軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07.善人、次元を切る刀を作る

翌朝。

「おははーごじゃます。あれくしゃま……」

夜のゴタゴタも魔法の効果で目を覚まさず、一晩中ぐっすり安眠していたアンジェが、いつもの愛らしい寝起き顔を見せてくれた。

「おはようアンジェ。さあ顔を洗っておいで。今日も一日素晴しい日にしよう」

「ふぁい」

寝ぼけた目のままにっこりと微笑むアンジェ。

そんな彼女を部屋から送り出した直後、まるで入れ代わりのように天井からスタ、と黒い影が降りてきた。

着陸する一秒後まで「黒い影」に見えるのはそういう技か、それとも他の何かは分からない。

現われたのはドロシーだった。

「おはようドロシー。昨夜はよく眠れたかい?」

「快眠だった」

「うん、それは良かった。ところで何処で寝てたの? アメリアさんに部屋を用意してもらおうとしたらいつの間にかいなくなってたけど」

「天井裏」

「天井裏?」

ドロシーは小さく頷く。

省エネ仕様なのか、普段は声が小さく平坦で、こういう仕草も静かなものだ。

「ここの天井裏」

よどみなく答えるドロシーに、私の方が逆に首をかしげた。

「この屋敷に天井裏なんてあった? かなり無駄のない設計になっているはずなんだけど」

「あった。奥まってて、狭くて、ジメジメしてて」

「あらら」

「すごく快適」

「あっ、それで快適なんだ」

「屋根裏・オブ・ザ・イヤー」

すごく彼女「らしい」返答だった。

今でも寡黙で、聞かれた事以外はあまり答えないドロシー。

生まれつきそういう性格なのか、それともそう育てられたのかは分からない。

ふと、気になって彼女を「見た」。

神格者の能力、神魔法の一つ。

その者の魂の、今のランクを見る。

前に作ったメガネとは違う、過去じゃない、今のランク。

昨夜天使にやってもらったような、今死んで最後の審判をしたらどうなるのかって見るものだ。

結果は……悲しいものだった。

魂は黒い、あるいは暗かった。

暗殺者――人殺しを長くやってたせいか、ドロシーの魂はランクが低く、黒くて暗かった。

そのせいでジメジメとした狭いところが好き――とは思いたくないところだ。

「僕は今日出かけるけど、ドロシーはどうする?」

「……」

ドロシーはそわそわして、迷いも見せつつ、口籠もってしまった。

「どうしたの?」

「ついていきたい。恩返し、しなきゃ」

「なるほど」

今度は私を恩返しの対象に決めたみたいだ。

それはとてもいい事だ。

私ならカーシーの様な事はさせないし、ドロシーが「恩返し」と口にした時の頑固さは知ってるから、それはいい事だ。

今からでも、私が誘導して善行を積ませてあげればいい。

いい……のだけど。

「ついていきたい、って事は来られない何か原因があるの?」

「外、天気いい」

「いいね」

私は窓の方をみた。

早朝ながら、差し込む朝日は一日の快晴を予感させるものだ。

「明るいところは、タブー」

「暗殺者として?」

静かに頷くドロシー。

「ジメジメしたところに行くなら、ついていく」

「うーん」

私は考えた。

どうしたものか。

コンコン。

「――っ!」

ドアがノックされるなり、ドロシーはビクッとして、シュパッ! と天井裏に消えて行った。

瞬きをする間に消えてしまった、私じゃなかったら見逃してた、すごい身のこなしだ。

「アレク様、お食事の用意が出来ました」

部屋の外からアメリアさんが告げてきた。

「ありがとう、すぐいくよ」

「かしこまりました」

アメリアさんの足音が徐々に遠ざかっていく。

それがほとんど聞こえなくなってから、再びスタッ、とドロシーが降りてきた。

東の国にニンジャという人種がいるけど、賢者の剣から聞いたそのニンジャ達そっくりな行動だ。

「朝ご飯?」

「そうだよ」

「そう……」

「どうしたの?」

「屋根裏から食堂に行けない」

「なるほど」

「恩返ししなきゃなのに……この屋敷はむずかしい」

「うーん」

私は考えた。

「ずっとついてきたいの?」

ドロシーは静かに頷いた。

「そっか……じゃあちょっと待ってね」

賢者の剣に触れて、知識を求める。

思い出したニンジャ、そのニンジャとドロシーの共通点を、上手くすりあわせて。

それが出来る道具を、賢者の剣に知識を求めた。

「十分くらい待っててくれる?」

「分かった」

ドロシーはそう言って、再び天井裏にシュパッと消える。

やっぱり、ものすごい身のこなしだった。

準備する事、きっかり十分。

もの(、、) を用意して寝室に戻ってきた私の前に、ドロシーは再び現われた。

「ただいま」

「……」

「はい、これ」

私はドロシーに短刀を差し出した。

屋敷に住み着いた、帝国の守護竜カラミティから鱗と爪、そして血を少しもらって作った短刀だ。

「これは?」

「前の武器のかわり、持ってないみたいだから」

「……いいの?」

「あった方がいいでしょ。それに、これがあれば僕についてこられるよ?」

「???」

どういう事なのか分からない、って顔をしながらも短刀を受け取るドロシー。

「簡単に説明すると、その短刀で誰かの影を切ると、その影の中に潜り込めるって能力を持ってるんだ」

「影を?」

「うん、やってみて」

そう言ってドロシーを促した。

朝日に照らし出されてる私の影を、って意味だったんだが、彼女は自分の影を斬った。

直後、ドロシーの体は自分の影に吸い込まれる。

まあ、別に自分の影でもいいんだけど。

しばらくして、ドロシーが出てきた。

「どうだった?」

「ジメジメ、暗くて狭かった」

「そうなんだ」

「ベストプレイス」

それはどうだろうかと苦笑いした。

「馬車に乗ってるみたいだった。多分」

「うん、その人にくっついて移動出来る。今度は僕の影に入ってみて」

「わかった」

ドロシーは言われたとおり、今度は私の影を斬って、そこに吸い込まれた。

テストもかねて、私は移動した。

部屋を出て廊下を通り、洗面所に入る。

そこでドロシーが再び現われた。

「うん、こんな感じだね。これで僕についてこられるよね。屋根裏がなくても」

「……」

「どうしたの?」

ドロシーが何故かすごく困っている顔をした。

「お前の影、居心地悪い」

「え?」

「明るくて、広くて、なんか神々しい」

「神々しい」

「綺麗な水に魚は住めない」

「難しい言葉をしっているね」

しかし神々しい、か。

彼女のは暗くてジメジメだったから、魂の差……なのかな?

なにかしてやった方がいいかなと思っていたが。

「でも、一人っきりだから、いい」

ドロシーは私が渡した短刀を大事そうに抱えた。

「これで、ついていく」

「うん、ついてきて」

ドロシーは頷き、再び私の影を切って。

居心地の悪い影の中に、しかし心なしか嬉しそうな顔で潜り込んでいった。