げれば対処できますー。とにかくここはライトの始末を優先するべきですねー)
自領の民は税金上昇に苦しむが、彼らの生活よりディアブロ自身の安全を確保するほうが優先だと判断を下す。
「……分かりましたー。それでお願いしますねー」
「ありがとうでやんす、旦那! ああ、それとこれは仮の金額で経費などが別途かかる可能性があるのも考慮しておいてくださいでやんす」
「ぐっ!? わ、分かりましたー」
『足下を見やがって! 調子に乗るなよ』という言葉が喉の奥から出かかったが気合で飲み込む。
ディアブロは軽く呼吸して、気持ちを落ち着けるため興味本位で問う。
「これは依頼する訳ではありませんが……もしあの『巨塔の魔女』の暗殺を依頼したらいくらぐらいかかりますかねー?」
「ああ、あの魔女の暗殺でやんすか。あれはうちではお断りしているでやんすよ」
意外な返答にディアブロが驚き、目を見開く。
『世界最強の暗殺結社』のひとつ『 処刑人(ブロー) 』は、金さえ積めば誰でも女子供関係なく殺害する集団だと聞いていたが。
まさか暗殺できない対象が存在するとは……。
ディアブロの反応にゴブリン顔青年が微苦笑を漏らす。
「他顧客からも暗殺依頼はきているでやんすよ。ですが……正確には難しく手間がかかり過ぎるため値段が付かなくて、付けても依頼人が皆、断ってしまうでやんすよ」
『巨塔の魔女』暗殺依頼をされたので、値段を呈示したが金額が高すぎて依頼人が諦めているらしい。
だから、実質『お断り』状態なんだとか。
意外な裏話を聞くことが出来たディアブロは妙な感心をし、『あの魔女を疎ましく思う者達を探し、協力して仕事を依頼できないか』とつい考え込んでしまう。
そんなディアブロに対して、ゴブリン顔の青年が『ダーク暗殺』に話を戻す。
「ちなみに旦那。この『冒険者A級』の殺害方法に条件とかあるでやんすか?」
「条件ー?」
「はいでやんす。人によって家族どころか、近しい存在、友人、恋人、隣の家の住人まで殺して欲しいなんて依頼を受けるでやんすよ。内容如何によってでやんすが、なるべくお客様のご希望に添える殺害方法を我々はおこなっているでやんす。まぁ内容によって料金が発生するでやんすが」
彼は人差し指、親指で輪っかを作る。
そのゴブリン顔の青年の言葉に、ディアブロは考え込む。
(ミーがダーク――ライトが生きているせいでこれだけ苦しんだのですー。あいつにもなるべく生きてきたことを後悔するほどの苦痛を与えて殺したいですねー)
ライトが生きていたせいで、ディアブロの立場が危うくなり、現在はヴォロス第一王子の不興を買っている。ただ殺すだけでは確かに飽き足らない。
「ではなるべく残酷に、苦痛を与え、生きているのを後悔するような殺し方をお願いしますー。もしそれで別途金額が発生するなら喜んで支払いますからー」
「さすが旦那でやんすね! 今後も是非『 処刑人(ブロー) 』と良いお付き合いをでやんす!」
ゴブリン顔の青年が喜色満面の笑みを浮かべ席から立ち上がり、握手を求める。
ディアブロもその手を拒むことなく握り――契約が完了した。
こうして『世界最高の暗殺結社』である『 処刑人(ブロー) 』がダーク――ライト暗殺に動き出したのである。