作品タイトル不明
31話 駄作
「ぐげッ!?」
ナーノが強かに鳩尾を杖で突かれ地面を転がる。
彼は腹部から広がる痛みに、声もあげられず悶えた。
僕はそんな彼を見下ろしながら告げる。
「レベル300? 畏怖の剣(秘宝級武器) を持っている? ……知っているよ。当然、対策を済ませているから罠にかけたに決まっているだろ」
「こ、のぉ……クソガキが……ッ」
ナーノは口で無理矢理息を吸いつつ、 畏怖の剣(フィア・ソード) を杖代わりにして立ち上がった。
彼は見下された態度が気に入らなかったのか、怒りで青筋を浮かべて 畏怖の剣(フィア・ソード) を握り直し、呼吸を整えて再び斬りかかってくる。
「調子に乗るなよ、クソ雑魚 ヒューマン(劣等種) が! 貴様らは大人しくこの天才鍛冶師ナーノ様の材料になるか、黙って斬られていればいいんだよ! なのに何反撃しているんじゃ! 攻撃してくるんじゃ! 立場を弁えろ ヒューマン(劣等種) ッ!」
「立場を弁えるのは貴様だ、ナーノ」
術も、フェイントも無い癇癪を起こした子供ががむしゃらに棒を振り回すようなナーノの攻撃。
確かに性能が格下の武器でレベルの低い冒険者が、 畏怖の剣(フィア・ソード) の能力――『相手に恐怖心を抱かせる』の影響を受けたら、この程度の下手な攻撃でも危うかっただろう。
レベル300前後で、冒険者としての経験もあるナーノだが、職人としての技能を優先させているため、戦闘技術はそこまで高くない。そんな彼が今まで辻斬り紛いを成功させていたのも、全て彼が手に持っている 畏怖の剣(フィア・ソード) のお陰なのだろう。
だが『奈落』最下層時代、メイからしっかりと武術を仕込まれているため、僕がこんな素人剣術に遅れをとることはない。
LV差もあるため全ての動きに対応するのは簡単で、擦ることすら許さずに全てを杖で弾き防ぐ。
ナーノの大ぶりに合わせて、剣ではなく握る手を強かに打つ。
「ッ!? ……剣がッ!」
彼は予想していなかったせいで、 畏怖の剣(フィア・ソード) を手放し落としてしまう。
僕はその隙を逃さず、すぐさま追撃。
ナーノとの距離を縮めて、彼をボールのように蹴り飛ばす。
ナーノは咄嗟に反応し腕を交差してガードするが、予想以上に強い蹴りに堪えきれず吹き飛ばされ地面を転がった。
取り落とした 畏怖の剣(フィア・ソード) と距離が出来る。
「少し小突いただけで簡単に手放すとは。これがご自慢の 畏怖の剣(フィア・ソード) ね……」
「ライト! 汚い手で儂の『伝説の武器』に触るでないわ!」
ナーノが取り落とした剣が僕の足下に転がっている。
近くで見ると本当に気持ちが悪い剣だ。
刃部分は赤黒く、人の苦悶の表情が浮かんでは消えているようだった。柄部分も複数の人の髪が使われており、握り締めたら指に絡みついてきそうな気配を感じる。
全体的に黒い怨念的なモノが漏れ出ているようで嫌悪を加速させる。
頼まれても触りたくない、が……。
「こんな気持ち悪い剣、誰がいるか。でも、そろそろこの戦いもお終いにしないと騒ぎを聞きつけた巡回中の警備兵士達が来るかもしれない。だからさっさと終わらせようか」
「お、おい、待て! 何をするつもりだ!」
僕は杖を両手で握り締め、足下に転がったナーノご自慢の 畏怖の剣(フィア・ソード) へと狙いを定める。
彼も僕が何をしようとするか理解したのか、先程まで暗がりでも分かるほど赤かった顔が、今度は原色で塗られたように表情を青くする。
「ら、ライト、お、お主、自分が何をしようとしているのか理解しているのか? 伝説の、後世に延々と伝えられるかもしれぬ伝説の剣を破壊しようとしているのだぞ! どれだけ罰当たりなことをしているのか分かっているのかッ!?」
「伝説の剣? 罰当たり? ナーノこそ理解していないようだね」
「ど、どういう意味じゃ?」
彼は冷や汗を流し、人質を取った犯人を説得するような声音で問う。
僕はそんな彼に満面の笑顔で事実を伝えて上げた。
「ナーノが作ったのは『伝説の剣』なんかじゃないよ。 人種(ヒューマン) の命を無駄に使った『駄作』っていうんだ。こんなあからさまに呪われそうな武器が『伝説の武器』になって、後世に永遠に伝えられる訳ないだろ。常識で考えろよ。むしろこの世に1秒だって存在しちゃいけないただの駄作だ。議論するだけ時間の無駄だ。さっさと破棄されて当然のレベルじゃないか。だから――」
「止めろ、止めろ! 止めろ! 止めろ! やめてくれぇぇぇぇええぇぇぇぇっ!」
僕が両手に握った杖を持ち上げる。
ナーノはこれから起こることを理解し、叫び続けた。
駆け出そうとするが、遅い。
力任せに杖を振り下ろす!
赤黒い刃部分が耐えきれず、『 畏怖の剣(フィア・ソード) 』は粉々に砕け散った。
僕はさらに杖を振り上げ、柄、大きく残った刃部分目掛けて振り下ろし、破壊する。
「ああぁ! あぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁッ!!!」
ナーノは獣のような雄叫びを上げて目から血の涙を流し、猪のようになりふり構わず直進してくる。
彼は僕を見ていない。
ただ粉々に砕けた 畏怖の剣(フィア・ソード) を見ていた。
鬼気迫る気迫があり、並大抵の者ならそれだけで威圧されてしまうだろうが――約3年間抱えてきた僕の復讐心の感情が後れを取るなどありえない。
むしろ逃げず、僕自身、正面からナーノへと突撃する。
「ライトォオオオォォォォォォッ――ぐぎゃぁ!」
そのままナーノの顔面を蹴り上げる。
カウンター気味に入り、手加減していたとはいえレベルをまともに上げていないドワーフ種なら顔が陥没し、首の骨が折れてもおかしくない一撃だった。
しかし、ナーノは伊達にレベル300前後まで上げておらず、歯が何本も折れて、白目を剥き再び地面を転がるが死亡はしていなかった。
「まだ全然、復讐が足りていないのにこの程度で死亡されても困るけどね。続きは人目に付く前にさっさとナーノを連れ――」
「いや~、無事に釣れたようでよかった、よかった」
「……!」
僕がナーノを無事に気絶、捕獲したことに安堵していると、第三者の声が響く。
暗闇からするりと湧いて出てきたように帽子を被った細めの 人種(ヒューマン) 青年が姿を現したのだった。