軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07.善人、完全不滅のドレスを作る

瞬間移動魔法で、ミアベーラを連れてカーライルの屋敷に戻ってきた。

着地した屋敷の庭では、アンジェが日課にしてる治癒魔法の練習をしていた。

私に気づいて、アンジェは嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お帰りなさいアレク様!」

「ただいま、アンジェ」

「そちらはお客様ですか――ふぇえ!」

私の背中で、立ち位置的に半分隠れていたミアベーラの顔をはっきり見た途端、アンジェは素っ頓狂な声を上げてしまった。

「どうしたのアンジェ」

「すごい綺麗な人です! すごい綺麗な人です! すごい綺麗な人ですよアレク様」

三回も言っちゃう程か。

「もしかしてどこかのお姫様ですか?」

「ミアベーラだ、今日から一緒に暮らす事になった」

「神よ」

背後からミアベーラが私に呼びかけた。

振り向く。しずしずと佇む彼女は、アンジェが三回繰り返すのも分かる位ものすごく綺麗で、ものすごく上品な感じだった。

着ている服も、私と一緒に来ると決まった後に着替えた物で、仕立てのいい上品なドレス。

アンジェの言うとおり、どこぞの王女に見える格好だ。

そんな彼女は上品な、しかし意志の強い眼差しで私を見る。

「私の事は、どうかミアと」

「じゃあ僕の事もアレクって呼んで」

「それは神に対する冒涜――」

「そうじゃないと僕もミアベーラさんって呼ぶよ? 僕より年上なんだからさん付けが普通だよね」

彼女の言葉を遮りながら、にこりと微笑む。

しばしの逡巡、やがて。

「分かりました。アレク……様、でいいでしょうか」

「うん、ありがとうミア」

「はわぁ……やっぱり綺麗です、すごく……」

アンジェはほわあ、とため息交じりに言った。

血の継承ミア、その美しさは同性さえも見とれさせるほどのものだ。

「僕が神様って呼ばれた事には驚かないんだ」

「え? だってアレク様が神様って呼ばれるくらいすごい事をするのはいつもの事だし」

「そんなにいつもの事かなぁ」

「それに」

「それに?」

「アレク様って本当は、人間を助ける為に生まれ変わった神様なんじゃないかっていつも思うんです。だから神様って呼ばれても全然おかしくないですよ」

「父上達に染まってきたねアンジェ」

微苦笑する。

私はSSSランクの生まれ変わり。神様というのも、当らずとも遠からずって所かもしれない。

「さて、こんな所にいるのもなんだし、屋敷の中に入ろう。みんなにミアを紹介しなきゃだし、部屋も用意してあげないとね」

「私! アメリアさんに知らせてきます!」

アンジェはそう言って、パタパタと屋敷の中に駆け込んでいった。

「僕たちもいこうか」

「はい」

上品な仕草のまま頷くミア。

まるで貴婦人の様で、あるいはアンジェが最初に言ったどこぞの王女に思える振る舞いで、私についてきた。

屋敷のリビング、背筋をピンと伸ばして、ソファーに座るミア。

それと向き合う私、そして私の隣にいるアンジェ。

「残念です、お父様もお母様も出かけてしまってました……」

「しょうがないよ。ミアの紹介はまだ後日でいいさ」

コンコン、とドアがノックされた。

応じると、メイドのアメリアが台車を押して部屋に入って来た。

台車の上には紅茶とケーキのセットが、三人分用意されている。

「――ッ!」

ビクン! とミアが一瞬震えた様に見えた。

何事かと思えば、彼女は相変わらず背筋をピンと伸ばしたままだが、視線はアメリアが押してる台車に釘付けになってる。

もっと正しく言えば、台車の上のケーキを食い入るように見つめていた。

アメリアが紅茶とケーキを私たち三人に配り終えて、退室する。

その間、ミアはずっとケーキをチラチラと、 見てない風(、、、、、) でガン見した。

「ケーキが好きなのかい?」

「い、いえ! そんな事はありません」

「あるよね。ね、アンジェ」

「うん」

アンジェは無邪気に微笑んで、頷いた。

「いえ、本当にそのようなことは――」

「だったら、口元のよだれはちゃんと拭いといた方がいいね」

「――ッ!」

ミアはハッとして、慌てて袖で口を拭いた。

「あっ!」

よだれをごしごし拭いてから、今度は拭くのに使った自分の袖をガン見した。

ちょっとだけくしゃくしゃになって、べったりとよだれがついてる袖口。

彼女がそれまでしてた「上品」な振る舞いからかけ離れたものだった。

「もしかして……」

「そんな事ないです!」

「僕はまだ何もいってないよ」

「――はぅ!」

先走ったミア、綺麗な顔が真っ赤に染め上がってしまう。

私は改めて、にこりと微笑んだまま、彼女に聞く。

「今までのって、よそ行きの姿?」

「そ、それは……はぅ……」

答えに迷うミア。

空気がすっかり崩れていた。

さっきまでのお上品な空気が跡形もなく消えてなくなって、今そこにいるのはあわあわしている年相応の女の子だった。

そんな彼女があわあわして、答えようとした瞬間。

リビングの中がいきなり暗くなった。

何事かと思って窓の方を見ると、カラミティの巨体――いや顔がみえた。

カラミティの顔が完全に窓を覆って、それで部屋の中が暗くなったのだ。

「どうしたのカラ――」

「危ないアレク様!」

私の問いかけよりも先にミアが動いた。

彼女はケーキと一緒においてあるナイフをひったくって、そのままカラミティに飛びついた。

ものすごいバネ、そして躊躇のない思いっきりの良さ。

ミアは、ナイフ一本でカラミティに挑んだ。

当然、カラミティにかなうはずもない。

帝国の守護竜、空の王カラミティ。

14歳の少女がナイフ一本でどうこう出来る相手じゃない。

カラミティがフン! と軽く鼻息を吹きかけただけで、ミアは突風に吹き飛ばされてしまう。

吹っ飛ばされて、すっころがって行くミア。

すぐにパッと飛び上がるが、服があっちこっち破けて、手足や顔もあっちこっちに擦り傷を作っていた。

それでも。

「食い止めます、アレク様は今の内に!」

どうやらカラミティを敵だと認識して、身を挺して私をにがそうとしてるみたいだ。

「大丈夫だよミア」

「……え?」

「アンジェ、ミアに治癒魔法を」

「はい! 動かないで下さいねミアさん」

アンジェがバタバタとかけよって治癒魔法を掛ける。

その一方で私はスタスタと、二人が割った窓に近づき、手を出してカラミティの顔を撫でた。

凶悪に見えるドラゴン、それを撫でる私の姿に、ミアはきょとんとした。

「カラミティは僕の仲間だから」

「否、私は主のしもべである」

「あはは、そうだね。ということだから、敵視しなくても大丈夫だよ」

「……こ、こんな巨大な竜を従えているというの?」

唖然とするミア。

「それよりも……格好がボロボロになっちゃったね」

「はぅ! も、申し訳ない。うぅ……またやってしまった……」

「また?」

どういう事だ? って顔をしてミアを見る。

その視線に気づいたミアは、申し訳なさそうにうつむきながら。

「アレク様のお察しの通り、さっきまでのは 作ってた(、、、、) んです」

「うん、そうだよね」

「私……一族の『血』を受け継いでるから、ちゃんと美しくしてないとだめなんだけど、気を抜くと……」

「つい体が動いてしまうんだね」

「はい……」

「それにケーキも」

「あ、あれは! ……だって、すごく美味しそうだから……」

パッと顔を上げて、しかし尻すぼみに消えて行くミアの反論。

『血の継承』でおすましのミアも綺麗だが、今の彼女も可愛く見えた。

「ちゃんと綺麗にしてなきゃいけないんです。ドレスを着てると少しは我慢出来ますから……」

「なるほど、だからわざわざ着替えてからついてきたんだね」

「うん……でも……」

ミアは視線を落として自分の格好を見る。

それを見て、しょんぼりとしてしまう。

「ボロボロにしちゃった……」

「ふむ……、じゃあ僕がドレスをプレゼントしてあげるよ」

「えええ!? そ、そんなの悪いよ」

「ちょっと待ってね」

私はそう言って、ミアやアンジェ達をおいて、飛行魔法で破れた窓から飛び出した。

約10分、戻ってきた私の手には白いドレスがあった。

白を基調にした、プリンセスドレス。

状況が飲み込めなくて、ポカーンとなったままのミアに手渡した。

「はい、どうぞ。多分ミアがイメージしてる『綺麗』にあうドレスだよ」

「ありがとう……本当に綺麗……」

「ミアの美しさに負けないドレスを作るのにちょっと手間取っちゃった」

「つ、作ったんですか?」

「うん、せっかくだから着てみて。アンジェ、手伝ってあげて」

「はい! ミアさん、いきましょう!」

「え? あのちょっと待ってください――はぅ!」

アンジェは持ち前の天真爛漫さを発揮して、ドレスを持って戸惑うミアを引っ張っていった。

ソファーに座り直して、ついでに魔法で窓を直して、二人を待った。

しばらくして。

「おお……」

戻ってきたミアに、私は感嘆の声を漏らした。

「ど、どうでしょうか」

ドレス姿になったから、ミアはまたおすましモードになってた。

『血の継承』、おすまし、それに一番似合うように作ったドレス。

プラス効果の三倍乗で、ミアはものすごく美しくなった。

「綺麗ですよねアレク様」

「うん、アンジェもそう思うかい」

「はい! はわぁ……」

顔に手を当ててほう、と息を吐くアンジェ。

同性であるアンジェさえも見とれるほどの美しさ。

ミアは、生まれつき王女であったかのようなたたずまいで、静かに私に頭を下げた。

「ありがとうございますアレク様。このドレス、大事にさせて頂きますわ。決して汚したり破いたりしません」

ミアの決意表明だった。

服を大事にするのと、ちゃんとお淑やかにするという、二重の意味での決意表明。

「あっ、それなら大丈夫」

「え?」

「それ、汚れたり破れたりしないように作ってるから」

「……え?」

何を言ってるのかわからないって顔、目を丸くするミア。

私はティーカップを持って彼女に近づき、紅茶でドレスを汚した。

ついでに手を伸ばして、裾を少しビリリ、と引き裂いた。

「はぅ! な、何をなさるのですかアレク様」

「見てて」

私がそう言った直後、ドレスに変化が起きた。

紅茶で汚したところもビリリと裂いた所も元に戻った。

まるで、何事もなかったかのように。

「こ、これは?」

「自己修復。そういう風に作った。灰の一欠片でも残ってれば元通りに修復されるから、動きたい時、動かなきゃいけない時は遠慮無く動いていいよ」

「灰の一欠片でも?」

「うん。動かないでね」

私は目をしっかり閉じてから、ミアに炎の魔法を掛けた。

ドレスをほとんど灰になるまで燃やし尽くす。

目を閉じたまま、しばし待つ。

「わあ! 本当にドレスが元に戻った」

「何もない所から完全に……すごい……」

ミアとアンジェ、二人の反応を聞いてから目を開ける。

アンジェはニコニコと「すごーい」って顔をしていた。

ミアはまだ「すごい……」と、あっけにとられたままだった。