軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第95話 我慢できる

何だか春はまだ少し先なのだが、我が家周辺だけ春がやって来てしまったかの様に、あっちでラブラブ、こっちでラブラブと、

『ホントにどれから見て良いか迷っちゃう!』

と成立したカップルを観察したり、してめでたい反面、あまりのラブラブっぷりに気まずい冬を何とか耐え抜いている。

そして、現在居間にて僕は、

『いや、ライト兄さんは家を建てる相談もあるからまだ分かるが、なんでクリスト様まで我が家に毎日の様に通ってくるの?』

というツッコミを入れたい気持ちを、

『邪魔しない様に…』

と、我慢した僕を褒めてやりたい。

そんなラブラブムードに対抗してか鍛冶職人のバラッドさんとキミーさんのドワーフ夫婦までなぜか最近ラブラブなので農場担当のノリスさんとマイラさんご夫婦が、

「旦那様…我々も…その…」

と、不安そうに、

『何かイチャつかないと駄目ですか?』

みたいな顔で相談したのを、

「是非、普通でお願いします」

とだけ言った程に我が家は異様な冬を過ごしている。

そして、ラブラブの熱気にでもやられたように寒さも和らぎ、

「もう雪も降らないだろうし、そろそろ…」

と、僕は王都へ向かう準備をし始めたのである。

王都に行って国王陛下にご挨拶をして、カサールの町に帰ってくるエルバート師匠を迎えに行くのがメインであるが、サブイベントとして国王陛下にカサールで作った新型ゴーレムを一台献上して、今回パイロットとして訓練に派遣された騎士さんが王都にて、あちらで作っているゴーレムとガチンコゴーレムファイトを行うらしく、新町のゴーレム工場近くの空き地では、今日もカサール子爵様が王都から乗り手としての訓練に来た騎士団の方々を集めて模擬戦を繰り返している。

さて、ライト兄さんの護衛も兼ねている王都からの騎士団が王都へゴーレムを持って帰還するとなるとライト兄さんの護衛はどうなるかという問題が出てくるのであるが、王都まではカサールに来ている騎士団の方々が僕の護衛を引き受け、帰りは王都から新たに派遣される騎士団が僕の護衛するので、

『ジョン殿の護衛を一名ばかり、ライト殿専属で…』

と、ライト兄さんの護衛チームである彼らからイヤらしい笑顔で頼まれてしまい、

「いえ、私も主殿と…」

と言ってくれたイデアさんを『仕方なく…』風な感じを醸しつつノリノリでライト兄さんの専属として残す事にした。

という事で、普段は過度なラブラブの邪魔になっていたであろう、お目付け役のバルディオパパは王都までの護衛として連れ出すというナイスなアシストまでした僕に対して、ライト兄さんにはメチャクチャ感謝して欲しいものである。

今回の王都行きは、魔力供給魔道具やカサール子爵家の秘密兵器であるバーストショットなどの僕が関わった品々をついでにご披露する事になっており、ゼルエルガさんとカイン君に加えてクリスト様まで一緒なので、

『まぁ、元は遠隔操作が基本のゴーレムだからゴーレムマスターのクリスト様が居れば荷馬車から勝手に降りて暴れる新型ゴーレムや、魔法師が少ないニルバ王国とはいえ、普通でも他国の魔法師に負けないゼルエルガさんが新型魔法師専用武装を装備している馬車を襲う馬鹿は居ないよ…地味にバーストシリーズという武器もあるし、遠距離から近距離まで隙がないもん…』

という状態で、道中は大型魔物でも問題なく蹴散らす戦力なのである。

しかし、安全だからと言って我が家の子供達を社会見学の為に連れて行くには流石に王都は遠いし危ないので今回は、

「国王陛下からの呼び出しだから…」

という理由で子供冒険者チームにはリーグさんを残して近隣で狩り等をしてもらう事になり、我が家からは商談役のテイカーさんとバルディオさんに僕という男三名での旅となっている。

旅立つ前日に我が家では僕の記憶から再現したが、材料や知識不足の為に微妙に違うクリームシチューや唐揚げなど、美味しいがモドキの域を越えていない料理を並べてホームパーティーをすることにした。

しかし、いつもはこういったパーティーではお酒を片手に一番盛り上がるドワーフ奥様のキミーさんが全く飲まずにチビチビとパンを齧っており、僕は、

「ゴメン…キミーさん体調悪かったの…無理しないでね」

と彼女を心配するとキミーさんは恥ずかしそうに、

「いや…体調が悪い訳では…ねぇ」

と言って、バラッドさんを見つめ、またモジモジすると、

「当面はお酒を飲まない事にしたんだ…」

と宣言して、彼女が自分のお腹をさするのを見た我が家の女性陣が、

「えぇ、おめでとう!」

「もう、それなら早く言ってよ」

などと最高潮に盛り上がり、バラッドさんまでパーティーのメインに担ぎ上げられ、

「いつ頃産まれる予定だい?」

などと、完全に旅立つ僕たちは主役の座から外れたままで、

『おめでたか…』

と納得はしたが、

『行ってらっしゃいパーティーだったのでは?』

と少し寂しさを感じる夜だった。

とまぁ、そんなこんなで旅立つた僕たちは我が家の幌馬車にて、

「ねぇ、カイン君…何もこんな風が吹き抜ける幌馬車に乗らなくてもカサール家の貴族馬車なら暖かいでしょ?」

と、カイン少年に言うのだが、彼は、

「いえ、弟子の前では師匠も一人の女性の顔をクリスト様に見せれませんから…弟子としての気遣いですから…それより無理を言って乗せて頂きありがとうございます」

などと丁寧なお礼まで…

『本当に彼は少年なのか?』

と、自分よりも二周目感の漂うカイン君と共に幌馬車に揺られながら、まだ見慣れたカサール近郊の街道を進みつつ、

「王都ってどんな所かな?」

と、素朴な質問をする僕にテイカーさんが、

「じつは私も王都は初めてでして…手前の上級ダンジョンの町であるグロースの町までなら何度か行きましたが…」

と話してくれ、バルディオさんも、

「まぁ、貴族や大商人でもないと王都に入る事なんて有りませんからね…自分も若い頃にグロースまでしか行った事が…」

といっていたので、王都と呼ばれているエリアは基本的には各地の貴族の別邸や大商人の本店に、学校に研究施設などニルバ王国の中心となる重要エリアを指し、我々平民や冒険者などは王都から馬車で二時間程の位置にあるグロースという町が王都代わりの栄えている町らしく、カイン君の話では、

「王都には町に入るだけでもチェックが厳しく、問題を起こすとすぐに追い出されますので何処の町より安全なんですよ…まぁ、私はそこが余り好きではないですがね。 ジョン殿のお家のように珍しい食べ物は無いかも知れませんが、買い食いなら断然グロースをオススメします」

と教えてくれたので、僕は、

「そうか…グロースの町の方が楽しそうなんだ…」

と、既に国王陛下との謁見という面倒臭いイベントを完全に忘れて、

「上級ダンジョンなんてどんな所かな…」

などとグロースの町の魅力に心を踊らせていると、バルディオさんが、

「あそこのダンジョンはBランク以上しか入れませんので…主殿が潜るにはAランク冒険者パーティーに参加するか、ランクが上がるまで他の所で依頼をこなして頂かないと…」

と悲しいお知らせをしてくれた為に、僕は現実に引き戻されてしまい、

「Cランクにはまだ楽しめないのか…」

と落ち込んでいると、馬車を操るテイカーさんが、

「旦那様、ダンジョンに潜らずとも猛者達がダンジョンで手に入れた数々のアイテムが手に入る数少ない場所ですよ」

と言って、そしてテイカーさんは、

「私も昔、荷馬車の荷物が全て入る程のダンジョン産のマジックバックが欲しくて仕入れのついでに立ち寄りましたが大金貨百枚前後と手も足も出ずに帰りました。 しかし旦那様の資金であればダンジョン産のマジックバックでも余裕で購入出来ますので…」

と、ワクワクする情報を教えてくれ、それを聞いた僕は、

「ダンジョン産のマジックバッグかぁ…」

と、この王都までの長旅も、面倒臭い国王陛下との謁見も余裕で我慢できる気がしたのだった。