軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話 相対

「久しぶりだねナーノ。……奈落の底から復讐するために戻ってきたよ」

僕が『SSR、道化師の仮面』を外し、約3年ぶりに復讐相手の1人、ドワーフ種ナーノに声をかける。

彼は心底驚愕した表情で声音さえ上擦らせた。

「ほ、本当にライトなのか?」

「本物だよ。幻覚や偽者でもないし、双子の兄弟ってオチでもないよ」

「し、しかしあれから約3年経っているのだぞ。なのにどうしてまったく成長していないのだ……。人種の子供が3年も経てばもっと成長するはずだろ? 昔と同じとは、あ、ありえん……」

「オマエ達に裏切られた事実を忘れないため、体、精神が拒んだせいで昔のまま成長が止まってしまったんだよ。僕を裏切り、ゴミのように捨て殺そうとしたオマエ達にどうしても復讐がしたくてね」

真実を口に出さなかったが、胸中にヘドロのように溜まった彼らに対する怒りの感情を吐き出したことでナーノが納得する。

「……どうやら幻覚ではなく、本物のようだな。こんな深夜に単独で行動し、スラム街との境界線に向かったのも、儂を釣るためか?」

「正解だ。まんまと引っかかってくれて本当にありがたいよ。のこのこ釣り出され、正面に立たれた時は笑いを堪えるのが大変だったよ」

「…………」

ナーノは剣を持たない空いた左手で顔を覆う。

まんまと釣られた事に憤っているのか? それとも罠にはまって己の行動を悔やんでいるのか?

「そうか、生きていたのか……」

彼の内心を想像していると、ナーノが静かに語り出す。

「この約3年間、儂はお主が皆に裏切られ、殺されそうになる場面を何度となく視ていたんだ。どうして儂はあの時、何もせずただ傍観していたのかと。なぜ儂はあの時、皆を止めなかったのかとな……」

「…………」

予想外のナーノの台詞に僕は思考を巡らせる。

(まさかナーノはあの時のことを後悔していたのか? 確かに彼自身、僕に手を出した訳ではないが……)

『改心した』可能性について一瞬だけ考えたが、すぐに胸中で否定した。

むしろ僕は警戒心を上げる。

言動と違って先程からナーノから感じる邪悪な気配がより強まっているからだ。

彼は左手で隠していた顔を晒す。

その表情は弱者を嬲る嗜虐心に満ちた醜い笑顔をしていた。

「なぜ儂はあの時、皆を止めて――もっと残虐に貴様をこの手でぶち殺さなかったのかと何度も、何度も後悔したことか! ハズレ『ますたー』候補のオマエを掴まされたせいで、儂は二度と『ますたー』候補探しに参加できず、一度は夢が! 儂の『伝説の武器を作る』夢が潰れかけたのだぞッ! 何度、お前をこの手で殺す夢を視たことか! 魔物に喰い殺されるなど温い死に方なんぞではなく、産まれたことを後悔させるほど苛烈な拷問にかけて殺してやりたかったのだッ!」

ナーノは限界まで瞼を開き、目を血走らせ、唾液を撒き散らすように叫ぶ。

台詞を耳にしなくても、表情を見るだけで僕をどれだけ心底憎悪しているのか手に取るように分かった。

「無能な人種のせいで儂の鍛冶師としての天才的才能が危うく埋もれるところだったのだぞッ! 貴様のようなゴミ屑人種を掴まされたせいでなぁ! あぁぁぁぁぁぁぁああぁぁッ! 今思い出しても腹立たしい! どうして貴様は産まれてきたんだ! どうして生きていたんだ! どうして儂に迷惑をかける前に死んでくれなかったのだッ!」

ナーノは肩で息をするほど激しく叫ぶ。

叫びたいことを叫び終えると、彼は再び気持ち悪い粘つく笑みを浮かべた。

「……だが、やはり儂の天才的才能を女神はお見捨てにならなかった。運良く、『禁忌の剣製造本』を手に入れることが出来たお陰で、こうして儂の夢『伝説の武器を作る』という夢を叶えることが出来たのだっ! そう、儂は天才だ! この世界に選ばれし天才なのだッ!」

見せびらかすように彼は剣を掲げる。

ナーノの右手に収まっている剣は、デザインこそシンプルだが刃部分が赤黒く、柄部分も髪の毛のような質感を持っていた。

見ているだけで非常に気持ちが悪くなるほど禍々しい。

にもかかわらずナーノ自身はまるで至高の芸術作品を前にしたかのように恍惚とした表情を作っていた。

「見るがよい、儂が作り出したこの剣を! いつか『伝説の武器』と謳われる『 畏怖の剣(フィア・ソード) 』の神々しさをッ! ライト……貴様には苦渋を舐めさせられたが、許してやろう。この『伝説の武器』である『 畏怖の剣(フィア・ソード) 』の糧になることでな……ッ!」

「僕をその駄剣で殺せるつもりか? ナーノ、オマエは僕に釣られてこの場に居るということを忘れていないか?」

ナーノが剣を構えて、『ひひひひひィッ』と狂気的な笑い声を漏らす。

僕はその姿を冷たく見つめながら、『SSR、道化師の仮面』を被り直すと、杖を両手で持つ。

「だから貴様は無能なのだ! 周囲に貴様以外、気配は無い! はったりを利かせて儂の戦意を挫くつもりだったなら、足手まといの雑魚でも数を用意しておくべきだったな!」

ナーノは言い切ると、再び地面を蹴る!

ドワーフ種とは思えない速度で突撃し、剣を振るう。

僕は冷静に剣筋をとらえつつ、杖で防ぐ。

「儂の目は誤魔化せんぞ! 『 畏怖の剣(フィア・ソード) 』の能力も防ぐ杖とその仮面だけではないな! 他にもマジックアイテムを多数身につけておるだろう! 例えばその右腕の腕輪とかな!」

「!?」

僕は 動揺した演技(、、、、、、) で、ナーノの剣で弾かれたように蹈鞴を踏み、苦戦を演じる。

彼は自身の指摘が的を射たと誤解し、さらに攻め立て調子よく囀る。

「『奈落』で転移した際に運良く宝箱部屋か何かに飛ばされて、その杖や仮面等を手に入れたお陰で、『奈落』から無事に逃げ出すことが出来たのだろう? そして、この3年間儂に復讐するための機を窺っていたようだが……甘いんだよッ! クソゴミカスの無能人種の分際でレベル300を超えるドワーフ種で、天才的才能を持つ儂が作り出した『伝説の剣』、『 畏怖の剣(フィア・ソード) 』を前に勝とうなどと! イキり過ぎじゃ馬鹿めが! このクソクソクソクソクソクソクソクソがぁぁあぁああぁッ! ひひひひひひぃッ!」

狂気的に僕――人種を見下し、ナーノは剣を振るう。

だが所詮、約3年もまともに戦闘もしていなかったドワーフ種だ。太刀筋も単調で、武器の性能任せの攻撃を続けるだけ。

僕はあっさりと剣を弾き、杖で鳩尾を強かに打つ!

「ぐげッ!?」

ナーノは踏まれたカエルのような声音を上げて、地面を転がった。

僕は地面に転がったナーノを見下ろしながら告げる。

「レベル300? 畏怖の剣(秘宝級武器) を持っている? ……知っているよ。当然、対策を済ませているから罠にかけたに決まっているだろう?」