軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.善人、初めてのキスをする

アンジェとの結婚式当日。

空は雲一つ無い、晴れ渡った絶好の結婚式日和になった。

まるで天に祝福されるかのような天気(後で話したらエリザに鼻で笑われたけど)の中、式が始まった。

式典の中、表向きで一番重要なパレード。

そのパレードのスタート地点は、当初の予定を遥かに超えて、アヴァロンの郊外になった。

帝国の各地、そして近隣の属国からも大勢の民がアヴァロンに押し寄せてきて、沿道は山のような人だかりで埋めつくされた。

「見ろよ、あの馬車? 馬が引いてないぞ」

「人も押してないし、どういう仕組みなんだ?」

私とアンジェは巨大な「車」に乗っていた。

皇帝の神輿に準ずる大きさで作ったそれは、縦と横それぞれ五メートルある広いものだ。

それに巨大な車輪をつけているから「車」だが、馬も人も使っていない。

私の魔力で、安定した速度で自走している。

プライベートでも使っている自動馬車の魔法をこれに応用したのだ。

その車の前後を、メイド達総出で儀仗兵を務めてくれている。

私に付き従っている令嬢メイドの皆なら見栄えもするし、万が一の時の戦力にもなる。

そんな布陣で、パレードを進んでいく。

車の上から、沿道の民に笑顔で手を振り続ける私とアンジェ。

私に向けられてくる視線はいつものものだから気にならなかったが、アンジェに向けられるそれは、羨望と憧憬の入り交じったものだ。

「みんな、アンジェの事を羨ましがってるね、それに憧れてもいる」

私は小声で、アンジェの耳元でささやいた。

沿道の大歓声にかき消されないように、声の方向をピンポイントに絞る魔法を忘れずに使っている。

そのため、本来は耳元で叫んでも聞き取れないような大歓声の中でも、ささやきだけでアンジェに届いた。

「そうなんですか?」

ウェディングドレス姿のアンジェは思いっきり驚いた。

「うん。ほら、若い子達なんか、すっごくうっとりした顔でアンジェを見てる」

「そうですね……」

「うん、よかった」

「よかった、ですか?」

「色々頑張った甲斐があったよ。今日のアンジェは世界一、ううん、歴史上で一番綺麗な花嫁だよ」

「アレク様……」

アンジェは嬉しそうに、それでいて恥ずかしそうにうつむいてしまった。

「あはは、ごめんアンジェ。ほら顔をあげて、もっと 今のアンジェ(最高の花嫁) をみんなに見せて」

「――はい!」

アンジェは顔を上げて、ますます、華やかな笑顔で民に手を振った。

大歓声の中、パレードは進み、アヴァロンの街中に入った。

歓声はますます大きくなった。

郊外の沿道では両横に並んでいるだけだったのが、街中に入ると道の両横だけじゃなく、建物の二階から、屋上に上っている人達もいた。

平面だったのが立体になって、どこを見ても人、人、人って感じになった。

そんななか車は更に進み、ゴールがようやく見えてきた。

ユーノーの神像が設置されている舞台だ。

そこにたどりつくと、私は立ち上がり、アンジェに手を差し伸べた。

花嫁のアンジェは私の手をとって立ち上がる。

二人で並びたって歩き出す。

車の上を歩いて進み、段差がないように作った舞台に上がった。

そのまま二人で神像の前に進み、再び振り向いて、民に手を振る。

徐々に大きくなっていく歓声の中、二人で神像に向き直る。

その時だった。

空が黒めく。

雲一つ無い青空、太陽もたかく掲げられている。

そんな状況だというのに、空が一瞬だけ黒めいた。

次の瞬間、空から何かが降りてきた。

それは神像の前に降りたって、やがて人の形となった。

一呼吸遅れて、歓声が爆発的に大きくなった。

この日一番の歓声だ。

結婚を司る女神、ユーノー。

数万人に見守られている中、彼女は私達の前に降臨した。

「ここまで大ごとって聞いてない」

ユーノーは若干ジト目で私を睨んだ。

「ごめんなさい、僕も予想外なんだ」

「貸し、大きいからね」

ユーノーはそう言って、すぅ、と体が透けていった。

徐々にすけて消えていくユーノー、それが完全に消えたのと同時に、彼女が立っていた所から光が溢れ出し、その光は一直線にアンジェを包んだ。

女神の降臨、そして加護。

さっきのがこの日一番だと思っていたが、まだまだ先があったようだ。

歓声が更に大きくなる。

「ひゃっ」

アンジェが立っていられないほど、私が支えてなきゃいけない程。

歓声は大きくなった。

夜、 私達(、、) の家。

仕事に使う屋敷とは違って、プライベートにだけ使う、本当の意味の「家」。

そこのアンジェの部屋で、私はアンジェと二人っきりになった。

二人でベッドの上に上がっている。

ここにいても賑やかな声が聞こえてくる。

副帝・アレクサンダー・カーライルの結婚式は一日では終わらない、お祭り騒ぎは一ヶ月近く続く。

今も、「祭り」で盛り上がっているのが聞こえてくる。

悪くないBGMだが、私は二本指を伸ばして、遮音魔法を部屋全体にかけた。

音が遮られて、アンジェと私の、二人の息づかいだけが聞こえるようになった。

「お疲れ様ですアレク様」

「アンジェこそ、疲れたよね」

「全然大丈夫です! アレク様との結婚式、すごく嬉しく全然疲れてなんていません」

「そっか」

私はアンジェを見つめた、アンジェも私を見つめ返した。

二人はしばし見つめあって。

「キスしても、いい?」

「はい」

愛くるしい笑顔のまま頷き、アンジェはそっと目を閉じた。

そんなアンジェの肩に手を置いて、彼女の唇にそっと口づけした。

幼なじみで、許嫁で。

長年ずっと一緒にいて、それこそ同じベッドで寝起きを共にしてきたが。

これが、アンジェとの初めてのキスだった。

アンジェとの初キスはどんな味なんだろうか、なんて思ったのだが。

「え?」

状況は、私が想像だにしないものだった。

キスをした瞬間、アンジェの体がぽわっ、と淡く光り出した。

「アンジェ?」

「え? あっ……」

目を開けたアンジェ、自分の体を、両手を見つめて戸惑う。

「これは……」

「僕も分からない。キスをしたらこうなった」

「……そっか」

戸惑いはほとんど一瞬だけ、アンジェはすぐに得心顔になって、いつもの愛くるしい笑顔に戻った。

「そっかって、どういう事? アンジェは何かわかったの?」

「はい! これはアレク様のおかげです」

「僕の?」

「はい。アレク様は神様ですから」

「厳密には神格者だね」

「神様にキスしてもらうと、神様の祝福と加護を受けられるって何かの本で読みました」

「……なるほど」

それは確かにアンジェのいうとおりだ。

神の口づけというのは、古来より神聖なるものとなっている。

実際にその通りなんだろう。

私のキスはそれと同じように、祝福と加護を授けるものになっている。

私自身、意図しなかったことで、ちょっとだけ複雑な気持ちだ。

「……でも」

「うん?」

「祝福とか関係なくて、アレク様とキスできて良かったです」

アンジェは手のひらを合わせて、それで口元を軽く隠す仕草をして、そんな事を言ってきた。

可愛らしい、というよりいじらしいアンジェの感想。

それは、私の複雑な気持ちをまとめて吹き飛ばしてくれた。

口元に自然と笑みがこぼれた。

アンジェの頬に手を触れて、もう一度キスをした。

「アンジェ」

「はい」

「大好きだよ」

はっきりと告げると、アンジェはものすごく嬉しそうな顔して、私に抱きついてきたのだった。