軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 お前は心配性の父親か ✤

駅近くのカフェで、レクスはウィリアムと打ち合わせをしていた。

「電話を引けよ。これから売れっ子になるんだ。いや、今もファンは多いけれど、作家としての名声をグッと上げて、君は忙しくなる。電話を引くべきだ」

「電報で用は足りている。電話は必要ない」

「電報じゃ微妙なニュアンスが伝わらないんだよ。声を聞きながら打ち合わせをしたいんだ」

「いつ電話がかかってくるのかわからない状況が嫌なんだよ」

「気持ちはわかるが……。でも、電話の話は頭の隅に置いておいてくれ。それで、今回も悲恋にするのか?」

「そのつもりだが、ダメなのか?」

ウィリアムが一瞬言い淀んでから何かを決意したような顔になった。

「ローズ・モンゴメリーは美しい悲恋を書く作家として人気がある。でも成就される恋の話で幸せな読後感に浸りたい人は多い。次はハッピーエンドにしよう。ファンのすそ野がグッと広がる。間違いない」

「ハッピーエンドねえ。考えておくよ」

「それともうひとつ。ニナを夕食に誘うつもりだ。彼女がうんと言えば今日は帰りが遅くなるけど、いいよな?」

「ダメだ」

「なんで? あの坊やのことなら、ジェシカがいるだろう」

「ウィルはニナをどうするつもりだ? 結婚する気もないくせに、恋愛ごっこだけを楽しむつもりか?」

ウィリアムが呆れた顔でレクスを見た。

「夕食に誘うだけだよ。なんで結婚なんて言葉が出てくるんだ?」

「彼女は忙しいんだよ」

「お前は心配性の父親か。彼女は大人だ。誰と交際しても、お前の許可は必要ないんだぞ?」

レクスは反論すべき言葉が見つからず、打ち合わせを終えてカフェを出た。

城に向かおうとして、ここから駅前の公園が近いことを思い出して行き先を変えた。

「あっ、いたいた。ああ、仕事中か。うん? あの男は……平民を装っているけど、グランデル伯爵家の三男だ。たしか名前は……ルパート・パーシヴァル・グランデル」

仕事の邪魔をしてはいけないと、車に乗ったままニナの占いが終わるのを待った。昼食でも一緒にと思ったのだ。だがニナは小さな看板を折りたたむと、ルパートと共に家紋がついていない小さな馬車に乗った。

「あれはお忍び用の馬車じゃないか。どこに連れて行かれるかわからないのに不用心な。ここはモーダル村とは違うのに!」

レクスは落ち着かない気持ちで見ていたが、ニナになにかあったらと思ったら我慢できず、馬車のあとをつけた。

(僕がルパートの評判を知っていればこんなに心配しないんだが)

見つからないように距離を置いて尾行していると、馬車はまっすぐにグランデル伯爵家の屋敷に入った。

(自分の家で乱暴なことはさすがにしないだろう。……しないよな? ルパートのことは知らないが、彼の兄はたしか軍人だ。兄の名誉を汚すようなことは……あれ?)

「失礼いたします。レクセンティウス・ローゼンタール様でいらっしゃいますか?」

「そうだけど?」

「ルパート様が屋敷にどうぞとおっしゃっています」

「……そう。じゃあ遠慮なくお邪魔するよ。君も乗ってくれ」

尾行がバレていたのは気恥しいが、遠慮するつもりはない。馬車置き場に車を置いて使用人と一緒に屋敷に入った。

階段を上がった二階のドアを使用人がノックすると「どうぞ」という男性の声。使用人がドアを開けてレクスが入ると、中にはニナ、ルパート、それにグランデル伯爵がいた。

「グランデル伯爵……お久しぶりです」

「やあ、レクセンティウス。久しぶりだね。君、ルパートを尾行したらしいね。うちのルパートはよほど信用がないらしいな。ルパート、お前の評価を思いがけず知ることができたよ」

「誤解しないでください、父上。僕は品行方正です」

「すみません、ニナを見かけたものですから、僕がつい心配してしまっただけです。ルパート君を疑ったわけでは……」

ニナは驚いたような戸惑ったような表情でレクスを見ている。

(しまったな。これじゃ本当に心配性で過干渉な父親みたいだ)

「なに、ちょうどいいから君にも説明しておこう。私がニナの噂を聞いたところへキッドマン子爵夫人からもニナの話を聞かされたんだ。ニナはすぐに夫人の指輪を見つけ出したそうだね。そんなに占いの腕がいいなら、我が家の投資先も占ってもらおうと思ったんだ。それだけだよ。君が心配することはなにもない」

「そうでしたか」

「君はそこで安心して見ていればいい。ではニナ、お願いできるかね? 私がこの中のどの投資先を選ぶべきか、教えてくれ。できるかね?」

「できると思います」

数枚のパンフレットがテーブルに並べられている。

ニナがグランデル伯爵の手を取り、目を閉じた。しばらくして手を放すと立ち上がった。

「伯爵様、お耳を」

「ん? みんなの前で結果を話していいぞ」

「いいえ。どうかお耳をお貸しください」

伯爵が少し首を傾け、ニナが伯爵の耳に顔を寄せてしばらく何かを囁くと、伯爵がのけぞった。とても驚いている。

「どうか、それをお忘れなきように。私はこれで失礼いたします」

「あ、ああ、では支払いを」

ニナが料金を受け取って、レクスに顔を向けた。

「レクスさん、私は公園に戻りますね。今日はもう少し働きますので」

「あ、うん。僕は帰るよ。公園まで送ろう」

レクスはニナを車に乗せ、消化不良の気分で車に乗った。

(ニナはなぜ皆の前で結果を言わなかったのか。伯爵家の人間じゃない僕がいたからだろうか。失敗したなあ。ニナの仕事の邪魔をしてしまった)

レクスはニナを公園まで送り、アシャール城に戻った。そして居間でフレッドの相手をしているジェシカに声をかけた。

「ニナの帰りが遅くなりそうだから、残業を頼める? ウィリアムが残業してくれと言っていたよ」

「承知しました。ニナさんが帰るまではここにおりますね」

フレッドが顔を上げて悲しそうにしている。

「レクス、ニナはおそいのか?」

「遅いと思うよ」

「ちぇっ」

だがニナはいつもの時間に帰ってきた。

「ただいま帰りました」

「おかえり。早かったんだね。ウィリアムと食事だったんじゃないの?」

「ウィリアムさん? いえ、食事はしていません。誘われましたがお断りしました。料理を作りますね」

レクスとニナの会話が途切れるのを待っていたジェシカが、「ニナさん、ちょっといいですか?」と硬い声を出した。

「私? はい。いいですけど。なんでしょう?」

「ここじゃ話せないことだから、台所で」

「わかりました」

ニナはジェシカと一緒に台所へと消えた。

「レクス、ニナがはやくかえってきてよかったな」

「いや? ニナが遅くても別にがっかりしないが」

フレッドは「ふうん」と言って居間を出た。

レクスは(そうだねと答えれば済む話なのに、子供相手に大人げなかったな)と、一人で赤くなった。