軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09.善人、崩落から二人を救出する

☆(sideサン)

「見てたんだ」

「ご、ごめんなさい……」

「ごめんなさーい」

シュンとなるアンジェ、あまり申し訳ないと思っていなさそうなサン。

そんなサンはアンジェを引っ張って、アレクのいる畑の場所から逃げ出した。

村の中を駆け抜ける二人の少女。

そのまま村を突っ切って、村はずれにやってきた。

「はあ……はあ……」

「あっ、ごめんなさいママ。大丈夫?」

「はあ……私は……大丈、夫。サンさんは?」

「私こそ大丈夫。パパに作ってもらった体だからすごく頑丈。だよ」

サンは腕を上げて、おどけた仕草でガッツポーズをした。

ホムンクルスにSSランクの魂。サンは多少走ったくらいで息をあげることはない。

「ごめんねママ……なんか飲み物を取ってくる?」

「ううん、大丈夫です……」

アンジェは胸をなで下ろし、深呼吸して、息を整えた。

それで落ち着いてアンジェに、サンが聞く。

「ねえ、パパっていつもああなの?」

「ああ、って?」

「あんなに格好いいの? って事」

「今日はそんなでも無いと思う。格好いいときのアレク様はすごく格好いいですから」

「それは見て見たい!」

村の外れ、小丘の上。

少女二人は、ガールズトークをはじめていた。

話題はアレクが中心、というよりアレクのみだ。

許嫁にして正室予定、子供の頃からずっと一緒に暮らしてきたアンジェに、サンはあれこれ聞く。

サンがアレクの事を気に入っているのは誰の目にも明らかで、アンジェももちろん感じた。

「あの……サンさん」

「なに?」

「今すぐでも、いいんですよ」

「何が?」

「子供を作ること、です」

サンは一瞬ビクッとなった。

アンジェリカ・シルヴァ、アレクの正室予定。

初めて子供はアンジェに、というのはアレクが常々口にしていること。

今はそのアレクが「時期尚早」としているが、アンジェが「今すぐ」といった。

アレクの子供に転生する予定のサンに協力する、という意味だ。

「アレク様のお子ですし、私は、いつでも……」

アンジェは頬を染めた。

その言葉に偽りはなかった。敬愛するアレクの子供ならいつでも、というのはアンジェの偽らざる本心だ。

それくらいアレクの事を思っているのだ。

「大丈夫」

「でも」

「待つのも我慢するのも慣れてる。だよ」

サンはにこりと笑う。

「本当に?」

「うん。だって急ぐ必要もないし。私SSランクだし、人間になるにはパパの所しかないからね」

にこり、とウインクして見せたサン。

「だから、今は気持ちだけもらうね。ありがとう、ママ」

「うん……」

アンジェは頷きつつも、もやっとしたままだった。

急ぐ必要はないのは多分その通りだけど、だけど今すぐじゃダメって理由もない。

それに、サンはさっきも言った。

(待つのと我慢……やっぱり我慢してるですよ……)

アレクからも聡明だと評されているアンジェがそれを聞き逃すはずもなく、彼女はサンの微妙な胸中を察していた。

だからといって、どうすることも出来ない。

アンジェは「いい子」だ。

アレクの許嫁としていい子でいなきゃという思いが強く、ずっとそうしてきた。

だから、はっきりとアレクのためになることならいざ知らず、それ以外の事で何かを主張するのは苦手だった。

「……」

だからそのモヤモヤ感を払拭できずにいた。

アンジェはコツン、と足元の小石を蹴っ飛ばした。

この行動も、アレクがいればびっくりしたところだろう。

ずっと「いい子」のアンジェが、モヤモヤ感からこんな行動に出るなんて、と。

彼女は無言でもう一度小石を蹴った。

それを見ていたサンは、一緒になって小石を蹴った。

しかし。

ごごごごごご。

サンが小石を外れて、地面を蹴った瞬間、村はずれの小さな丘が崩れた。

地滑りが起きて、二人のいるところが崩落していく。

SSランクにホムンクルスの肉体。

人間よりも、その辺にいる神よりも高いパワーを持つサンは、未だに自分の力を制御出来ない。

日常的な行動以外は「やってしまう」ことがよくある。

今もそうだ。

アンジェと一緒の何気ない行動に、丘を蹴り崩す程のパワーがあった。

滑り落ちていく二人、突然全身が浮遊感に包まれた。

崩落の範囲は大きく、即座に崖みたいなのが産まれて、二人は真っ逆さまになって落ちていく。

「きゃっ!」

「ママ!」

サンはとっさにアンジェの手を掴んだが、二人一緒に滑り落ちていくままだ。

「ごめん、投げるよママ」

「えええええ!? さ、サンさんは?」

「大丈夫、一瞬痛いだけ」

サンのその肉体はホムンクルスであって、本物の肉体ではない。

アレクが何回も変身テストをして実験したところ、ホムンクルスにいる時に倒されても「死」にはならないと判明している。

それをサンに伝えてもいる。

「我慢は得意だから」

そう言って、アンジェを上に放り投げようとした。

普通の人間であるアンジェを崖の上に投げて、肉体が粉々になっても大丈夫な自分はそのまま落下。

それがサンがこの一瞬で思い描いた最善策だった。

我慢は得意というのは嘘じゃない、まったくの強がりでもない。

それでも、彼女は一瞬だけ切なげな顔をした。

その直後。

「我慢ならもうさせない」

「えっ」

「あっ」

サンとアンジェ、二人の体から浮遊感がなくなった。

指先に血が集中していく程の浮遊感がピタッとやみ、空中に止まった。

それをしたのは、アレク。

飛行魔法で駆けつけて、二人と空中でキャッチしたアレクだ。

「アレク様、ありがとうございます!」

「うん、大丈夫かいアンジェ」

「はい! 全然大丈夫です」

「よかった。サンは?」

「……」

「サン?」

アレクは訝しげな顔でサンの顔をのぞき込んだ。

サンは無言でアレクにしがみついた。

「……」

アレクもまた無言で、ゆっくりと飛んで、二人を確実に安全な場所につれていき、ゆっくりと着地した。

「あっ……」

着地するするなりサンは逃げ出した。

「どうしたんだろう」

「私が行きます」

アンジェはそう言い、アレクが呼びとめる前に走り出し、サンの後を追いかけた。

小丘の反対側、崩落していない林の中で、アンジェはサンに追いついた。

「サンさん、大丈夫ですか?」

「……」

振り向くサン、その顔は上気していた。

アンジェを引っ張って村をつっきっても大丈夫だったサンが、顔を赤らめている。

その理由を、アンジェはピーンときた。

当たり前の事だ。

あのシチュエーション、相手がアレク。

女の子ならそうならない方がおかしい、とアンジェは思った。

そんなアンジェに、サンはおずおずと、さっきよりもちょっとしおらしい口調で言う。

「あのね……まま」

「はい?」

「ゆっくりでいいから」

「ゆっくり?」

「うん、ゆっくり。むしろゆっくりで」

顔を赤らめ、恥じらうサン。

「ゆっくり、 待ちたい(、、、、) から」

そう話すサンに、アンジェは無言で、しかしにっこり。

その手を取って、握り締めたのだった。