軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06.善人、内乱を促す

夜、王国の迎賓館。

帝国の物に比べて華やかさは劣っているが、その分歴史と趣のある建物の前に、二組の人間達が対峙していた。

片方は迎賓館の方を向いている、今から来るもの。

王国の大臣が率いて、兵士が護衛している、ベールをかぶった美女が約十人。

もう片方はたった一人のメイド。

その正体を知ったらここにいるもの達が全員腰を抜かすであろう、国父のメイド・エリザだ。

エリザは冷ややかな目で大臣を見た。

「話は分かった。その女の人達をご主人様の 夜用(、、) に連れてきたって事ね」

「恐れ多くも、国父殿下の無聊をかこつ一助になれれば、と」

「うん、連れて帰って」

「それは……」

「ご主人様はそういうのが嫌いなの。貴族様達が娘を送り込もうとしてもことごとく門前払い、そうなったのを知らない訳じゃないよね」

エリザの言葉に、大臣は「うっ」となった。

「それは、いえ噂というものは――」

「ご主人様はそういうのが大嫌いなの。通してもいいけど、首が繋がったままここから出れる保証はしないよ」

「……」

迷う大臣。

エリザがすぅ、と道を空けたのだが、このまま通っていいものかという迷いだ。

彼はさんざん迷ってから。

「お忙しいところ申し訳ありませんでした。今宵のことは――」

「無かったことにしたげるから。あっ、普通のメイドならご主人様はそれなりだから、昼間になったら自分でご主人様に聞いて」

そう言い残して、エリザは迎賓館の中に戻った。

今の言葉の真意をかみしめようと眉をひそめる大臣をそこに置いたまま。

部屋の中でくつろいでいると、エリザが外から戻ってきた。

眉が綺麗に逆ハの字になってる、なんかちょっとだけ不機嫌みたいだ。

「お疲れ様。どうしたのエリザ」

「なんでもない」

「なんでもないって顔じゃないよね。なんだったの?」

「……女を送ってきた。ご主人様がどれほどアンジェ様の事を大事にしてるのか噂で知ってるはずなのに、むかつく」

頬を膨らませるほど怒りを露わにするエリザ。

このあたりの話を、一度腹を割ってじっくり話したいという興味がある。

メイドエリザ、そんな彼女が「アンジェ様」と呼ぶアンジェは、実は義理の姉妹という関係だ。

皇帝エリザ、の時はアンジェがエリザに懐いている感じで、メイドエリザの時はアンジェ様とか奥様とかいってエリザがあれこれ世話をする格好だ。

複雑な関係を実際どういう風に思っているのか、それに興味はある。

二重人格かもしれないという思いもあり、それはそれで面白いかも知れないと思った。

もちろん今は聞けない。突っ込んだ話が出来る状況じゃない。

部屋の隅っこにはリーチェとゼラ、部外者である二人がいるからだ。

だから私はメイド・エリザにねぎらうだけに留めておいた。

「ありがとうエリザ。キミがいてくれて助かったよ」

「ご主人様のメイドとして当たり前だから」

「それでもありがとう。さて」

来客が来て、エリザが応対に出た事で中断していた話を再開することにした。

普通のメイドなら止める必要はないが、皇帝エリザに直通するエリザにも聞いてもらおうと止めておいたのだ。

「これからどうするかなんだけど、まずは反乱を起こさせたいね」

「なっ!」

がたっ! とリーチェが椅子を倒して立ちあがった。

「それでは帝国に!」

「ごめん言葉が足りなかった。王国の内乱を起こさせたいって意味だったんだ」

「ない、らん?」

勢いがしぼんで、そのまま首をかしげるリーチェ。

「うん。帝国に対しての反乱なら帝国が鎮圧せざるを得ないけど、王国の中の内乱なら、王国で勝手に処理して、ってなるでしょ」

「……あぁ」

「どうやらね」

言いかけた時、天井からスタッ、と一人の少女が降り立った。

私の影の中に住んでいる少女達の中で、唯一メイドではない人間。

魔眼を持ち、かつては闇の中に住んでいた暗殺者の少女。

ドロシーだ。

彼女は実にいいタイミングで戻ってきた。

「どう、ドロシー」

「武器と食糧はもう揃ってる、姫の所在がはっきり分かれば動き出すって言ってた」

「そっか、ありがとうドロシー」

「ん」

ドロシーは微かに頬を染めて、短刀で影を切って、再び私の影の中に戻っていった。

「い、今のは?」

「別口で密偵を放っていたんだ。どうやら反乱はもう弓につがえた矢、放たずにはすまされない状態だね」

「……」

黙り込んでしまうリーチェ。下唇をかんで悔しそうにする。

私はこの状況を予想してたからそうでもないが、リーチェはくやしそうだ。

「だから、王国の内乱ということで事を起こして、ガス抜きして無難な所に着陸させたいんだ。内乱なら鎮圧した後、陛下は関与しないし、乱を起こした人はキミたちが処遇を決められるよ」

「……わかりました」

少し迷ったが、こうするしかない事を悟って、リーチェは苦々しい顔で頷いた。

「ということで」

私はリーチェを更に見つめた。

今まで以上の真剣な顔で。

「しばらくの間、つかまってきて」

「え?」

「何を言ってるのですか!」

唖然となってしまうリーチェ。彼女のかわりと言わんばかりにいきり立つゼラ。

私の言葉はある意味、「悪いが死んでこい」みたいに 聞こえる(、、、、) 物だったからだ。

もちろん、そんなつもりはさらさら無い。

翌日、王都の外。

来た時と同じ、アレクの自動馬車と、その前にずらりと並ぶ国王に文官と兵士。

「お世話になったね」

自動馬車の上から、アレクが国王をねぎらった。

「リンゴをもらっただけじゃなくて、護衛の兵士までつけてもらえるなんて」

「国父殿下の身の安全に勝る事はございません」

低姿勢で答える国王。

国王の命令で、アレクの自動馬車のそばに数十人の兵士が護衛している。

このまま帝国へ、皇帝にリンゴを献上するまで護衛するためにつけた兵士だ。

「ありがとう、じゃあ」

アレクは手を上げて、自動馬車を翻して、王都から立ち去った。

アレクが立ち去ったからといって、すぐに国王達も引き返せる訳ではない。

属国の人間として、アレクがいなくなるまで見送るのが礼儀なのだ。

それにのっとって、馬車と兵士を見送っていると。

「陛下!」

王都の中から、武官らしき男が駆け出してきた。

国王のそばに立ち止まった武官は汗だくで、何か急いでいる様子だ。

「どうした」

「姫様が……姫様を捉えました」

「まことか!?」

表情が一変する国王。

その周りの文官達もざわつく。

振り向く武官。

視線の先、後ろ手に縛られて、王都の中から連れ出されたのは、紛れも無くこの国の王女。

リーチェ・シルバームーンその人だった。

国王も、文官達も。

喜色をあらわに、色めき立つのだった。

王都から遠く離れたところで、リーチェが国王の前に引きずり出されるのを、エリザと二人で身を隠した状態で眺めていた。

「あれは?」

「今は本物のリーチェ姫」

「今は?」

聡いエリザはすぐに私の言葉に食いついた。

「うん、今は。説明するとね、あれは人間そっくりに作ったホムンクルスに、リーチェ姫の魂を入れた物なんだ」

「だから本物。そしていざって時は魂がこっちに戻れば」

「そう、ホムンクルスという真っ赤な偽物になってしまう」

私の言葉に、ノータイムでリレーのようにつなげるエリザの台詞。

エリザと交互に 語り(、、) 合うと、彼女はものすごく感心した顔をした。

「さすがですね、あんな風に『ニセの本物』を作れるのはご主人様だけ」

「ありがとう」

「あっちの馬車は?」

「アメリアに僕のフリをさせてる、魔法で外側だけそう見えるようにした。道中で僕っぽく、いくつか事件に首を突っ込んで人助けをして、って言ってある」

「王国の護衛兵達が伝書鳩になるって事ね」

「そういうこと」

父親である国王に罵倒されるホムンクルスリーチェ。

鈴付きの護衛兵に守られて去っていく私の馬車。

これで条件がそろった。

王国は、安心して反乱を始めるはずだ。

後は――王国内でせき止める対策だけだ。