軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02.善人、飛び級しそうになる

「アレク様! あの鳥歌ってます!」

ものすごく栄えていて、華やかさと乱雑さが同時に存在している街。

そこで6歳の私とアンジェが普通に出歩けるのは、ここが父上が統治しているモレクという街で、私の顔が知られているから。

広い意味での「うちの庭」のような所で、散歩をする私とアンジェ。

アンジェが注目したのは一軒の店、軒先に無数の鳥籠をぶら下げてる鳥屋だ。

「あれはミミックバードだね」

「どういう物なんですか!」

「アンジェは好奇心旺盛だね。何かを聞くときはいつもそうやって目をキラキラさせてるね」

「はい!」

指摘すると、アンジェは天真爛漫そのもの笑顔で頷いた。

「アレク様が説明してくれるの、好きです!」

「僕の説明が?」

「はい!」

私は少し苦笑いした。

好奇心で色々聞いてくるのかと思っていたけど、それが違ったことに苦笑いだ。

とはいえ、知識に繋がるきっかけなんてなんでもいいのは間違いないので、アンジェに説明してあげる事にした。

「せっかくだから、実物を交えて説明しよう」

「はい!」

アンジェを連れて店に入る。

店の中は風流な大人ばかりだった。

鳥、特にミミックバードを飼うのが「雅」な事とされてて、最近の流行だ。

そんな大人たちの中に足を踏み入れた6歳の私たち。

「いらっしゃいませ――おお! これはこれはアレクサンダー様」

「アレクでいいよ。僕の事を知ってるの?」

「もちろんですとも。そちらは奥様のアンジェリカ様でいらっしゃいますね」

「まだ許嫁だよ。ちゃんと奥さんになってくれるようにいいところを見せたいんだ。色々見せてもらってもいい?」

「もちろんですとも。ささささ、こちらへどうぞ」

店の人は僕たちを奥へと案内した。

途中で何人もの人に話しかけられた。

生まれ変わって子どもになった私は、マスコット的な好かれ方をしてて、街に出るとこうして色々と声を掛けられる。

一人ずつ丁寧にやりとりをしてから、案内された一番奥の席にアンジェリカと一緒に座った。

「いらっしゃいませアレク様」

座った瞬間別の人が出てきた。

格好的にこの店の店主みたいだ。

「当店へお越し頂きありがとうございます。本日はどのようなご用命で」

「アンジェはミミックバードをはじめて見るらしい、説明してあげるって約束だから、素直な子を持ってきて」

「かしこまりました」

店主は私に一礼して、直後にアンジェにもっと恭しく一礼してから、鳥をとりに行くためにいったん離れた。

「あの、アレク様。今の人、どうして私にアレク様より礼儀正しかったの?」

「僕がアンジェを大事にしてるからだよ。僕よりもアンジェを丁重に扱った方が喜ばれるって分かってるからね、こういう所の人は」

「ほわ……」

「違う場合もあるよ。例えば僕がアンジェに格好いいところを見せたいと言ったら――」

「アレク様はいつでも格好いいです!」

アンジェは私の台詞を食い気味で遮ってきた。

「ありがとう。それをもっと見せたいときだって気づいたら、アンジェよりも僕に恭しく振る舞うんだ」

「ケースバイケース、なんですね」

「賢いな、アンジェは」

手を伸ばして、アンジェの頭を撫でた。

私は聖水を飲まず、前世の記憶を持ったまま生まれたけど、アンジェは普通の6歳の女の子だ。

時折ふと見せる聡明な一面は、将来を大いに楽しみにさせるものだ。

しばらくして、店主が籠ごと鳥を持ってきた。

「お待たせいたしました。先日入荷いたしました、成鳥したばかりのまだ若い仔です」

「ありがとう。普段通りでいいのかな」

「もちろんでございます」

「うん。じゃあアンジェ、この子の前で何か歌って見せて」

「ええ!? わ、私がですか」

「もちろんだ。僕にアンジェの綺麗な歌声を聞かせて」

「わ、わかりました」

アンジェは恥じらいながら、おずおずと歌って見せた。

よく聞く童謡だが、アンジェが歌うのを聞くと気持ちがほんわかとなる。

「お、終わりました」

「いい歌だったよ」

「うぅ……恥ずかしいです。でもアレク様、どうして私が歌うんですか」

「それはね……」

私は鳥籠に入っているミミックバードに目を向けた。

鳥と目が合う、まだ子どもっぽさ――というより子どもそのものの手を出して、サインを送った。

売り物になっているミミックバードが必ず仕込まれているコマンドだ。

それを送った途端、ミミックバードが歌い出した。

澄み切った綺麗な歌声、アンジェの声そのままの歌声だ。

「これ……私?」

「うん。アンジェの歌だよ。ミミックは真似をするっていう意味。モンスターのミミックがあるだろ? あれは宝箱の真似をしたモンスターって意味だよ。このミミックバードは、聞いた人の歌を真似る鳥なんだ」

「そうだったんですね!」

アンジェは目をキラキラさせた、私の説明を聞くのが好き、というさっきの自己宣告そのままの反応だ。

「うん、アンジェの歌声はやっぱりすごく綺麗だ。そう思うよね」

「さようでございます。これほどの方が許嫁とは、アレク様が羨ましい限りでございます」

「そんな……」

アンジェは頬をそめてうつむいた、まんざらじゃないって顔だ。

「せっかくだからこの鳥をもらっていこう。アンジェ、今度はこの子とユニゾンで歌う所を見せてくれないかな」

「うん! アレク様の為に頑張ります」

「それじゃ――」

私は懐から一枚の紙を取り出した。

我がカーライル家の紋章が入った羊皮紙だ。

そこに日付と、ミミックバードを購入するという事実と、私のサイン――アレクサンダー・カーライルの署名を入れる。

貴族はこうして買い物をする、店の人はこれを持って、屋敷まで代金をもらいにいくわけだ。

私はカーライル公爵家の長男だから、もちろん口約束だけでも出来る。だけど私は全てにこうやって証文を残すようにしている。

書いたそれを内容が間違ってないことを確認してから、店主に手渡す。

「……ううむ」

「どうかしたの? なにか不備があった?」

「いいえ、アレク様の達筆さに感動してしまいまして。失礼ですが6歳の方の字とは思えません。ご当主様の直筆公文書と言われてもおかしくはありません。さすがアレクサンダー様だと感服いたしました」

「ありがとう」

ふと、真横から視線を感じた。

アンジェが嬉しそうな、それでいて誇らしげな顔をしている。

賢いとは言っても、やっぱりまだまだ6歳だ。

さっき言った、場合によっては私を持ち上げるケースもあるということを既に忘れている。

まあ、それも可愛いのだけど。

私はミミックバードを受け取って、アンジェと一緒に店を出た。

☆ カーライル屋敷 当主執務室 ☆

「むむむむむ」

「どうしたのあなた」

「おおお前か。アレクは戻ってきたのか?」

「どうかなさいまして?」

「いやレイモンド伯に返事の手紙を書かなければならないのだ。レイモンド伯は大事な相手だ、既に私より遥かに字が上手いアレクに書いてもらおうと思ってな」

「そうでしたの」

「ああ、早くアレクに当主の座を譲りたい。アレクなら我がカーライル家を更に拡大してくれるに違いない」

「いけませんわあなた。あと十、いえ二十年は我慢して下さい。ダメな父親としてアレクに失望されたいんですの?」

「うぐっ! それはダメだ。むむむむむ……頑張るしかないか」

「ええ、がんばってくださいませ」

「よし、ならアレクが戻ってくるまで文面を考えておくか」

「そうなさいませ」