軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08.善人、女神をはめる

「本当ですか!」

「ええ、やってあげる。SSS君はそこそこ面白いしね」

「本当に、本当にやってくれるんですか」

「アレク?」

エリザが隣で不思議そうな目で私を見る。

それに気づかないフリをして、ユーノーを見つめ続ける。

「二言は無いわ」

「ありがとうございます! 早速アンジェに伝えなきゃ!」

「私も行くわ。今のあの子見てみたいし」

「アンジェの事を知ってるの?」

「SSS君と違う面白さなのよ、あの子」

「僕とは違う?」

「どういう事なの?」

アンジェの事は気になるのか、エリザが食い気味にユーノーに問うた。

「前世の査定だけで言えば、あの子はBランク程度だったの。その辺にいる、特にいいことをしたわけではないが、生涯悪事を働いたこともこれまたない」

「その程度じゃ……アレクの妻に産まれてくるには不足しているわね」

あごに手を当てて、真剣な顔でつぶやくエリザ。

「そう、運命で言えば、SSS君の妻になるにはSが必要、最低でもA。なのに彼女はB。どうしてだと思う?」

「……それ以前の人生が高かったから」

少し考えて、答えるエリザ。

「そっか。ユーノー様、さっき『だけ』っていったもんね」

「着眼点は正解、理由は半分だけ。まあ、当てられるものじゃ無いから教えるけど、彼女は過去九回の人生にわたって一度も罪を犯していないの」

「一度も?」

「そう、一度も。Bランクを九回繰り返した。そういう魂は特例でS相当の人生を与えられるの」

「そういうのもあるんだね」

「カードゲームの役みたいね。と言うことは他にも『役』はあるの?」

「あるよ。狙って出来る物じゃ無いけど」

「うん、そうだよね。生まれ変わるときに記憶なくなっちゃう。前世の事なんてわからないもんね」

私がそういうと、ユーノーはニヤニヤして私を見た。

これは……私が偶然記憶をもったまま生まれ変わったことを知ってるな。

まあ、聞くところによるとかなり高位な神様だし、さもありなんって所だね。

「ユーノー様」

エリザが真顔でユーノーを見つめる。

「もしかして、アレクが頼み込まなくても引き受けるつもりだったのでは?」

「正解。でもせっかくだしSSS君の普段とは違う所を見たくてね。ちょっともったいぶった」

「それはちょっとひどいですよ」

私はちょっと拗ねてみた。

「あはは、ごめんごめん。お詫びにちゃんと頼まれた事をやってあげるから」

「じゃあ、今からアンジェに知らせに行くから、一緒について来てくれる?」

「オッケー、行きましょう」

エリザとユーノー、二人と一緒に屋敷に戻ってきた。

屋敷の中に入って、メイドのアグネスがちょうど目の前を通りすぎていこうとした。

「アグネス」

「あっ! お帰りなさいませご主人様」

大きな布のような物を抱えているアグネス。

それで私が見えなかったこともあり、私に気づいて慌てて頭を下げた。

「あっ、エリザ……様も、ようこそ」

エリザを見て、今日はメイドモードじゃない――つまり同僚じゃ無くて客人だと分かり、そっちにも慌てて頭を下げた。

反応したのは私達にだけ。

一緒について来たユーノーは、再び姿を消したので、 私以外(エリザも) 見えなかった。

「なんか慌ててるけど何をしてたの?」

「実は今、みんなでアンジェ様の衣装を選んでるところなんです」

「衣装を?」

「結婚式の衣装、というかドレスです。結婚式にお色直しって必要じゃないですか」

「そういえばそうだね」

「アンジェ様がお色直しそんなにいらないっていうから、今みんなで数を絞り込んでる最中なんですよ。少なくなるのは仕方ないですけど、せめてアンジェ様の魅力がみんなに伝わるような少数精鋭を選んでます」

「そっか。何着くらいになるの?」

「はい、最終的には百まで絞る予定です」

「百!?」

びっくりしすぎて、ちょっと声が裏返ってしまった。

「それはちょっと多すぎないか?」

「え? でもご主人様達の結婚式って、一週間くらいやるんですよね」

「いや、そんなには――」

「そうね、それくらいが妥当ね」

一緒に戻ってきたエリザがアグネスに同意した。

「先帝陛下の時は丸一ヶ月帝都でそれをやっていたわ。アグネス、あなたの家はどうだったの?」

「お父様が結婚したときは三日くらいお祭り騒ぎだったって聞いてます」

「普通の貴族が三日、皇帝が一ヶ月。アレクはその間をとって一週間、妥当でしょう」

「そういう風に言われると……なんかそんな気もしてきちゃうね」

この辺はやはりナチュラルに貴族に生まれた人間の感覚なんだろうか、前世の記憶を引き継いでる私には

よく分からない感覚だった。

「じゃあアンジェの所に案内して」

「はい!」

アグネスは先導して歩き出した。

彼女に付いていって、アンジェの部屋にやってくる。

「アレク様! お姉様!」

部屋に入った私達を見て、アンジェは顔をほころばせた。

今にも駆け寄ってきそうな喜びようだが、メイドにドレスを着せられている最中だったので身動きがとれなかった。

代わりに私とエリザがアンジェの元に向かった。

「綺麗だよアンジェ」

「本当ですかアレク様!」

「うん。そのドレスはお気に入りかい?」

「はい。でも色々あって、どれにすればいいのか迷ってます」

「そういう時はね」

エリザが笑顔でアンジェにアドバイスする。

「どれを着たらアレクが喜びそうだって考えればいいのよ」

「はい! 全部それで選んでます!」

アンジェはやっぱりアンジェで、健気にも程があった。

「そういうことをアンジェに吹き込まないでくれ。アンジェ、僕じゃなくて、アンジェが着たいのを選べばいいんだからね」

「でも……」

「アンジェが僕を慕う気持ちなのは分かる。でもね、これは結婚式なんだ。結婚式の主役は花嫁。それは僕たちでも変わりは無いはずだよ」

「そうなんですか」

「そう。だから、アンジェが一番着たい物を選んで」

「……はい! わかりました!」

アンジェは素直な子だ、こう言えばその通りに選んでくれるだろう。

隣でエリザがやれやれって顔をしているけど、スルーしておいた。

「そういえばご主人様、アンジェ様になにかご用があったのでは?」

私達を案内してきたアグネスが言った。

「そうだった」

「私にですか?」

「うん。ユーノーを見つけてきた、ちゃんとオーケーも取ってきたよ」

「本当ですか!」

アンジェが驚き、喜び。

そばにいたメイド達がどよめく。

「さっきアンジェ様が言ってた結婚の女神のこと?」

「ご主人様すごいなあ……」

「アンジェ様おめでとうございます」

と、次々にいった。

どうやらアンジェは彼女達とそういう会話をしていたみたいだ。

「それでね、ちょっと当日の打ち合わせを簡単にやっておこうと思ってね」

「はい」

「最後の誓いの時、こう向き合うよね」

私はそう言って、アンジェと向き合う。

誓いの口づけをするときの気分だ。

「それで、僕はアンジェの肩にそっと触れる」

宣言したとおり、アンジェの肩に手を触れる。

すると。

「えええっ!」

「ど、どこから現われたのその女の人」

「神々しい……まさかこれって」

さっき以上にどよめくメイド達。

今、彼女達の目にはユーノーが見えている。

それまでいなかった女神を目にして、みんな驚き、そしてうっとりしている。

「アレク様、まさかその方が?」

「そう、結婚の女神ユーノー。基本はずっといるけど、私がこうしてアンジェに触れた時だけ、普通の人間にも見えるようにする。傍から見れば、僕たちのタメに降臨してくれたって見えるはずだよ」

「……すごい! ありがとうございますアレク様!」

私の演出にアンジェは嬉しがって、私に抱きついてきた。

ちら、っとユーノーを見た。

やってくれたね、って顔をした。

ちょっとした意趣返し。

ユーノーは列席するだけのつもりだけど、せっかくだから姿を見せてもらう。

アンジェのためにやってきた、という形にしたかった。