作品タイトル不明
16.善人、運命のくじ引きを用意する
手を振って見送ってくれた人魚を背に、私はアンジェと二人で階段を上っていった。
空間に板がそのまま浮かんでる様な階段で、私はちらっと後ろを振り向いた。
「どうしたんですかアレク様」
横を歩いてるアンジェが不思議そうに聞いてきた。
「ここの感じ、やっぱりシルバームーンの『霊地』、それにミア達の一族の聖地と似てるって思って」
「そうなんですか?」
「うん。ここに生まれて、ここに戻ってくるのが運命、みたいな場所。そういうことってよくあるのかなって思って」
「あると思います!」
アンジェがほとんど即答で、しかも力強く意気込んで答えた。
どうしたのかと彼女の方を振り向くと、高いテンションとキラキラした瞳で私を見ていた。
「どうしたんだい? アンジェがそんなに興奮するなんて珍しい」
「だって、私の運命の場所がアレク様のそばだと思いましたから」
「僕のそば? なるほど」
「はい!」
ますます高いテンションで頷くアンジェ。
運命の場所が私のそばか。
「一緒についてきたみんなも、きっとアレク様の民になるのが運命だったんです」
アンジェの純粋で無邪気な好意は、いつ触れても心地よいものだ。
「ありがとうアンジェ。嬉しいよ」
「えへへ……」
私の言葉に、アンジェはますます嬉しそうに笑顔になった。
運命の場所、か。
☆
翌日、テントの前に民衆を集めた。
土地の実質な所有者である人魚から許可を得たので、次は民衆を開拓の為に振り分けるフェーズに入った。
テントの前にちょっとしたお立ち台を作って、そこにまず一部の民衆を集めた。
「みんな、今日から本格的にここ、アヴァロンに入植する。そこで、みんなにそれぞれ担当して欲しい、住んでほしい場所を 記した(、、、) ものをここに用意した」
私が言うと、お立ち台の前に数人のメイドが進み出た。
メイド達は50センチ四方の箱をそれぞれ持っている。
箱は上部にまるい穴が空いている、よくある抽選箱の様な形だ。
「これで引きあてた場所に行って欲しい」
「抽選かよ、それじゃ運じゃねえか」
「やべえ所を引いたらどうしよう」
「いや信じよう、副帝様を」
ガヤガヤする民衆、戸惑いが不安もあるが、概ね好意的な所に収束していった。
「じゃあ、心の準備が出来た人から引いて」
「俺から行くぜ!」
即答で、一人の男が前に進み出た。
二十代の後半で、その後ろに赤ん坊を背負った女の人が一緒に出てきた。
服は質素だが、体はがっしりしてる筋肉質。
ここに来るまでは農家をやっていたんだろうな、と想像に難くない。
その男は「ふふん」って感じでちらっと背後を見て。
「俺が一番乗りだ」
「ああっ! やられた」
「くそっ、俺もさっさと出りゃ良かった」
「副帝様のやることを疑ってるからだよ」
様々な声の中、男は抽選箱の一つの前に立って、手を中に入れた。
「あれ?」
「どうしたのあなた」
男の妻が不安そうに聞いた。
「いや、箱の中からっぼ……だぞ?」
男は小首を傾げて、私に視線を向けてきた。
私は微笑んだまま見つめ返した。
どういう事なのか分からずに困る男。
しかし彼が箱から手を出すと。
「「「おおおおお!?」」」
民衆から声が上がった。
驚きの声だ。
箱からぬいた男の手がぼわあ、と淡く光っていたからだ。
その光がまるで紐でくくられた蛍の如く、手元から離れて、ゆらゆらとある方角に向かって飛んでいく。
「それについていって、場所に案内してくれるから」
「なるほど!」
「すげえ、魔法だよなあれ」
「なるほど、単に抽選するよりはわかりやすいな」
「さすが副帝様」
男の一家が光に導かれて去っていくと、残った民衆が次々と抽選するために出てきた。
「お疲れ様です、すごい魔法ですねアレク様」
私がお立ち台から降りて、離れた所で見守ろうとすると、いつの間にかテントの中から出てきたアンジェが話しかけてきた。
「あれなら混乱とかケンカも起きません。さすがアレク様です」
「それだけじゃないよアンジェ」
私はにこり、とアンジェに微笑んだ。
「え?」
「あれは『運命の場所』を探す魔法だ。人生が一番うまく行く、幸せになれる場所を占って導く魔法だよ」
「あっ……霊地の……」
「そういうこと」
にこりとアンジェに微笑み返した。
霊地とか聖地とか、そこから発想を得た魔法だ。
私が普通の知恵で考えて振り分けるより、占いを発展させた魔法で、その人にとって一番運命的な場所に導いた方がいい。
幸せになる、という設定だから、ブッキングも起きないし、よしんば起きてもそれは風が吹いた桶屋の様に幸せになるためのブッキングになるはず。
その魔法を、抽選という てい(、、) にして、民衆達に引かせた。
「あっ、でも」
「うん?」
「もしその占いがアヴァロンから出ちゃうことになったら?」
「その時はアンジェにお仕置きだね」
私はイタズラっぽく言った。
「えええええ!?」
「アンジェは昨日いったじゃないか、みんなは僕の民になるのが運命だったって。それが外れるって事だからね」
「あっ……じゃあ大丈夫ですね」
アンジェの反応はやや予想外で、驚いていたのに「それなら大丈夫」と素で思ってるみたいだ。
やっぱり。
アンジェの純粋で無邪気な好意は、いつ触れても心地よいものだ。