軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話 ネムムとクロー

翌日の午後過ぎ、僕達『黒の道化師』パーティーは、約束通り王宮へと顔を出す。

正直、『王宮』というほど立派なモノではなく、ちょっと大きめの屋敷程度の規模だ。

とはいえ人種王国王族が住む場所には変わりないが。

門番には既に話が通っているため、誰何されても問題無く通ることが出来た。

――問題があるとするなら、通され案内された先にいたのがリリスではなく、その兄である人種王国第一王子クローだった点だろう。

事前の話では旅の護衛の話し合いのため、会議室でリリスと内容を摺り合わせする予定だったのだが……。

待ち構えていた案内人について行くと、なぜか兵士の訓練場に案内されたのだ。

どうやら案内を勤めた下男はクローの手先か、金等で指示を受けていたらしい。

クローが腕を組み、背後に兵士達を従えて、低い声音で尋ねる。

「貴様達がリリスの護衛を務める『黒の道化師』パーティーか……。気味の悪い仮面を付けた子供に、 戦場(いくさば) を勘違いしたようなアホな恰好の剣士に、まともに戦えるとは思えない細身の女の……」

「?」

クローの台詞が途中で止まる。

予想では僕達にイチャモンを付けて、リリスの護衛を自ら外れるよう仕向けようとしてくると考えていた。

途中までは予想通り、僕とゴールドに対して嫌味を言ってきたのだが、なぜかネムムで止まり彼女に魅入る。

クローの敵意溢れる睨みが緩み、彼の頬が赤く染まる。

彼は威圧を与えるために組んでいた腕を解き、髪型を気にしつつ、咳払いをしてからネムムに問う。

「ごほん、あー、その女も『黒の道化師』パーティーの一員なのか?」

「はい、彼女は僕達の仲間ですが?」

「オマエに聞いてるのではない! 下賎な冒険者の分際で人種王族のボクに気安く声をかけるとは不敬であるぞ! 頭が高い!」

僕が代表して返答すると、クローは烈火の如く怒鳴り散らす。

ネムムがあからさまに苛立ち不機嫌になるが、建前上僕達は平民で、A級とはいえ一介の冒険者だ。

相手は王族のため、表向きの立場としては上。

僕は内心『この王子は小心者過ぎだな』、と思いつつ素直に膝を突き頭を垂れる。

ゴールドとネムムも習って膝を突き、頭を下げた。

クローは改めて問う。

「そこの女もパーティーの一員なのか? 直言を許す。答えよ」

「……はい、自分は『黒の道化師』パーティーの一員です」

ネムムが硬い声音で答える。

普段接している者達からすれば、あからさまに不機嫌だと分かるが、クローは気付かず上機嫌に頬を弛めた。

「百万の花々に匹敵する美貌に、妖精の羽ばたきより美しい声……。まさかこれほど美しい者が冒険者に身をやつしているとは知らなかった」

クローは頬を染めつつ、ネムムへと近づき告げる。

「君の名前を教えてもらえないだろうか?」

「……ネムムです」

ネムムが舌打ちしそうになるのを堪えて、ぶっきらぼうに答える。

あからさまに『自分は今、不機嫌です』と全力でアピールしているが、クローには届かない。

彼は上機嫌に提案してくる。

「素晴らしい美貌に、美しい声音、さらにそれだけではなく名前まで可憐とは……。ネムムよ、よかったらボク専属のメイドにならないか? ボクのメイドになれば冒険者などという危険な事をせず、城内で安全に生活が――」

「いえ、結構です」

クローの誘いをネムムが遮り拒絶する。

拒絶されるとは考えていなかったらしいクローは、笑みを凍らせ硬直してしまう。

背後にいる兵士達もここまできっぱり断られるとは考えていなかったらしく、頬を引きつらせた。

クローが笑みを浮かべたまま、硬直から回復し、再度提案してくる。

「よく考えて欲しいネムム。ボク専属のメイドになれば冒険者などという汚く、粗暴で危険な仕事をしなくてもよくなるし、城で生活すればモンスターや盗賊など危険にさらされる事もない。それにボクの側に居れば冒険者では味わえない贅沢な生活をさせてあげることもできるんだよ? 君が見たこともないようなドレスに、宝石、化粧品などでその身をより美しく飾ることも出来るんだ。だからよく考えて答えて欲しいんだ」

「よく考えた結果、お断りします」

「だからなぜだ!」

ネムムのすげない態度にクローが困惑し、大声をあげる。

ネムムはクローの怒声に近い、疑問の大声に怯むことなく淡々と告げる。

「自分が存在する場所はダーク様の側しか絶対にありえません。何よりこの世界で最も安全で、贅沢で、有意義な場所はダーク様のお側しか考えられませんから。自分がダーク様のお側を離れることは天地がひっくり返っても有り得ません。例え死しても魂を以てお仕えする所存です」

(ネムム、冒険者としてじゃなくて、『奈落』最下層、アサシンブレイドのネムムの顔が出ちゃってるよ!?)

胸中で僕がツッコミを入れるが口に出して止める訳にはいかない。

「だ、ダーク?」

「こちらの仮面を被ったお方がダーク様です」

ネムムの紹介に僕に視線が集まる。

仮面越しにクローの顔を窺う。

彼は自身が気に入った美少女のネムムが、体や心どころか魂そのものを捧げる僕に対して、心底腹を立てている表情で睨みつけていた。

男の嫉妬心を全部乗せたような視線で睨みつけてくる。

正直に言えば、この程度の視線、多数の修羅場を潜ってきた僕からすれば、無いも同然だが……気になる点が一つだけあった。

(クロー……彼はなぜ僕達を 訓練所(こんな場所) に呼びつけたんだ? リリスの護衛になるのを妨害するためだと思ったんだけど……)

なぜかネムムの勧誘に熱心だった。

彼の意図が分からず、少々混乱してしまう。

「お、お兄様! 何をなさっているのですか!?」

訓練場に女性の声が響く。

皆の視線が集まる。

人種王国第一王女であるリリスが、偽ユメを連れて訓練所に姿を現す。

僕やゴールド、ネムムを跪かせて、睨みつける兄の姿にリリスが青い顔で冷や汗を流す。

リリスの登場にクローは『しまった!?』と言いたげに表情を歪める。

(この人は本当に何がしたいんだろう?)

僕はクローの意図が本気で分からず、胸中で彼の目論見について考え続けてしまった。