軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05.善人、神罰を天の恵みに変えてしまう

「うーん」

腕組みして、屋敷の廊下を歩く。

唸っているのは悩んでいるからだ。

次の七日までに、創造神の神罰を防ぐ方法を考えなきゃいけない。

だからまず賢者の剣に聞いた。

帰ってきた答えは大雑把にいうと「そんなものはない、もしあるとしたら力で上回って強引に防ぐ」というもの。

プラウの結界という方法も提案されたが、あれで私を無敵にしたとしても誰かを犠牲にするだけになるから、真っ先に却下した。

そして力で上回るということだが、それはどうやら間に合いそうにもない。

今でもロータスの力で常時魔トレ状態だが、次の神罰には間に合わない。

次の次……いやその更に次くらいか。

そこまでなら間に合うかもしれない。

「どうしたもんかな……」

「どうしたんですかアレク様」

「アンジェ」

いつの間にか目の前にアンジェがいた。

私と同じく十三歳。

この年頃の女の子はちょっと見ないうちに「化ける」ほど成長する。

アンジェも、すこし見ないうちに更に美しくなった。

「何か悩みごとですか」

「うん、ちょっとね」

「珍しいです、アレク様がそんなに悩むなんて。すごく大変な事ですか?」

「そこそこにね」

無駄に心配かけさせないためなのと、無駄に盛り上げないようにするのと。

神罰があったこととその先もあるかも知れないということは、メイド達に口止めしておいた。

アンジェやシャオメイなどは心配するだろうし、父上と愉快な仲間達は当日に生ライブのアリーナ席を求めてツアーを組みそうだ。

そうさせないために、その事は伏せてある。

「そうなんですか……」

「しばらく屋敷に籠もってるつもりだよ。そうだ、アンジェの練習を見てあげようか」

「そんな! もったいないです。アレク様のお力はもっといろんな人に使ってください。私なんかに使うのはもったいないです」

「そんな事ない、アンジェは僕の大事なお嫁さんだよ。アンジェのために何かをするのは、この世で一番『もったいない』から遠い事だよ」

「ありがとうございます……」

アンジェはその性格のまま控え目に、しかし嬉しそうに、上目使いで私を見た。

その瞳は純粋に憧れであり、稚気が多分に 残っている(、、、、、) 。

令嬢メイドや他の女性達とはまったく違う目だ。

「もうちょっと掛かるかな」

「え? 何がですか?」

「何でも無い。それよりもアンジェ、魔法の練習を見てあげる。大丈夫、いつもこうしてるから無駄はないよ」

「さすがアレク様です。私は毎日魔力を無駄にしちゃってます」

「魔力が余ったからって次の日に持ち越しとか出来ないもんね。使い切るにしても都合良く必要な場面があるわけじゃ……ない、し?」

言いかけた途中で、何かがひらめいた。

言葉が途切れ途切れになって、頭の中でそれを拾う。

「アレク様?」

「アンジェ!」

「は、はい!」

「僕に回復魔法をかけて」

「え? でも私の回復魔法じゃ――」

「お願い」

「分かりました」

真顔で言うと、アンジェはそれ以上拒まなかった。

両手をかざして、私に回復魔法をかける。

瞬間、ものすごいエネルギーが体の中に入ってきた。

アンジェの強力な回復魔法が体の中を満たす。

それを私は――。

「わわっ! か、壁が溶けちゃいました」

驚くアンジェ。

私が真横に伸ばした手、そこから放出した物が壁を溶かした。

どろりと溶けたそれをアンジェは。

「毒の魔法、ですか?」

といいあてた。

「うん、毒だね」

「はじめて見ました、アレク様が毒の魔法をおつかいになられるの」

「そうかもしれないね。でも、これで分かった」

「分かった? アレク様が毒の魔法も使えるなんて当たり前の事だと思うんですが……」

「そうじゃないよ」

私はアンジェの手を取った。

真っ直ぐ見つめて、微笑み掛ける。

「ありがとうアンジェ、キミのおかげだ」

「は、はい……」

アンジェはまるで狐につままれたようにポカーンとなった。

数日後、私は屋敷の庭に立っていた。

天気は晴れ、雲一つ無い晴れ渡った空。

その空を見上げる私に。

「そろそろね」

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

エリザとアンジェがつきそっていた。

エリザは平然としているが、緊張を隠しきれない様子。

一方のアンジェはエリザでさえそうなのだから、もっとはっきりと緊張して、アワアワしていた。

「大丈夫だよ、それよりもエリザ」

「なに?」

「なんでアンジェがいるの?」

「それはこっちの台詞」

「うん?」

「なんでアンジェに言わなかったの?」

「心配をかけてはいけないって思ってね」

「それは男の理屈。これくらいの大事、ちゃんと話さないとだめ」

「……そっか。ごめんねアンジェ」

「とんでもないです!」

アンジェはアワアワと手を振った。

「私、アレク様がそんなに大変な事になってることも知らなくて、お屋敷にいるアレク様に色々わがまま言っちゃいました……」

「……」

私は苦笑いした。

アンジェがわがまま? 思い当たる節がまったく無い。

むしろもっとわがままを言ってくれ、と思う位アンジェはいい子すぎる。

「まっ、話したからといって何がどうなるわけでもないけどね」

「そうなの?」

「私とアンジェがここであなたがアレに打ち勝つのを見る。それだけよねアンジェ」

「はいお姉様! アレク様を信じてます!」

「ほらね」

「そっか」

今度は普通の微笑みをかえした。

普通なら――十何年前かの私ならここで苦笑いの一つもしたんだろうけど、今はもうない。

むしろ、二人の期待に応えなきゃと意気込むまである。

「来たわね」

そう言って空を見上げるエリザ、つられるように見あげるアンジェ。

さっきまで雲一つ無かった空が、瞬く間に雷雲轟く真っ黒な空になった。

「少し離れて」

「前と同じでいい?」

「みた感じ前回よりもやる気だから、もうちょっと離れた方がいい」

「わかった。アンジェ」

「はいお姉様!」

エリザはアンジェを連れて、私のそばから離れた。

それを見送ってから、私は賢者の剣を抜いて、空高く突き上げた。

ここにいる、そうアピールするかのように。

次の瞬間、空から雷が落ちてきた。

私が攻撃に使う、賢者の剣に「降ろす」物よりも断然太く、凶悪な雷が。

体に圧が襲う、予想通り前回より強力なものだ。

質は一緒、量は前よりも多い。

完全に予想の範疇だった。

私はそれに抵抗する事無く受け入れた。

受け入れ、力の波を掴む。

ムパパト式に慣れ親しんだ私はなんなく波の波長をキャッチした。

キャッチしたそれを変換。

私の体に降り注いできた波を変えて、外に出す。

次の瞬間、私の周りに黄金色のボールが出現した。

魔力球、子供の頃よく作っていたそれを似たようなもの。

それをだした、次々とだした。

創造神の神罰を変換して、黄金色の魔力球にして外に放出。

一つ二つ三つ……際限なく魔力球が増えていく。

やがて、圧が弱まる。魔力球の生成も遅くなる。

完全に神罰が終わって、空が元通りの晴天に戻った。

「アレク様」

アンジェが私を呼んで、パタパタ走ってきた。

少し遅れてエリザも戻ってくる。

「お疲れ。考えたわね」

「今のを見てわかったんだ」

「ええ。防ぐのではなく、受け流す。そう言った類の物なんでしょう?」

「それだけじゃないよ」

「へえ?」

「アスタロト」

私が呼ぶと、どこからともなく豊穣の女神が現われた。

前もって言い含めてあったから、すぐに呼べたのだ。

「主様」

「これ、どうかな」

「文句のつけようがございません。私のよりも遥かに強力で、上質な魔力でございます」

「そっか、じゃあ全部アスタロトに預ける」

「承知いたしました」

アスタロトはそう言って、黄金の魔力球を引き連れて、どこへともなく消えて行った。

「どういう事なの?」

エリザが聞いてきた。

「アンジェからヒントをもらったんだ」

「私ですか!?」

驚くアンジェ、私は頷いて、説明を続ける。

「あの神罰の膨大なエネルギーをただ防ぐだけじゃもったいないってなってね。だったら変換して別の種類のエネルギーにしちゃおうって」

「あっ! 回復を毒に……」

「そういうこと」

アンジェに頷き、ついでに微笑みかける。

「あの女神に預けたのは?」

「変換したのは、そうだね、一言で言えば肥料みたいなもの。創造神の力のまま、大地に有益なエネルギーに変えたんだ、だからアスタロトに預けた」

「……ぷっ」

エリザは吹きだした。

「あは、あははははは。それは想像出来なかったわ」

何かすごく面白いものを見たかのように、エリザは腹を抱えて笑い出した。

「自分のことだけじゃなくて、大地の力に変えてしまうなんてね」

「上手くいって良かったよ」

「やっぱりあなたの方が合ってるわ」

「なんの話?」

「なんでもない、そのうち分かるかもだから」

「はあ」

なんだかよく分からないけど、エリザが楽しそうだしよしとしよう。

何よりコツを掴んだ。

創造神がこれから天罰を撃ってきても、それを何にでも変えられる。

その自信がついた。