軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 騎竜戦の終結と同盟への前進

アイリーンはユマと共に、観戦所の控え室から様子を見ていたが、幻燈晶によって映し出された光景に安堵した。

イリーナによって、渓谷の途中にある洞窟が崩落したと知らせが入ったとき、観戦所にいる人々は騒然とした。エルセイン側のアシュトル=ファリドは、アルベインによる謀略かと嫌疑をかけ、一触即発の状態となったのだ。

もし衝突が起こればアイリーンも出ていくつもりだったが、コーディは一人でアシュトル、そして他に出席している二人の魔公爵を牽制し、場の均衡を保っていた。

「ああ~……良かったぁ。ほんと、洞窟が崩れたときはどうしようかと……」

すぐに助けに行きたいという思いはあったが、その前にリムセリットから念話が届いた。母火竜に乗ってディックの身体を運んでいくというので、同時にリムセリットからの念話を受けたコーディが、スフィアとジュリアスが洞窟の崩落に巻き込まれたこと、渓谷を遡上していけばその現場に辿り着くことを伝えた。

一つ目の視界水晶の前を、イリーナの黒竜に先導されて、火竜の集団が通っていったとき、幻燈晶によって映し出された光景を見て、魔王ジュリアスにアルベインの竜たちが総攻撃をかけるのでは、とアシュトルが誤認しかけたときは、さすがに戦いは避けられないとアイリーンは覚悟したのだが、ヴェルレーヌはそれも見越して、エルセイン側を落ち着かせるためにある手を打っていた。

「ヴェルレーヌさんが、ベアトリスさんを召喚してくれていたのですね」

「うん、そういうことなのかな。驚きだよね、おじさんっていうにも若くみえるのに、アシュトル公爵がベアちゃんのおじいちゃんだなんて」

ベアトリスがこの観戦所に姿を現し、アシュトルに冷静に状況を見極めるよう嘆願すると、彼はアルベインの謀略を疑う他のエルセインの人々を自ら諌めた。

それでも緊張状態は続いていたのだが、入口側と同時に崩落していた洞窟の出口がミラルカの陣魔法によって開通し、スフィアとジュリアスが視界晶の前に姿を現したことで、ようやくエルセイン側は落ち着きを取り戻した。

「ユマちゃんがいると、みんなが落ち着くのも早いみたいだけどね」

「『鎮める』ことは得意ですので……霊体の方に対しても、荒ぶりを緩和することはできるんです」

「どんなときでも一発昇天かと思ってた。ユマちゃん、いつもそんな感じだから」

「どちらかというと、一発鎮魂です。ああ、ディックさんが魂の器に戻られたようですね。やっぱりこの形が一番です……ディックさんの肉体と魂の結びつき、感じるだけで心がふわふわしてしまいます」

ユマの言っていることを聞いていると、アイリーンは思わず身体が熱くなるように感じてしまい、こんな時に何を考えているのかと自分を戒める。

(……ディック、無事に戻れてよかった。また、髪を乾かしに来てもらえるのかな)

どうしても期待せずにはいられない。王都で気ままにフリーの冒険者稼業をしながらも、アイリーンはディックからの依頼を常に楽しみにしていた。

ディックに頼られることが、他の何よりも心地良かった。彼の仲間になれたことこそが、魔王討伐隊に志願したことによって得たものの中で、何より大きかった。

アイリーンは若くして一族の中で最強の武闘家となり、周囲から神のように尊敬され、その一方で、純血の鬼族でないことで差別を受けてもいた。

気を許せるのが近しい親族だけだったアイリーンは、誰かに信頼され、自分も信頼するという関係に憧れていた。それを初めに与えてくれたのが、『友達』になってくれたディックたちだった。

ミラルカ、ユマ、コーディ。家族よりも深い絆で結ばれている三人との関係。それと、ディックとの関係は同じでなければならないと思った。そうしないと、バランスが崩れて、皆がばらばらになってしまうかもしれないからだ。

「……アイリーンさん、私たちはずっと一緒です。何があっても、そうなんですよ。あなたの魂が寂しがっていたら、私は誰よりも早く気づきたいって思うんです。でもそれは、みなさん同じだと思います」

「ユマちゃんは誰かがディックを取っちゃったら、寂しいって思わない?」

「そ、それは……あの、アイリーンさん、取っちゃうんですか? いえ、ディックさんは取ったり取られたりとか、ものみたいに扱ってはいけませんけど」

「まあそれはそうなんだけど……ああ~、そんなこと言ってる場合じゃないのに。あたしってやっぱり、考えが足りないよね。時と場合をわきまえなきゃ」

「そんなことないです、それってすごく大事なことです。どんなときでも、誰かが大切だって気持ちを忘れてはいけないと思います。それともアイリーンさんは、ディックさんのことを、時と場合によって心から消してしまうことができるんですか?」

優しい語り口で、微笑んでもいる。しかしユマの言葉には力があった。

自分なら、そんなことは決してない。何があってもディックのことを想っていると、ユマはそう言っているのだ。

「……ユマちゃん、スフィアちゃんが自分の娘だってわかったとき、どう思った?」

「あ……は、はい、それはもう……ディックさんや皆さんとの絆のあかしが、このようにして新しい命として生まれてきてくれるなんて、すごく素敵だなって……」

「うん、あたしも。それとね、これでディックがもし気づいてくれなくたって、あたしはもう、そんなに寂しくならないかなって」

「はい、わかります。でも本当は、どう思っているんですか?」

笑顔で聞き返してくるユマを見て、アイリーンは敵わないと思う。そして、幻燈晶によって映し出された、終着点に辿り着いた竜たちを見ながら笑って言った。

「気づいてくれるまで、諦められないし、諦めない。落ち着いてから、もうちょっと大胆に攻めてみようかな」

「みなさん、きっと同じだと思います。私は聖職者なので、魂に触れることしかできませんが……」

「あ、自分は逃げ道を残してる。ユマちゃんのお父さんお母さんの職業は何だった?」

「は、はい……でも私のこと、ディックさんはそれこそ、妹くらいにしか思っていないと思うんです。私もお兄さんみたいって言ったことがあるので……」

「ミヅハちゃんへの接し方を見ると、妹としてだと気づいてもらえないかもね。でも、ユマちゃん話し方が大人っぽいから、思い切り甘えてみたらまた違うかも」

「そ、それは……すごく、難しいです。私、甘えるより甘やかすほうが好きなので」

もしユマが大人になり、その慈母のごとき母性を発揮したら――アイリーンは、他の誰も勝てなくなるのではないかと想像する。

「もし神にお許しいただけるのであれば、ディックさんを陽気のいい午後にいい子いい子としながら、魂の手触りを存分に確かめさせていただきたいのですが……」

「……あたしよりすっごいこと考えてるよね、ほんとに。髪を乾かしてほしいとか、ちょっと遠慮がちすぎるよねってくらい」

「アイリーンさんの髪がふわふわなのは、ディックさんのお力のたまものなのですね♪」

「あ……ま、まあ、毎日はやってもらってないけどね。あたしのほうは毎日でも……」

「あっ、そろそろ戻っていらしたみたいです。凄く長いあいだ、ずっと眠っているところばかり見ていたようで……何だか、どきどきしますね」

ユマは胸が高鳴るあまり、少し苦しそうにも見える。アイリーンはというと、先程から身体の発熱がおさまらず、ひとりでに鬼神化するのではないかというほどだった。

◆◇◆

騎竜戦の終着点として設置された視界晶より先にも、渓谷はずっと続いており、エルセイン側の山脈にぶつかっている。

最後の視界晶を通過したのは、スフィアのほうが先だった。ジュリアスはすでに負けを認めており、彼が言うとおり、最後まで飛んだのは決着を形にするためだ。

イリーナとメルメアは、俺たちに挨拶をして、ジュリアスと隊列を組んで飛んでいく。彼女たちからは後で話を聞く必要があるが、今は試合後の報告を終えることが先だ。

「お父さん、私、王様たちのところに行って挨拶をしてくるね」

「ああ。俺たちも見てるからな」

イリーナの竜にはヴェルレーヌが乗っている。彼女も皆の前に立ち、アルベインに滞在していること、この場に駆けつけたことについて、自分で説明することになるだろう。

スフィアがバニングを観戦所の近くに下ろすと、コーディが出迎えに出てきてくれる。コーディに頭を撫でられて嬉しそうにしたあと、二人は手を繋いで建物の中に入っていった。

「ふふっ……コーデリアちゃん、お母さんの顔になっちゃってる」

「師匠、あまりストレートに言わないようにな。あいつも恥ずかしがるから」

「一番恥ずかしがっている人が、ここにいるけれどね」

後ろに乗っているミラルカは、俺の肩につかまるようにしている。そのため、声が後頭部から響いてきて落ち着かない。

「じゃあ、私たちも降りようか。スフィアちゃんの晴れ舞台を見なきゃ」

「自分が人前で話すのはどうということはないのに、娘のことだと緊張するわね……きゃっ!」

「あっ……ご、ごめんなさい。もうちょっとゆっくり降りなきゃだよ」

師匠の命を受けて母竜が下降を始めるとき、縦揺れが生じてしまう――師匠は母竜の首を撫でて言い聞かせるが、ミラルカが驚いて体勢が崩れてしまった。

「大丈夫か? しっかり捕まってろよ」

「っ……せ、背中に神経を向けないで。あなたならそれくらいできるはずよ」

「背中……うわっ……!」

「だ、だから向けるなって言ってるでしょう! 殲滅するわよ!」

俺がいつも着ている黒の戦闘服、そしてコート――その上からでも、ミラルカの服の形状もあって、豊かな量感を持つ弾力が伝わってくる。

「ディ、ディー君、こんな時にぼーっとして、変なところ触っちゃだめだよ」

「い、いや、腰につかまってるだけで……」

「手の位置が危険よ、服をつまむだけにしなさい。ほら、もっと手を引いて……っ」

「ま、待てっ、腕を引っ張るな!」

「ちょ、ちょっとディー君、だめって言ってるのにっ、だ、だめじゃないけど今はっ……」

「だからもっと離れなさいって言ってるじゃない、エッチ! 変態ディック!」

ミラルカが後ろから身を乗り出してきてまで俺の手を師匠から離そうとするのだが――そんなことをすれば当然、俺の背中に胸が当たるというか、当たったままで暴れているというか、いわゆる暴君というかそんなことになっている。

着陸した火竜から先に降り、ミラルカと師匠の足を受け止めて下に降ろしてから、俺は深々と息を吐いた。

「……何を被害者みたいな顔をしてるのかしら」

「あ……私、ディー君のこういう顔に弱いの。ごめんねディー君、バランスが悪いからしっかりしがみついてくれたほうが良かったよね。次からは遠慮なくしがみついていいよ」

二人が気を使ってくれるが、俺は元の身体に戻って良かったなどとこのタイミングで言ってはならないので、感情をあえて押し隠していただけだった。

◆◇◆

皆が静粛にして待つ中で、スフィア、そしてジュリアスが観戦者の前に姿を現す。そして、ジュリアスはアシュトル、そして自分の家臣たちを見てから話し始めた。

「皆を動揺させてすまなかった。騎竜戦の情報をどこかで掴み、襲撃してきた者がいた……元はアルベインの冒険者だが、王国の管理を逃れ、個人で陰謀を巡らせている」

クラウス陛下の表情が険しくなる。冒険者の動向を把握することは王国の義務ではない、本来は冒険者ギルドがすべきことだ。しかしルガードがギルドを脱したあと、所属していたギルドは彼の行方を知らずに放置していた。

所属していたのは『紫の蠍亭』。暗殺依頼を専門に受けていたあのギルドは、最後はコーディによって活動を停止させられた。ルガードが残っていたなら、コーディと戦うことになったのだろうか――あるいは師匠を『悪』と見なして戦いを挑んでいたかもしれない。

奴は危険だが、紫の蠍亭や他のギルドに抑止できる存在ではない。俺たち魔王討伐隊しか、SSランクを超えようとしている奴は手に負えない。

「……アルベインが、その冒険者の行動に関与していないと。それを、信じろと……」

「っ……ヴェルレーヌ様!」

アシュトルが疑義を投げかけようとしたとき、ベアトリスが声を上げる。その場にいる全員が、姿を現したヴェルレーヌに視線を向けた。

――スフィアが言っていた通り、仮面を着けている。『仮面の救い手』として俺達が用いているものとは違い、魔王の姿をしたヴェルレーヌの妖艶さを際立たせるようなものだった。

「私も救援に行き、襲撃者を撃退するまでを見届けた。ジュリアスを救ったのは、アルベインの者たちだ。お前たちもよく知っている、魔王討伐隊が動いてくれたのだ」

「……魔王、討伐隊……何故、なのです。何故ヴェルレーヌ様は、敗れた相手を……我が国に攻め入った者たちを、認めるようなことを……」

アシュトルの質問に、ヴェルレーヌの眼光が鋭さを増す。俺たちを除いたアルベイン側の人間は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、身動き一つ取れなくなる。

――そう。俺たちがいないアルベインは、エルセインにとって脅威にならない。それを知らずにいた人々は、自分たちがずっと俺たちという『盾』の陰にいたことを自覚していた。

クラウス王もその威圧に気圧され、額に汗を流しながらも、ヴェルレーヌから目をそらさずにいる。

「私も、強い者が搾取することに、何の罪もないと思っていた。今でも、そう思っている部分はある……だが、魔王討伐隊は私を倒したとき、許容できる条件を出し、エルセインを今の形に留めてくれた。強い者に敗れれば、搾取されることが当然と思っていた私には……その情けの意味が、時を追うごとに疑問に感じられ始めた」

ヴェルレーヌが王都に来るまでの五年。その間、ヴェルレーヌが何を思っていたのか――何故、国を介して返還を求めることもできた護符を、単身で取りに来たのか。その本当の理由を、彼女は今始めて話している。

「私は彼らに敗れて五年、ずっと考え続けていた。獣に近い思考しか持たぬ一部の魔の者には、人を食らうなと教えることなどできぬと思っていた。しかし、違った……彼らは人を喰わずとも生きていくことができた。エルセインのオーガ、トロール、オークといった者たちは、今やエルフや、精霊の民と同じように、畑作や猟などをして生きている」

五年でそこまで変えることができたのは、ヴェルレーヌの施政が上手くいったこと、俺たちに敗れてもなお、彼女の求心力が高かったことの現れだろう。

「アルベインの民と、人と大きく姿の異なる魔の者たちが民同士で交流できるかといえば、急には難しいだろう。しかし、対話が一切できないということではない。国境を接しているのに対話ができなければ、些細な行き違いから戦になる。五年前は、そうだったのだ。しかし今は違う」

「……そう、聞いてはいるが。私たちは、まだ魔の者たちを、理解できぬ文化を持つ者と考えてきた。魔王討伐隊が風穴を開けてくれたというのに、私たちは壁を超えられなかった。それでは、魔王討伐隊に平和のすべてを依存しすぎている」

クラウス陛下がそれを口にするということは、アルベインという国自体の力ではなく、魔王討伐隊によってエルセインとの力関係が作られているという事実を認めることに他ならなかった。

「そう……それでは駄目だ。もっと大きな脅威があった時に、我々の国同士が再び争うようなことは決してあってはならない。魔王討伐隊は、その力を必要とされるところで使おうとしてくれている。両国の戦争のためではなく」

「……それが、ジュリアス陛下を守ることであったと……しかし、今回の襲撃者を撃退しただけで終わりではない。そのようにおっしゃるのですか」

アシュトル公爵の問いかけに答える代わりに、ヴェルレーヌはエルセインの客席の後ろに加わっていた、ダークエルフの女性を呼ぶ。

そう、メルメア――近衛騎士の鎧を脱ぎ、ヴェルレーヌが準備してきたものか、王族であると一目で伝わるような、高貴な身分の女性が着る礼服を身に着けた彼女は、両国から驚嘆の視線で出迎えられる。

「……改めて、お目にかかります。先程まで、エルセイン近衛騎士として騎竜戦のお手伝いをさせていただいておりました、メルメア=クリューネ=ラトクリスと申します」

「ラトクリス……我が国と分かれ、大陸南方に版図を得た魔族の国。その国の王女が、何故ここに……!?」

アシュトルは自覚がないのだろうが、彼が説明してくれたおかげで、この場にいる人物すべてが事情を飲み込みやすくなる。

「我が国は……アルベインを離れて国を出た冒険者によって、玉座を奪われました。このままでは、ラトクリス軍はアルベインに攻め入ることになります……ですがそれは、私たちの本意では決してありません」

「……魔王討伐隊も、アルベインの冒険者であるはず。彼らの影響を受け、魔族の国ならば攻めても良いと考えたのではないのか。ならば我らは誇りにかけても、やはり人間と戦わねば、自由を手に入れることなど……っ」

「お祖父様、それは違います。魔王討伐隊の皆さんは、ただ守ろうとしているだけです。多くの人の血を流すことを厭わない人たちが『勇者』だったなら、アルベインは今のような形ではなかったはずです……!」

ベアトリスの訴えに、アシュトル公爵は辛うじて平静を取り戻す。

――俺も、この場に居て見ている仲間たちも、アシュトル公爵以上に、燃えるような一つの感情を抱いている。

コーディなど、すぐにでもラトクリスに向かいたいという顔をしている。彼ほど正義というものを重んじている人間が、ラトクリスで行われているだろう暴虐を、一分一秒でも野放しにできるわけがない。

「……ベアトリス。公爵家の人間とはいえ、ここでの発言は控えなさい」

「いや。アシュトル殿、彼女の言うとおりだ。アルベインは魔王討伐隊に依存しすぎている、それを恥じる気持ちもあるが、不甲斐ない我らでも、魔王討伐隊の存在を、この国に生まれてくれたことを誇りに思っている。彼らと、ラトクリスを奪った者たちは違う。いずれにせよ、我が国はこれから、ラトクリス魔王国を救うために動くべきだが……」

「いえ、その必要はありません。軍を動かせば犠牲は大きくなります。ラトクリスの件については今しばらく、静観していただきたい。国民に動揺を与えないためにも」

コーディの進言に、クラウス陛下が頷く。それはアルベイン王国自体の意思決定を示していた。

「……我が国にできることは、可能な限りの助力をすること。騎竜戦に敗れた以上、前王ヴェルレーヌの行動に干渉することは、今後絶対にしない。貴国の出される条件を、受け入れたいと思う」

「ジュリアス王、我らが求めることは一つです。国交を一歩先に進め、互いに高め合い、強国として盤石を目指すこと。魔王討伐隊の意志に報いるには、我々は争いを無くすために強くならねばならない」

「全面的に同意させていただく。日を改め、アルベインに同盟を申し入れたい。休戦ではなく、友好国として、新しい関係を始めるために」

クラウス陛下、そしてジュリアスが席を立ち――二人は歩み寄り、握手をする。

それを見て最初に拍手を始めたのは、俺達の娘。その次が、俺たちで――一気に波及して、全員が拍手を始める。

ロウェ、プリミエール、そしてアシュトル。名前をまだ知らない人々も、すべての事情を飲み込み切れていないかもしれないが、近い将来の同盟成立への賛同を示す。

ヴェルレーヌとスフィアは一礼し、俺たちがいる控え室へと出てくる。そして仮面を外した二人は、俺を見て嬉しそうに笑った。

「ご主人様たちが見ていると思うと、緊張した……だが、心強かった。改めて礼を言う」

「お父さん、これからきっと、皆仲良くなれるよね」

「ああ……そうだな。立派だったぞ、スフィア。ヴェルレーヌもな」

「……何より、ご主人様にそう言ってもらえるのが安心する」

ヴェルレーヌは俺に近づくと、何も言わず、俺の胸に額を当てる。皆は少し驚いていたが、彼女のするがままにさせてくれていた。

エルセインへの帰国を条件にした騎竜戦、そして魔王として皆の前に久しぶりに立ったこと――いくらヴェルレーヌでも、心労は相当なものだっただろう。

「……お疲れ様。まだ大仕事が残ってるが、一度王都に帰ったらゆっくり休むといい」

「ああ……そうさせてもらう。店主の仕事をしていたほうが、落ち着きそうだがな」

顔を上げて言うヴェルレーヌの瞳は、わずかに潤んでいた。緊張が解けたのか、ジュリアスのことや、俺たちが無事だったことを安堵して、喜んでいるのか。

ヴェルレーヌの髪を撫でようと、手を動かそうとしたところで、皆の何か言いたそうな視線を受けて手を止める。俺が元の身体に戻れたこと、他の色々なこと――皆のしてくれたことに、いくら感謝してもし尽くせない。俺はラトクリスに発つ前のわずかな時間で、可能な限り彼女たちを労りたいと考えていた。