軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 避難訓練

「避難訓練の実施?」

ミキがシチューを食べる手を止めて疑問を告げる。

夜、今日も1日無事に店を営み、無事に終わらせた。

シリカとミキの2人で夕飯を作って食べていると、その途中でシリカが思い出し、1枚の紙をテーブルに置く。

「そう。ミキちゃんが昼食を作っている最中に妖精メイド様が持ってきたの。その後すぐお客様が来たから、ミキちゃんに見せるのを忘れちゃっていたよ」

シリカが思い出し、1階の店へ取りに戻った紙をミキへと見せる。

その紙には『避難訓練の実施について』という内容が記されていた。

「なんか森から万が一にもモンスターが『 巨塔街(きょとうがい) 』に入ってきたり、災害で家が壊れたり、何か問題が起きた時などを想定してスムーズに移動できるよう訓練するんだって」

シリカが紙に書いてある内容をシチューを食べながら、説明する。

「街のみんなが一斉に集まるんじゃなくて、決められた場所ごとにおこなうらしいよ。わたし達は次のお店が休みの日にやるって」

「そう、なんだ……」

「でも、ちょっと不思議なのは、今まで一度もこんなことしたこともする気配もなかったのに、突然始めたのが気にはなるかな……。何かあったのかな?」

「…………」

シリカの疑問にミキは答えられず、考え込む。

(今まで一度もこんなこと――避難訓練など気配すらなかった……ミキの潜入がばれて確保するため一芝居打っている? だとしても対応が中途半端よね……もしそうなら問答無用でお店を囲んで捕らえに来ればいいし。何よりまだ本格的に動いていないから、身元がバレるなんてありえないのよね。まずは生活に慣れるのが先だし、報告の第一弾は送り済みで今無理して調べる必要もないしぃ)

『巨塔』内部に入る前は頭が痛くなるほど面倒な調査をしてくるため、それを誤魔化すのに苦労したが、一度内側に入れば警戒は緩い。

ミキ自身を監視している気配もなかった。もちろん自分以外の潜入者が居て、そいつがヘマをして今回の引き金になった可能性も捨てきれない。

普通に考えれば、今回の『避難訓練』はたまたまおこなうだけという可能性が高いが……。

(どうも嫌な気配がするわねぇ。首筋がチリチリするっていうか、影に潜む大型猛獣に見られているというかぁ……)

『避難訓練』の話が終わると、シリカが新しい話題を振ってくる。

ミキはその話題にも当たり障り無い返事をしつつ、談笑しながら胸中で自身の行動指針を立てた。

(ミキィの潜伏がばれている可能性は限りなく低いけど、念のため保険を用意しておいた方が良いわよねぇ。あくまで念のためだけどぉ)

☆ ☆ ☆

避難訓練当日。

避難訓練は朝からおこなわれた。

シリカとミキ達が住む地区に、妖精メイド達が声を大きくするマジックアイテムを片手に声をかけてまわる。

『大きな大地が揺れる災害が起きました。大きな大地が揺れる災害が起きました。一部家屋が倒壊しました。他家屋も倒壊する恐れがあるため皆さんは至急、巨塔一階へと移動してください。繰り返します』

以上のようなことを繰り返し告げていた。

当然『大きな大地が揺る災害』も『一部家屋が倒壊した』のも仮定の話だ。そういうことが起きたと仮定して、住民が避難訓練をするのだ。

事前にチラシと妖精メイド達から口答を受けていた住民達は、文句も言わず指示通り家を出て『巨塔』を目指す。

その数は1000人まではいかないが数百人の移動となる。

移動途中、別の妖精メイドが声を大きくするマジックアイテムで告げる。

『押さない、駆けない、列を乱さない。巨塔1階では皆さんを十分受け入れる準備が整っているので、落ち着いて行動してください』

『気分が悪い方が居れば遠慮無く仰ってください。我々妖精メイドが直ぐに対処致します』

『妖精メイドが直ぐに対処~』で一部若い男性陣が色めき立つが、他女性陣に睨まれ大人しくなる。

妖精メイドに不埒なマネをしないのが『 巨塔街(きょとうがい) 』の不文律だ。色めき立った男性達もその辺をしっかり理解しているため、実際に仮病で名乗り出ることは無かった。

『巨塔の魔女』に助けられたこともあり、住人達は妖精メイド達の指示に大人しく従う。

一部住人が貧血等を起こす軽度な問題は起きたが、基本的に目立ったトラブルも無く、無事に皆『巨塔』一階へと辿り着く。

住人達は待ち受けていた妖精メイド達に住民票のチェックを受けていた。

受け終わると、広い『巨塔』1階に準備された飲食スペースへと案内される。

「避難訓練のご協力ありがとうございます。魔女様から皆様にご協力頂いたお礼として朝食を振る舞わせて頂きます。遠慮無く食べてくださいませ」

妖精メイドの声に、住人達が歓喜の声をあげる。

恩義があるとはいえ朝から避難訓練は面倒だったが、妖精メイド達が準備した朝食があるとなれば話は別だ。

配給を受けていた頃、彼女達の料理は良い材料を使っているのかとても美味しく、普段はなかなか口にできない甘味類を食べられることもあった。

今は自分達で生活環境を整えたため、彼女達の配給を食べる機会はなくなってしまった。

しかし、今回は避難訓練の協力と、災害が起きて避難した際の配給練習を兼ねて朝食を振る舞うようだ。

朝食はサラダ、コーンスープにフカフカのパン、スクランブルエッグ、果物類まで付いている。

飲み物も水から始まって、お茶、各種ジュース類まであった。

子供達がお盆を持って列へと並び、食事を受け取ると『巨塔』一階に長いテーブルが並べられた飲食スペースへと移動し、親子で楽しげに食べ始める。

朝食を終えたら帰って良いらしい。

「ミキちゃん、妖精メイド様達のお料理楽しみだね」

「うん、そうだねシリカちゃん」

シリカは純粋に美味しそうな朝食を前にはしゃぎ、ミキは表面上は似たように喜びつつも警戒心を切らさなかった。

とはいえミキに注目する者達は、一部男性陣しかいない。

その男性陣もミキの顔、胸、お尻などへ視線を向けている。

ミキの好みではないむさ苦しい男達からの熱い視線に、彼女が内心で苛立ちを募らせる。

もしここが魔人国ならミキが殺人蜂を召喚して皆殺しにしているところだ。

僅かばかり男達に苛立ちの意識を向けると、その隙間を突くように妖精メイドの声が響く。

「あっ!? ご、ごごご、ごめんなさい!」

前髪を伸ばし、目が隠れている妖精メイドが謝罪の声をあげた。

彼女がミスをして、コーンスープの入ったカップをミキのお盆に乗せる時に縁にひっかけ、カップが勢いよく横倒して盛大に零してしまったのだ。

コーンスープがカップから零れ、ミキが着ていた衣服へと当然かかった。

パンを配っていた茶色の髪をしたギャルっぽい妖精メイドが、それを見て叱責の声を上げる。

「なにやってるし! 女の子の体にかかって火傷したらどうするの!」

「ご、ごご、ごめんなさい!」

「あーしに謝っても意味ないでしょ! ごめんなさい、今すぐ着替えを用意するから~」

「い、いえ、大丈夫ですよぉ。幸い火傷はないですし、衣服が汚れた程度ですからぁ」

「あーし達のメンツ的にもそういう訳にもいかないっていうか。とりあえず、汚れた衣服を着替えて洗わないと駄目みたいな。その後、改めて謝罪するので~」

ミキの返答にギャルっぽい妖精メイドが答えると、パンの配給係を交代。

彼女が持っていたお盆も近くの妖精メイドに預けて、ミキを着替えさせるため場所を移動する。

「お連れの人は先に食べてて~。まずこの子の衣服をさっさと洗わないとシミになるから~」

「……シリカちゃん、妖精メイド様のお言葉通り先に食べててぇ。ミキも着替えが終わったら行くからぁ」

「う、うん、分かったよ」

ミキはこれ以上妖精メイドの申し出を断るのは不敬だと考え、大人しく従う。

シリカもミキの言葉に頷いた。

話が纏まった所でギャルっぽいメイドが案内する。

「安心して。ここで着替えろなんて言わないから~。ちゃんと着替える場所はあるからね~」

その言葉を聞いてミキは頷く。

妖精メイドの案内で、ミキは単独で『巨塔』2階へと上がるのだった。