軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 禁忌の剣、製造

ライトの復讐相手の1人であるドワーフ種ナーノは、『禁忌の剣』の製造のために仕事を辞職。

郊外にある一軒家に引っ越した。

石材と金属を合わせた塀に、金属製の門。

2階建てで、庭もあるが手入れがあまりされておらず、建物も装飾より頑丈さを追求した作りになっている。

そのため貴族屋敷というより、小さな城塞というイメージが強い。

資金は『ますたー』候補だったライト殺害による報酬があるため、問題はなかった。

ナーノが引っ越した一軒家は元々鍛冶研究のために造られたため、『禁忌の剣』製造に非常に適していた。

半地下の鍛冶場。

さらに地下に秘密が漏れでないように研究部屋が存在している。

元持ち主もナーノ同様『伝説の武器』を作り出そうと研究を続けていたようだが、願い叶わず死亡してしまう。

再び『伝説の武器』を作り出そうとする者が入居したのは一種の皮肉だろうか。

「まいどどーも、ヒソミです」

そんな屋敷の玄関先で 人種(ヒューマン) 商人が声をあげる。

ちゃんとナーノの耳に届くように、ごついドアノッカーをガンガンと鳴らした上でだ。

分厚い布で覆われた馬車に注文を受けた荷物を載せて、商人が屋敷に顔を出す。

商人は 人種(ヒューマン) で、身長は170cm前後、細身で着ている衣服も極々普通だった。普段肩から下げている革鞄は現在、荷馬車の中に置かれていた。

全体的に特徴が乏しい容姿をしている。

強いて言うならば、糸のように細い目と、胡散臭い笑みが少しだけ記憶に残る程度だろう。

無事、ドアノッカーの音が届いたらしく、扉が少しだけ開く。

まだ昼間にもかかわらず、扉内側が暗い。

一切の明かりを付けていないからだろう。

にもかかわらずナーノの瞳はギラギラと光が灯ったように輝いていた。

「おう、ヒソミか……荷物は?」

「もちろん、今回もナーノ様がご注文なされた品物全てをお持ちしましたよ」

胡散臭い笑顔でヒソミが告げる。

彼の言葉にナーノが顎でしゃくり、『裏に回ってくれ』と指示を出す。

裏手にある搬入口から荷物を入れるつもりだ。

ヒソミも慣れた様子で裏に回る。

裏に回り、荷馬車を搬入口倉庫近くに寄せる。

ヒソミは懐からメモを取り出し、今回搬入する商品名を読み上げていく。

「食料品に、お酒、日用品と消耗品の他、鉄鉱石、石炭、各種錬金素材なども運んできました。そして今回も3樽ほど特殊材料を準備しましたよ。ただこちらの特殊材料は小生には少々重すぎるので……」

「分かっておる。たく、 人種(ヒューマン) は軟弱だな……。だが大切な材料だ。儂がしっかり運ぶからお主は手を出すな」

「いや~、助かります」

ニコニコと胡散臭い笑みを零すヒソミに、ナーノは鼻を一度鳴らし、さっさと作業を開始する。

ナーノが大樽を抱えて運び込む。

彼はレベル300前後。

この程度の大樽など楽々持ち運ぶことができる。

その間にヒソミは、食料品などの細々とした物を運び込む。

2人で取り組んだため、そこまで時間がかからず荷物を運び入れることが出来た。

裏手搬入口から、荷物を運び入れると、倉庫内部で向き合いヒソミがナーノへと話しかける。

「では代金はいつも通り冒険者ギルドの口座から頂きますね」

「任せた、ほれ証明書だ」

ナーノが事前に準備した金額を記した証明書をヒソミへと手渡す。

これで冒険者ギルド口座に入っているナーノの金銭を受け取ることが出来るのだ。

ヒソミは大切そうに証明書を懐にしまうと、世間話をする気楽さで話題を振る。

「例の製作は順調ですか? もし足りない素材や資材があるならすぐにご都合を付けますが?」

「問題ないわい。むしろすこぶる順調じゃ。ほれ、これを見てみろ」

狂気的な笑みを作り、腰に収まっていた1本のナイフを抜いて見せる。

ナイフの刃はうっすらと赤みがかり、目を凝らしてみると微かに黒い靄が昇っていた。

「お主から買った『禁忌の剣』製造をまとめた書物に従い、実験として作り出したナイフだ。たった1人の 人種(ヒューマン) を材料に作り出したにもかかわらず、あっさりと 遺物級(レリック・クラス) のナイフを作り出すことが出来たのだ! ひひひひひ! 素晴らしい出来じゃろ!」

「はい、素晴らしい出来ですね。小生に商品として卸して欲しいぐらいですよ」

ヒソミは『1人の 人種(ヒューマン) を材料に作り出した』と耳にしていながら、うさんくさい笑顔を一切動かさず返答した。

彼らが話している『禁忌の剣』とは、遺跡から稀に発掘される等で出回る強力な力を持つ呪いの武器のことだ。

『剣』と呼ぶが、剣だけでなく斧や槍等も含め、武器全般を指す。

基本的に呪われている武具で、使用者の寿命を削ったり、生き血を求めたり、精神を浸食し狂わせたりする。

お伽噺の英雄の中には強靱な精神力で抑え込み『禁忌の剣』を使いこなす者も居たとされるが――一般的には危険物扱いされている。

故に、『禁忌の剣』、『呪いの武器』などと呼ばれていた。

6ヶ国協定でも『禁忌の剣』は危険物の扱いを受けており、間違って取得したり他人が持っていることを発見した場合、すぐさま届け出るよう厳命されていた。意図的に違反し所持していた場合、死刑すらありえる。

そんな『禁忌の剣』を製造する書をナーノは、ヒソミから購入し、実際に『 人種(ヒューマン) を材料に』作り出しているのだ。

商人ヒソミの返事が気に入ったのか、赤みがかったナイフを製造したナーノは気分良さげに語り出す。

「そうかそうか! やはり見るべき者が見ればいかに種として格下の 人種(ヒューマン) でもこのナイフの素晴らしさを理解するか! ……いや、無能な 人種(ヒューマン) を素材にしてこれほど素晴らしいナイフを作り出すとは、儂の鍛冶としての才能が優れているからではないか? 儂こそ『伝説の武器』を作り出すために女神様がこの地上に送り出したドワーフ種なのかもしれぬ……」

途中から自分の世界に入り込み独白を開始する。

『 人種(ヒューマン) を材料に』して作り出す『禁忌の剣』が製造者に何の影響も与えないはずがない。

ナーノは知らず知らずのうちに精神を蝕まれているが、本人としてはそれすら『伝説の武器』を作り出す心地良い刺激でしかなかった。

特殊素材――大樽の一つがガタガタと動き出す。

その音に反応して、ナーノが動きを止めた。

ヒソミは申し訳なさそうに頭を掻きながら弁解する。

「あ~、どうやら薬の効きが悪かったようですね。すみません、途中で目を覚まさせてしまって」

「…………」

ナーノはヒソミの謝罪にも反応せずガタガタと動く大樽に手をかけ、蓋を開く。

そして中にいる猿ぐつわをカマされ、手足、体をがっちり縛られ身動きが取れない人種男性を覗き込む。

「……活きがよい 人種(ヒューマン) だ。これなら素晴らしい武器が作れそうだ。貴様達は運が良い。この天才鍛冶師によって、永遠に語り継がれる伝説の武器に生まれ変わることができるのだから。無能な貴様達を儂の手で心臓、骨、皮、怨嗟、苦しみ、狂気、怨念、血の一滴まで無駄なく伝説の武器に変えてやるからな。喜び、歓喜するがいい」

「ンンウッ!? んんっ! ンンンゥ!」

樽の中の成人男性 人種(ヒューマン) は、ナーノの発言に震えてガタガタと暴れ、涙を流しながら首を横に振るが、猿ぐつわ&ロープによってがっちりと固定されているためまともに動くことが出来ない。

ナーノは再び丁寧に蓋を閉めると、大樽を担ぐ。

地下の研究所に移動するらしい。

「さてこれからますます忙しくなるぞ。ヒソミ、 人種(材料) はまだまだ足りぬからどんどん持って来てくれ」

「了解しました、小生にお任せください」

ヒソミは同じ 人種(ヒューマン) が残酷な目に遭っているにも拘わらず、胡散臭い笑顔を一切揺らすことなく同意の返事をする。

彼は倉庫から出て馬車へ乗り込み、屋敷を後にした。

御者として馬車を操作しつつ、ヒソミは1人呟く。

細い瞳を、片目だけうっすらと開き思考する。

「今の所は動き無しですか……もしくは既に動いているが小生が気付かないだけか……。だとするなら少々厄介ですね。いやはや面倒臭い……」

彼の独り言は馬の足音、馬車の移動音に紛れて消える。

そしてそのまま誰の耳にも入らず、溶けて消えてしまったのだった。