軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.善人、不意を突かれても動じない

サネット村。

最近メイドになったアグネス・メンバーの父親、メンバー子爵の領地だ。

ここに私と父上が招かれた。

村はこの日、お祭り騒ぎだ。

中央の広場に二十メートルの高台があって、離れた所に私達のいる貴賓席がある。

高台は祭りの主役、そこから次々と男の子がそこから跳び降りている。

両足を魔法の紐でくくられて真っ逆さまに落とされるバンジージャンプ。

魔法の効果で、真っ逆さまに落ちても、頭が地面10センチというスレスレできっちりとまるという、確実に安全だがとんでもなく恐ろしいバンジー。

それをさっきから男の子達が次々と飛んでいる。

私よりも更に年下の、まだ10歳になったばかりの男の子達は当然の如く20メートルバンジーにものすごい悲鳴を上げる。

が、ごくごく稀に悲鳴を我慢 しきる(、、、) 男の子もいる。

その子には村人、それから私や父上、そしてメンバー子爵のような外部の観客が惜しみない拍手を送る。

魔法の紐で絶対に死なない、それどころかケガさえもしない。

そうと分かっていても、20メートルの高台から真っ逆さまに落とされて悲鳴を上げない子は中々いない。

「おもしろい成人の儀式だな」

今も悲鳴、そしておしっこをチビらせた10歳の男の子が紐から外されるのを眺めながら、父上が感想をのべた。

それに対し、メンバー子爵が答える。

「昔からのこの村の伝統ですな、この村の子は10歳になった歳からこれに挑戦する事ができ、無事悲鳴をあげずにやり遂げれば一人前の大人として認められる様になる」

「なるほど、本人の 胆(、) 次第か。年齢で一律に大人とみるよりはよほど合理的だ」

父上は真顔で言った。

いつになくまともな事を話すじゃないか――と思っていたら。

「アレクなら産まれた瞬間から大人だがな」

いつもとおりの父上だった。

さすが「父上と愉快な仲間達」の教祖なだけはある。

「さすが国父様ですな」

一方でメンバー子爵も、父上と話すときは普通なのに、私にはやたらと恭しい。

このままだと入信しかねない勢いだ。

成人の儀式は、サネット村をあげての大きな祭りだった。

思いっきり緊張している挑戦者の男の子をのぞけば、周りの大人達は飲めや歌えやの大宴会で、貴賓席にいる私達にも次々とおもてなしがされた。

「女の子達もかなり真剣なのがいるね」

私は高台から少し離れた所で、ある意味、男の子以上に真剣な面持ちで見守っている女の子の集団を見つけた。

女の子達は男の子と同じくらいの、10歳前後の子達だ。

「あの頃の子はおませさんですからな」

メンバー子爵は相好をくずし、楽しげに私の疑問に答えた。

「10から大人になれるから、男の子たちも早くから積極的に女の子達を口説いていくのです。これに成功すれば大人になって、家や畑を持てて、結婚も出来るようになりますからな」

「大変なチャレンジだね」

そうか、大人になるということはそういうことでもあるのか。

あくまで成功したという但し書きがつくけど、この村だと10歳から結婚出来るってわけだ。

「アレクは1歳からアンジェと婚約をしているがな」

「父上、そこを張り合うのは不毛です」

ちなみに貴族、公爵子息であり男爵だった私は、その気になれば父上のいうように一歳でも結婚は出来た。

政略結婚、跡継ぎ問題。

貴族には年齢を繰り上げててもさっさと結婚させなきゃという事情がいくらでもある。

なんなら両方腹の中――いや、生まれる前から婚約をすっ飛ばして結婚してる事例もある。

だからそれを持ち出すのは不毛で、私は話題を変えた。

「ということは、あそこにいるやけに威張ってる男の子が去年成功した子かな」

私は高台の向こうでふんぞり返ってる男の子を指さした。

いま挑戦している子達とほとんど年齢が変わらない、ガキ大将みたいな態度でふんぞりかえってる子だ。

さすがに個人個人の事までは知らないメンバー子爵が周りの村人に聞いた。

「どうやらそのようです。昨年ただ一人儀式に成功したという事ですな」

「なるほど。それは威張りたくもなるね」

昨年唯一成功したと言うことは、同い年で今年再挑戦してる子もいるわけだ。

それを下から、成功者の座から見あげるのだから、あんな態度になるのも当然だろう。

「それはいくら何でも失礼だぞ」

ふと、メンバー子爵の叱責の声が聞こえてきた。

見ると、さっき話を聞いた村人をメンバー子爵が怒っている。

「どうしたの?」

「申し訳ありません。村の者が、あの子を国父様が表彰してくれれば、今年の子も勇気を出せる言ってきたもので」

「それはいかん」

話を聞いた父上が即答した。

「ええ、まったくもってその通りで――」

「その話を断ってはアレクの度量が疑われる。それしきのことを拒むほどアレクは小さくないぞ」

いつも通り私を持ち上げる父上、が今回は同感だ。

いや小さいかどうかはどうでもいい。

私がちょっとあの男の子に言葉をかけるだけで他の子が奮起するのなら、わざわざ断る理由が何処にもない。

「うん、そうしようよ。あの子を呼んできてもらえる?」

「おお、さすがの懐の広さ。感服いたしましたぞ。おい君!」

メンバー子爵は早速村人に指示を飛ばして、村人が慌ただしく動きはじめた。

あの子が連れてこられるのを待つ間、私は父上に話しかけた。

「そういえば父上。チョーセンは今どうしてますか?」

「これまでも何回か私の目を盗んでアレクに近づこうとしたから、強めに言いつけて屋敷においてきた」

「そうなんですか?」

「うむ、さすがに公爵の私の命令とあっては守るだろう。しかしどうした、もう罰はいいのか?」

「それも踏まえて考えてます。エリザから、彼女は『切った』方がいいと忠告を受けたので」

「いけない、それはいけないぞアレク」

父上の反応は少し予想外――

「本当にそうしてしまってはアレクの度量が疑われる」

――もとい、いつも通りだった。

「皇帝陛下からの忠告なんですけど」

「そんなの関係ない」

と、父上はきっぱり言い放った。

皇帝陛下の言葉でも関係ないと一蹴するあたり、父上もまったくぶれない人だ。

「とにかく彼女の事を少し考えなきゃいけないと思ってるところなんだ」

「うむ、応援してるぞアレク」

「任せてとか頼ってくれとかはないんですか父上」

「アレクにそんなことが必要になったときは世界が滅ぶときだ! ならば素直に滅びよう」

お願いですから少しはぶれてください父上。

いやまあいいのだけれど。

そうこうしているうちに、私達のいる貴賓席に、さっきの男の子が呼ばれてやってきた。

後ろに女の子を一人連れている、彼と歳が同じくらいの可愛らしい女の子だ。

「あれが奥さんかな」

「そうだろうな。全ての帳尻があったという顔をしている」

「うん?」

「それが男――大人の男というものだ」

父上は珍しく――今度こそ真面目な事をいった。

大人、妻、人生の帳尻。

私も見た目通りの年齢ではない。

前世の記憶を持っていて、前世は「おっさん」と呼ばれる程度の歳までは生きた。

父上が言いたい事。

子供が生まれれば人生の全ての帳尻がある、という人間を何千人も見てきた。

それを同じ顔をした男の子――幼い夫婦が貴賓席に向かってくる。

男の子は自信と緊張、女の子は純粋に緊張からか額に大粒の汗を出している。

挑戦は一時中断している、祭りに参加した者は全員貴賓席を注目している。

さて、注目されているから、どういう言葉を 他の男の子達(、、、、、、) にかけようか、と思っていたその時。

「あ、あああ、うぅ……」

ほぼ目の前、会話が出来る距離までやって来ると、女の子が急にうずくまって、お腹を押さえて苦しみだした。

どうしたんだろう、と周りが駆け寄った次の瞬間。

「ぐおおおおおお!」

女の子の体が急激に膨らみ上がる、可愛らしい姿から異形の――魔龍の姿に変わった。

ソウルイーター、赤子の魂を宿主にしつつ喰らい変化する魔龍。

魔龍は周りの人間を――男の子含めて吹っ飛ばし、私に向かって前足を振り下ろしてきた。

開け放ったかぎ爪、それだけで貴賓席を覆うほどの巨大さ。

なぜあんな幼い女の子が? という疑問が、私の動きを普段よりも数秒遅らせた。

私をよく知る者ならば棒立ちに見えてしまったであろう、そんな数秒間の戸惑い。

初動が遅れた私の前に、一つの影が飛び込んできた。

真横にいた、ずっと黙々と給仕をしている村娘だ。

彼女は私の前に両手を広げて仁王立ち、私をかばうようにソウルイーターに立ち塞がった。

まったく躊躇のない動き、自分の命など少しも惜しくない動き。

「無礼者!」

「……チョーセン!?」

声、言葉遣い、そしてまっすぐ魔龍を睨みつけるその横顔。

父上が屋敷に置いてきたというチョーセンだった。

彼女は、死すら恐れない動きで私をかばった。

……そんな必要はなかった。

確かに戸惑った、確かに初動が遅れた。

それで魔龍ソウルイーターに先制されたけど、今の私にはそれくらいの事どうということは無かった。

右手を握って、引いてから振り抜く。

チョーセンの肩越しに、魔龍のかぎ爪と打ち合った。

ミシッ。

貴賓席の台座が少しめり込んだ。

ドゴーン!!!

ソウルイーターが空に向かって二十メートル、儀式の高台よりも高く吹き飛ばされた。

機を逃さずホムンクルスを作り、ハーシェルの秘法で魂を抜き、また戻す。

赤子の魂を抜かれたドラゴンは、みるみる内に元の幼い少女の姿に戻って、ゆっくりと私の力に包まれて、地面に着陸する。

まるで一瞬の幻、その場にいたもの達が全員きつねにつままれた様な気分になる中。

「ふん」

チョーセンは一人変わらず、傲慢な口調で。

「分をわきまえない慮外者ですわね」

事もなさげに、ソウルイーターの変化も気にも留めず。

今は倒れてる少女に吐き捨てたのだった。