軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01.善人、断崖絶壁に蓋をする

帝都の近くにある魔法学校。

折り入ってのご相談がある、って言われた私は、校長室で校長のイーサンと向き合って座っていた。

「相談って何?」

「実は、ビーレ魔法学校の連絡が途絶えたのです」

「ビーレ魔法学校?」

「はい、ここと同じ、帝国が持っているいくつかの魔法学校の一つで、人里から離れて、特に召喚術を重点に研究・学習している所です」

「なるほど……いざって時に独立愚連隊独立連隊になる様にしてあるところ?」

イーサンは静かにうなずいた。

この魔法学校は普段は普通の学校だが、なにかあった時は帝国の最後の砦として機能するように作られている。

反乱とか戦争とかに負けた時に、皇帝が逃げ込んで再起を図る、文字通り最後の砦だ。

それを知った私は、エリザと個人的に関わり合いを持っている事もあって。

いざって時もっとすんなり逃げ込めるように、エリザがここに瞬間移動…

文字通りの瞬間移動、テレポートして来られるような仕組みを作った。

そんなここと同じように、他にも魔法学校と言う名の最後の砦がある。

いや、違うな。

魔法学校全てが大なり小なりそういう役割の為に作られてる、のかもしれない。

イーサンが話に持ち上がってきたそこは、「人里離れた所」という言葉から判断するに、いざって時には外側でかき回す役目なんだろう。

メインに逃げ込んだここだけじゃ当てのない籠城になるので、外から救援がないとどうしようもない。

なるほどね……。

「そのビーレ魔法学校の連絡が途絶えたと言うんだね」

「ええ、あそこの性質上、連絡は何があっても出来るようになっているのですが」

私は小さく頷いた。それはものすごく大事なことだ。

「なのに連絡が途絶えた、ありえない事だ、ってことだね」

「はい……そこで恐縮なのですが、副帝殿下に様子を見てきていただけないかと。副帝殿下にこんなことを頼むのは不敬なのは重々承知しているのですが、かなり深刻な事態が予想されますので……」

言いよどむイーサン。

頼りにされてるのは分かる。それに悪い気はしない。

「いいよ、行ってくる」

「本当ですか!」

「うん」

小さく頷く私。

ビーレ魔法学校。

何事もなければいいんだけど。

ビーレ魔法学校に向かう、私の魔法で自動操縦している馬車の中。

私はシャオメイ・メイと向き合って座っていた。

魔法学校の生徒であるシャオメイ。

私の周りにいる少女達と同じように、彼女も順調に成長している。

長い黒髪がより一層美しくなり、体に内包している魔力はかなりのものだ。

生命力と魔法力は肉体にかなり直接な影響を及ぼす。

魔力の強いものは不老不死とまでは行かないが、いつまでも若々しく見えるものだ。

そんな力に満ちあふれた肉体とは裏腹に、生来の性格で自信なさげにおどおどしているシャオメイ。

そのアンバランスさも彼女の魅力の一つ、と何となく思った。

「あの……アレクサンダー様」

「うん、なんだい?」

「そのメガネは……?」

「これか」

私はぐい、とかけているメガネを指でたくし上げた。

度数は入ってないが、そのかわり魔法効果があるメガネだ。

「これは人の前世を見るためのメガネだよ。ある意味だけどね」

「人の前世……ですか?」

「生まれ変わる時に生涯の出来事を審査して、ランク付けした後に転生するって話は知ってるね?」

「はい、常識です」

内気なシャオメイが即答で言い切るくらい、それは世の中の常識だ。

前世の記憶を持っている私だけではなく、世の中の大半の人がそれを知っている。

それを確認する方法はないかと賢者の剣に聞いて、教えてもらった知識で作ったのがこのメガネだ。

「この眼鏡はその人の魂のランクを見ることが出来るメガネなんだ、魂のランクつまり前世の行いが分かるってことさ。作ったばかりでこれをかけては色々見てるんだ」

「作った……さすがアレクサンダー様です」

一呼吸の間をおいて、シャオメイが控えめに聞いてきた。

「アレクサンダー様、私は……どうなんですか?」

「シャオメイはAランクだね」

「A……ランク、ですか?」

小首を傾げ、いまいちよく分からないって顔をする。

そうか、ランクで言われてもわからないか。

私やアザゼルのような一部の例外をのぞけば、あの世の査定の後すぐに記憶を抹消させられて生まれ変わるから、ランクシステムなんてそもそも知らないんだ。

「すごくいいって事だよ。シャオメイはきっと前世でいっぱいいい事したんだと思う」

「あ、ありがとうございます」

「僕にお礼をいう事じゃないけどね。前世のシャオメイがすごかったんだから」

ある程度は想像ついてたが、この眼鏡の効果でよりはっきりと確信した。

見た目が美しく――間違いなく美人になることが確約されている。

その上永久凍結の魔法を一瞬で覚えて、氷の魔法にたぐいまれなる才能を持つシャオメイは、Aランクでの転生者だ。

ちなみにこれでピーちゃんを見たらSランクと、あの時の空耳通りの結果だった。

「すごいメガネなんですね」

「これでいろんな人を見ると楽しいよ。やっぱり貴族とかお金持ちとか、そういう人はランクが高いんだ。いい人は生まれ変わった時に報われる、当たり前だよね」

「はい……あっ」

「今度はどうしたんだい?」

「数百年前にあった『銀の災厄』を思い出しました」

「あの人類が一割も死んでしまった歴史的大事件の事? それがどうしたの?」

「あれから人類を救った人、アレクサンダー様の前世なのではないでしょうか」

「なるほど。でも残念、それは僕じゃないよ」

「え? どうして知ってるんですか?」

つい否定してしまったが、ちょっとうかつだった。

私は前世の記憶があり、災厄から人類を救ったのは私じゃないと知っている。

前世の私はジャンティ・カインドという、ただの一般人だ。

この眼鏡でいろんな人を見てきて、その経験から前世の私の魂――つまり前々世はせいぜいCランクの行いしかしてない事もしってる。

『銀の厄災』という、人類が8割死滅する大災害を一割で食い止めた英雄では決してない事を知ってる。

それらの事を知ってるというか確信しているんだけど、それはシャオメイには言えないので。

「あの時の英雄は間違いなく神様になってると思うよ」

「あっ、そうですね。そうですよね」

善行を積んだ先には神になって永遠の命が得られる、というのも割と知られている事なので、シャオメイは納得した。

したが、

「それなら、アレクサンダー様は生まれ変わったら絶対神様になりますね」

「あはは」

持ち上げてくるシャオメイの言葉に微苦笑した。

実際神になれるSSSランクだっただけに、あながち的外れでもなかった。

自動馬車に揺られて丸一日、私たちは目的地にやってきた。

馬車から降りる私とシャオメイ。

二人の目の前にあるのは。

「ここなんですかアレクサンダー様」

「うん」

「でも……崖、いえ谷しかありません」

シャオメイの言うとおり、私たちの前に広がっているのは底の見えない、途中で雲すら見えてしまう深い谷だった。

「結界だよ」

「結界?」

「うん」

頷く私、手をかざして魔法陣を出す。

赤青黄色の三色の魔法陣が次々に現われては、一色だけ残して他は消えて、その後また三色になって、一色を残して他が消える。

それを繰り返した。

それを見て、シャオメイは不思議そうな顔をした。

「ここの結界をとく暗号だよ。これが最後――ほら」

三者択一の正解を十回繰り返した後、目の前の光景が変わった。

深い崖と谷底があるのは変わらないが、まん中にぽつんとある陸の孤島のようなのが現われた。

孤島に見えるが、実際は谷底から伸びてくるきわめて垂直に近い岩山だ。

その陸の孤島と岸のこっち側とは吊り橋一本だけで繋がっていて、魔法による結界だけじゃなくて、物理的にも外界から断絶、隔離した作りだ。

島の広さは直径一キロくらいの円形で、その外側をぐるりと崖で囲んでいる。

崖から島まで直線で百メートル、下は見えない。

完全に天然の要塞だ。

「わあ……こうなってるのですね」

「さあ、行こうか」

「えと、はい……」

シャオメイと一緒に吊り橋を渡ろうとするが。

「……」

「どうしたのシャオメイ」

「い、いえ、なんでも……うぅ……」

シャオメイは吊り橋の前に立ち止まって、もじもじして前に踏み出せなかった。

さすがにピーンときた。

「怖いの?」

「……すみません、高いところが」

「そっか」

私は少し考えて、背中に背負っている賢者の剣を抜いた。

ヒヒイロカネ製の賢者の剣は、剣としてだけじゃなくて、魔法の杖としての性能も高い。

それを地面に突き立てて、両手を柄の上に重ねる。

魔力を通して増幅して、魔法を使う。

瞬間、周りが凍った。

陸の孤島になってるビーレ魔法学校、その周りを崖まで全て凍らせた。

直径一キロ以上の円だが、シャオメイを安心させるために一気に全部凍らせた。

「これでもう大丈夫、全部塞いだから落ちる心配はないよ」

「こ、これは……氷の魔法……?」

「うん、例の永久凍結の魔法だね」

「えええっ!?」

きょとんとするシャオメイ。

「え、永久凍結って……この範囲を一瞬でですか……?」

口があんぐりと開き、信じられないって顔をする。

「うん。永久凍結はシャオメイも使うから硬さ分かるよね。これなら安心して通れるよ」

「はい……私じゃ一直線に向こうに届くかも分からないのに……、こんなに……」

ぶつぶつつぶやくシャオメイを連れて、ついでに凍った橋を渡って、目的地で孤島のビーレ魔法学校に入った。