軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36話 失敗と今後の方針

竜人帝国のとある場所。

獣人連合国を唆す等の暗躍をしてきたヒソミは、リーダー格であるヒロへと、『巨塔の魔女』vs獣人連合国の様子を申し訳なさそうな表情で報告していた。

「『巨塔』の情報が殆ど得られなかった、ですか?」

「……はい、申し訳ない。小生が離れて監視していた際、『巨塔の魔女』らしき人物がマジックアイテムを使用した瞬間、彼女を含め 人種(ヒューマン) の集団や獣人種の兵達が黒く渦巻くドームの様なものに覆われて、丸ごと見えなくなってしまって……」

当日、『巨塔』の情報を得るため、本体であるヒソミが獣人連合国へ足を向け、気付かれないよう遠距離から戦場となるであろう場所を監視していた。

『巨塔』はどんな存在で戦力はどの程度のものか、『C』に関係しているのか、等の情報を得るため、わざわざヒソミ本体が直接監視に向かったのである。

予定では、呼び出された『巨塔の魔女』が 人種(ヒューマン) の集団か獣人種の集団と激突し、情報を得ることが出来るはずだった。

しかし、戦闘が始まる前に 神話級(ミトロジー・クラス) 、『 乖離世界の世界(ワールド・イズ・ワールド) 』によって『巨塔の魔女』、獣人連合国は世界から隔離。

黒く渦巻くドーム状の何かに覆われ、中を窺うことすら出来なかったのだ。

約1時間後――黒く渦巻くドームが解除。

地面に大量の挽肉状態の死体がばらまかれ、草原の緑は血で塗り替えるほど真っ赤に染まり、剣やナイフなどの武器は墓標のようにあちこちに散らばり、地面に刺さっていた。

約2000人居た獣人種は文字通り1人残らず殺害され、広い範囲で散らばっていた。

遠目からでも分かるほど凄惨な現場。

今でも獣人種の悲鳴が聞こえてきそうなほどの鏖殺だった。

唯一、『巨塔の魔女』が立っていたが、地面に刺したナイフを引き抜く。

そのナイフはボロボロと錆びて崩れてしまった。

『巨塔の魔女』はそれを確認すると、転移で姿を消してしまったらしい。

結果、ヒソミは何の情報も得られなかったのだ。

彼は肩を落とし、ため息をつく。

「獣人種に策を与えて、マジックアイテムも融通すれば『巨塔』の手の内を少しでも暴くことが出来ると小生は考えていましたが、甘かったです。獣人種が無能なのもありますが、『巨塔』側が一枚上手でした。まさか戦場をまるごと覆い隠すマジックアイテムを使うとは……。どうやら小生達の狙いを見抜いていたようです。獣人種の情報網をおしゃかにしたのにもかかわらず、不甲斐ない結果になって申し訳ない」

「いえ、獣人種を使って『巨塔』の手の内を見ようと提案したのはボクですから。ヒソミさんが気にする必要はありませんよ。それに成果がゼロという訳でもありませんから」

「? ヒロ殿、それはどういう意味ですかな?」

ヒソミは意味が分からず、ついつい問い返してしまう。

ヒロは自身の考えを素直に話した。

「戦場をまるごと覆い尽くし、ヒソミさんでも内部を見ることが叶わなかったマジックアイテムなんて最低でも 幻想級(ファンタズマ・クラス) 、もしかしたら 神話級(ミトロジー・クラス) かもしれない。そんな稀少なマジックアイテムを使い捨てるなんてボク達でも不可能。なのに『巨塔』にはその余裕がある。ボク達以上の余裕を持てる存在なんて『C』ぐらいしかいませんよ」

「あっ……」

ヒロに指摘され、ヒソミが彼の言わんとすることに気付く。

さらにヒロは話を続けた。

「それと、『巨塔』がボク達の意図に気付いて手の内を明かさないために戦場を覆い隠したとは思えないんですよね。その割りに行動が中途半端ですから。だって監視しているヒソミさんを探す者達はなかったんですよね?」

「はい、小生を探す存在はいなかったと断言できますね」

ヒソミの返答にヒロが満足そうに頷く。

「ヒソミさん以上の手練れが監視していたため我々が気づいていない可能性、泳がされている可能性も捨て切れませんが……。考え出したら切りはありませんが、ボクはその可能性は低いと思います。恐らく、『巨塔』側も獣人種達を逃がさないように、皆殺しにする程度の考えで戦場を覆うマジックアイテムを使ったと考えるのが自然ですよ」

「……いや、むしろ獣人種を皆殺しにするためだけに最低でも 幻想級(ファンタズマ・クラス) 、もしかしたら 神話級(ミトロジー・クラス) の稀少なマジックアイテムをわざわざ使用したとか。小生そっちの方が頭が痛くなるのですが……」

ヒロも微苦笑しながら、ヒソミの意見に同意する。

「ですが使い捨てられる 幻想級(ファンタズマ・クラス) や 神話級(ミトロジー・クラス) を持っている組織なんて、やっぱり『C』か『C』の隷下の者が『巨塔』に関わっていると考えるのが自然ですよ。それにドワーフ種ナーノも姿を消していますし」

ヒロ達は『巨塔』が姿を現した後、獣人種ガルー、エルフ種サーシャ、偽『マスター』事件に関わった人物が消えていることに気付き、ドワーフ種ナーノについて、念のため撒き餌として接触し注目していた。

そのナーノも姿を消し、その時同時にヒソミの分体が消滅したという情報が入っている。

『偽ますたー』の関係者がこれで3人も姿を消したことになる。

『偶然』と考えるにはやや出来すぎている話だ。

「なのでボクは今回の結果を鑑みて、『巨塔』にはやはり『C』か、『C』隷下の者が関わっていると思います。なぜ『偽マスター』事件関係者を殺害しているのかについては様々な可能性がありますが……。やはりボク達がまず注目すべきは『巨塔』だと思うんですよ」

「……注目といえば、まだ噂の段階ですが、最近『 人種(ヒューマン) の聖女』が誕生したらしいですよ」

「聖女? たしか勇者のパーティーメンバーに『聖女』を名乗る 人種(ヒューマン) が居たような……。魔王か、勇者でも誕生したのかな。でも 人種(ヒューマン) の虐殺も起きていないし」

ヒソミの言葉に、先程まで鋭い見解を示していたヒロが困惑した様子を見せる。

ヒソミはそんなヒロに声をかける。

「魔王や勇者が誕生したなんて、小生も耳にした覚えはありません。一応、裏を取りますね。あと今回の一件――獣人種の虐殺騒動で魔人種側がさすがに騒ぎ出したようです。なので近々緊急のシックス公国会議が開かれるかも知れません」

「うわ、面倒な……。『巨塔』や『聖女』の調査もしなくちゃなのに、公国会議に関する話を 竜人種(ドラゴンニュート) としないといけないとか……」

「下手をすれば崇拝派が今回の一件で『巨塔』に興味を持つかもしれませんね」

「……『C』を崇拝する狂人。カイザーさん曰く『頭のイカれた破滅主義者』か。彼らが『巨塔』に興味を抱いてちょっかいを出すかもしれないのか……。そして、『C』か『C』隷下の者と接触して、傘下に加わるかもしれない……」

「もしくは『C』か『C』隷下の者なんておらず、『巨塔』が崇拝派の手で潰されるかもしれませんけどね」

ヒソミの指摘に、ヒロが軽く肩をすくめた。

「だとしたら、色々手間が省けて助かるんですけどね」

「確かに」

ヒロの軽口に、ヒソミも微苦笑を漏らす。

2人は一頻り笑い合うと、再び重い溜息をつく。

「崇拝派が『巨塔』に接触する可能性も考えて、ボク達も行動を考え直す必要があるようですね。一度、皆さんを集めて今後の行動指針を話し合いましょうか」

「カイザーさんが今回の報告を聞いたら、五月蠅そうですね……。気が重いですよ、本当に」

ヒソミの台詞に、今度はヒロが微苦笑を漏らす。

今後の方針について話し合いをするため、彼らは仲間に声をかけに向かうのだった。