軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話 ウルフ種族長ガムとガララ

「クソ! クソ! クソがぁぁぁぁあぁ!」

「だ、旦那様! お、お許しを! お許し――」

各部族の長たちが住む屋敷は獣人連合国首都に建つ会合屋敷を中心に、ぐるりと5等分され割り振られていた。

ウルフ種族長ガムは代々ウルフ種族が割り振られている区画に建てられた屋敷へと帰宅すると、屋敷の玄関ホールで仕事をしていた 人種(ヒューマン) 男性奴隷を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた 人種(ヒューマン) 男性奴隷は床を転がる。ガムは倒れた 人種(ヒューマン) 男性奴隷が許しを請うのも無視して憂さを晴らすため蹴り続けた。

レベル400を超えるガムに蹴られ、一般的な男性 人種(ヒューマン) が耐えきれるはずもなく『ゴキリ』と首の骨が折れて絶命してしまう。

それでもガムは止まらず、男性を蹴り続けた。

――数分後、ようやく気が収まったのか、ガムは蹴るのを止めて、騒ぎを聞きつけ集まった 人種(ヒューマン) 奴隷達に指示を出す。

「この 死体(ゴミ) を片づけておけ」

「か、畏まりました……」

他 人種(ヒューマン) 奴隷達は怯えつつも、逆らえるはずもなく素直に返事をする。

ガムはまだ怒りが燻っているのか、歩く足音が荒々しい。

彼の後ろを護衛役の獣人ウルフ種でも腕利きの者達が続く。

その中でも護衛のまとめ役で、ガムの親戚筋に当たるガララが気軽な口調で声をかける。

「オジキ、あの 人種(ヒューマン) 奴隷は昨日買ったばかりの奴だろ? 殺しちまうなんて勿体ない」

「はんッ! 人種(ヒューマン) 奴隷なんぞ、ガキの小遣いでも買える玩具のようなもんだろ。壊れたらまた買えばいいんだよ」

さすがに子供の小遣いで買えるほど 人種(ヒューマン) 奴隷は安くないが、獣人種での扱いは玩具以下だ。

族長であるガムが執務室に到着すると、ガララ以外は解散させて2人で部屋に入る。

ガムは乱暴にソファーに身を投げ出し、ガララは戸棚から酒を取り出しグラスに注いだ。

ガララが注いだ酒をガムの前に置くと、彼は乱暴な手つきで一息で飲みきる。

彼はガムの正面ソファーへと腰を下ろした。

「それより問題はレバドのビビリ野郎にコケにされたことだ! ガルーの野郎! 折角、次期族長候補に取り立ててやったのに自分の顔に泥を塗ってくたばりやがって! 生き返らせてもう一度この手でぶち殺してやりたいぜ! だいたい、最近の若い奴らも若い奴らだ! 仕事のひとつもまともにできないのか!? クソがッ!」

互いにライバル視している獣人タイガ種族長レバドに『ウチの若い者たちならダンジョンで無駄死にしたりはしないし、遺品の一つくらい持ち帰る実力ぐらいはある』と当て擦りされた。

実際、ガルーは死亡。

探査に出した若手たちは遺品一つ持ち帰ることができずに、半分が死亡した。

言い返せず、黙り込むしかなかった。

その怒りを発散するため、屋敷玄関ホールで 人種(ヒューマン) 男性奴隷を蹴り殺してしまったのだ。

ガムの怒りが再燃して再び暴れるより先にガララが水を向ける。

「でもよかったんですか、オジキ。レバドの肩を持つ訳ではないですが、ウチらがエルフ種に貸しを作るため若手を派遣しないのは……。確かに金はいくらかかかりますが、これは結構なチャンスだと思いますよ?」

「ガララ……オマエは腕は立つし、頭は回るが、どうも世間を知らなすぎるのが欠点だ」

「…………」

族長で親戚筋の言葉とはいえ、ガララは自身を侮る発言に顔を顰めてしまう。

今度はガムがグラスを取り、酒を入れてガララの前に置く。

「まぁ聞け。自分が若い頃、冒険者として色々モンスターやダンジョン、時には犯罪者相手に切った張ったをしていたのは知っているだろ?」

「……はい、B級冒険者だったと聞いてます」

「レバドのビビリ野郎も同じく『B級』だったが、アイツはモンスターに顔の傷を付けられてからビビってから仲間をとにかく大勢連れて、安全を優先した戦いしかしなくなったんだ。だが自分は違う。常に危険なクエストを率先して受けていた。だから、同じB級でも自分の方が評価が高かったんだぞ?」

「はぁ……」

ガムが手酌で自身のグラスに酒を注ぎ、過去の自慢話を始める。

『昔、自分は勇敢で、周囲からも一目置かれていた云々』と、年配冒険者などにありがちな内容だ。

ガララも内心で『ありがちで聞き飽きた話だな……』と思いつつも、礼儀として返事をする。

ガムが酒を舐め、口を開く。

「エルフ女王国領内のとある街に滞在中、ゴブリンが大量発生してな。ゴブリンの上位存在――ゴブリンキングが誕生して、ゴブリン達を纏め上げてその街に攻めてきたんだ。所謂 魔物災害(モンスターハザード) だ。原生林の奥から万に近い数のゴブリンが、ゴブリンキングに率いられて街を襲いに来てな。当時の自分は高位冒険者としてギルドの依頼でビビる仲間達や他冒険者を率いて、叱り飛ばしつつ最前線で戦ったわけだ」

ガララは胸中で『絶対に話を盛ってるんだろうな』と考えるが、口には出さない。

「相手はゴブリンでも数は多いし、中にはゴブリンアーチャーやゴブリンマジシャン、戦士やゴブリンライダーなんか居て、他モンスターのオークやオーガなんかも使役して厄介でな……。さすがの自分も『このままじゃ不味い。街が落ちる』と焦ったほどだ。ゴブリン共も自分達の勝利を確信したのか、ニタニタとした気分の悪い笑みをしやがって本当に最悪な戦場だったんだ。――しかし、エルフ種側から援軍が到着してから、流れが一気に変わったんだ」

上機嫌なガムの表情が変わる。

彼は鉛にでも変化したような重々しい声音で話を続けた。

「援軍はたった3人だけだった。『白の騎士団』と呼ばれるエルフ女王国最強の騎士団だ。団長、副団長、射手の3人――たった3人だけでゴブリン軍を壊滅させやがったんだ」

「お、オジキ達も手伝ったんですよね? ならたった3人は言い過ぎなんじゃ……」

ガムが首を振る。

「『白の騎士団』が到着した後、自分達は後方に下がらされた。その後、エルフ種3人だけでゴブリン軍団と戦って、敵を壊滅させたんだよ。……今思い出しても鳥肌が立つぜ。射手が何もない右腕を天に向けると、大量の攻撃魔法が突然飛んで、ゴブリン達や他モンスター関係なく射抜き、副団長が剣を振るうだけで、数十匹のゴブリン達の首が飛ぶ。けどな一番ヤバかったのが……団長の『静かなるハーディー』だ」

ごくり、ガララが喉を鳴らす。

ガムの話に完全に飲み込まれる。

彼は静かに当時起きたことを説明した。

「副団長と射手は確かに強かった。仮に自分達が戦っても、ゴブリン同様瞬殺される未来しか想像できなかった。勝ち筋はゼロだ。だが、それ以上に団長がヤバイ……気付くと戦いが終わっていたんだ。敵の悲鳴、剣戟の音ひとつなくな。気付いたらゴブリンキングの首が落とされていたんだ。一目見て一筋縄ではいかないと分かるゴブリンキングの首が、気付いたら落ちていたんだよ。なのに団長のハーディーは息どころか眉一つ動かさなかった。まるで道ばたに生えていた雑草を刈り取るような態度だったよ……。あの姿を見て『死神っていうのはああいう姿形をしているんだな』と自然と思っちまったもんだ……」

喉が渇いたのかガムが、グラスに残っていた酒を全て飲み干す。

飲み干したグラスを片手に弄びながら、遠い目をした。

「レバドのビビリ野郎は安全な場所で、危険度の低いクエストばかりやっていたから『白の騎士団』と『静かなるハーディー』の実力を知らない。実際の戦いを見ていないから見当違いな案を出しやがるんだ。エルフ女王国の近くに妙な塔ができた? だから何なんだよ、例え何があっても『白の騎士団』を投入すればお終いなんだよ。貸しを作ろうなんて考えること自体無駄なんだ」

ガムの視線が正面に座るガララを射貫く。

ガララの肩が震える。

「ガララ、いつか機会があれば自分のように世界を回れ。世界はオマエが想像する以上に広く、化け物共がうじゃうじゃいやがる。そして、自分のように世間を知って経験を積め。でなければ、いつか痛い目を見るぞ?」

「……はい、オジキ、貴重なお話ありがとうございます」

「可愛い親戚のためだ。これぐらいの助言ぐらいはしてやるさ」

怒り狂って 人種(ヒューマン) 奴隷を蹴り殺し、それでも怒りが再燃しそうだったガムだったが、過去話をしたお陰か落ち着いた感情を取り戻す。

ガララも貴重な話を聞けたことで、ガムに尊敬の眼差しを向ける。

ガムは自身の経験上、エルフ女王国に『白の騎士団』と団長『静かなるハーディー』が健在な限り、自分達にできることは何もないと考えていた。

――その考え、価値観が次の会合で覆る。

「『白の騎士団』が壊滅しただと……ッ!?」

ガムは両目を限界まで開き驚愕したのだった。