軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64 私にしかできないことだから。

フレデリック殿下が「ではこれから……」と言いかけたのをレクスさんが止めた。

「申し訳ありませんが、今日はここまでにしていただけないでしょうか。ニナは先日二十八人の記憶を見た後、意識を失いました。今日もマイヨールの魔法の影響で動けなくなったので、日を改めていただけるとありがたいです」

「そうだったな。わかった。侍女たちの記憶を見るのは明日にしよう」

殿下のご配慮で私たちは帰ることになった。駐車場まで私たちはクローディアさんと一緒になった。

(なんか聞くことがあったよね?)と思っていたら、レクスさんがクローディアさんに声をかけた。

「先日お二人は急いで帰りましたが、アシャール城に長居できない理由が何かあったでしょうか。僕で改善できることでしたら、手を打ちたいのですが」

そうだった。それを聞こうと思ってたんだっけ。

クローディアさんを見ると、彼女はレクスさんを見てから私を見て、「あら、気づかれちゃった?」と笑う。

本当に長居したくない理由があったんだ?

「ニナはあのお城にどのくらい住んでいるの?」

「三月の下旬に引っ越したので、四ヶ月です」

「それで体調は悪くないのよね?」

「はい」

「ニナは私たちとは違うタイプだからでしょうね」

「クローディアさん? どういう意味ですか?」

黒い馬に乗ったスパイクさんが少し離れた場所を通りながら、片手を小さく上げて立ち去ろうとしたが、それをクローディアさんが呼び止めた。

「ちょっとスパイク! こっちに来て。私たちがアシャール城に長居しない理由を聞かれているの。あなたから説明してよ」

するとスパイクさんが「あっ」という顔をして馬の向きを変えた。

「気づかれましたか。ニナに伝えるべきかどうか迷っていたのですが。今の時点でわかることだけ伝えますね」

「お願いします。僕も知りたい」

「アシャール城にはかなり高度な魔法がかけられています。魔法をかけた本人は解除しないまま亡くなったか引っ越ししたか。あの城にいると、我々は魔力を吸い出されるんですよ。ニナは我々のような魔力を持っていないから、フレッドと暮らしても問題なかったんでしょうね」

なんでここでフレッド君の名前が出るの?

フレッド君は今、レクスさんの腕に抱かれて気持ちよさそうに眠っているけど。

「あの城には魔力量の多い者から少ない者へと、魔力が移動するように魔法がかけられています。そのうち調べてみようと思っていましたが、あなたたちに害はなさそうだし依頼されていないことなのでどうしたものかと考えていました」

「私はそこまではわからなかったけれど、ソファに座っているだけで魔力が減るのを感じたの。長居は危険だと思ってさっさと退散したってわけ」

「お二人の魔力がフレッドに流れ込んでいたのですか……」

レクスさんも驚いているけど私も驚いたわ。

だからフレッド君はバラでマイヨールを包むようなことができたのか。いきなりあんなことができるなんて、普通じゃないとは思ったけど。

「幼い体に過剰な魔力を蓄えさせるのは良くないんです。我々は今後、アシャール城には近寄らずに電報で連絡を取りますよ」

「ご迷惑をおかけしました。僕が近いうちに電話を引きます。魔法協会には電話はありますか?」

「近々引く予定です。アシャール城に近づかなくて済むのはありがたい」

「僕が魔法協会に依頼したら、その魔法を解除してもらえますか?」

「ええ、もちろん。高度な魔法なので、解除の料金は少々張ります。料金はだいたい……」

スパイクさんがレクスさんに金額を告げて、レクスさんは「それでお願いします」と即答した。料金は私の恋占いの二百倍の値段だった。

スパイクさんは魔法協会の会長だし古い高度な魔法の解除だから、高額になるのかな。

車に乗ってから「それにしても二百倍……」とつぶやいたらレクスさんに「ふふ」と笑われた。

「ニナの料金の二百倍って意味? ニナの料金はどうやって決めたの?」

「カフェのお茶とケーキのセットの値段と同じにしたんです。それくらいならお客さんも気軽かなと思って」

「王都に来たばかりの頃はそれでもよかっただろうけど、そろそろ値上げしたら? 王家や高位貴族を相手に仕事しているんだから」

「そうですかね。でも、たった四ヶ月で値上げするのは迷います。レクスさんはあんな大金の依頼をして、大丈夫なんですか?」

レクスさんがまた楽しそうに笑った。

「大丈夫だよ。ダンテ鉄道が大躍進していてね。投資した僕のお金は、あっという間に二倍になったんだ。ニナのおかげだ」

「ふうん」

いくらダンテ鉄道に投資したのか知らないけど、スパイクさんのあの高額な料金を即決で依頼したということは、たくさん儲かっているのか。

感心している私に、レクスさんが「夕食は買って帰る」という。「ニナは食べたらすぐに休んで」とも。心配しすぎなのでは。

「今日は全然疲れていませんよ?」

「自覚がないかもしれないけど、ニナの口が回らなかったとき、全身が変だった。マイヨールに触れている途中から、下手な人形使いが動かしている操り人形みたいだったんだよ。立ったままギクシャク動いていた。表情も普通じゃなかった。ゾッとしたから強引にマイヨールから引き剥がしたんだ。本当に大丈夫かどうか、しばらく様子を見たほうがいい」

私、そんなことになっていたの?

「普通じゃないって、どんな表情だったんですか?」

「どんなって……。意識しては作れないような表情。異常事態なんだと僕の本能が騒ぐような」

うわ……。そんな変な顔だったのか。

その夜は持ち帰りの肉の串焼きとフライドポテト、リンゴジュース、それと畑の野菜サラダの夕食になった。

なぜかレクスさんが私とフレッド君に甲斐甲斐しく世話を焼いている。

フレッド君は黙々と食べていたけど、最後は椅子の上でウトウトし始めた。疲れちゃったんだね。ごめんね。そしてありがとう。

「明日も僕を同行させてほしい。いいよね?」

「はい、お願いします」

お皿を洗うのも浴槽にお湯を溜めるのも、全部レクスさんがやってくれた。

それほど私はあのとき変なことになっていて、レクスさんは不安なんだろう。

心配をかけて申し訳ないと思っている。でも、これは私にしかできないことだから。